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報告

翌日、目を覚ましてすぐにベランダに出たが、ムトはいなかった。

夢で見たからいるかもしれないなんて、都合が良すぎる考えだった。

この三日間の疲れが出たのか少し長く寝てしまっていて、着替えて一階に降りると母と伯母は片付けを始めていた。

「アキラやっと起きたの?台所におにぎりがあるからそれを食べて手伝ってちょうだい。」

気づいた母に言われて、もう殆ど終わっていた片付けを少しだけ手伝った。

片付けが終わると大人達だけで今後の話し合いをするそうで、突然暇になった私は散歩に行く事にした。

まずは商店街に行き酒屋さんと駄菓子屋さんに挨拶をし、次にスーパーマーケットに行き部屋にこもるための食料と出かける時に母に頼まれたお弁当を人数分調達した。

スーパーマーケットの店長さんは探したけど見当たらず、近所の畑のご夫婦も今日は来ていないようで挨拶ができなかった。

帰宅してお弁当を台所に置き、私は二階の東側の部屋に行った。

お昼ご飯を食べる時以外は部屋にこもり、宿題をしたり、友達と連絡をとったり、動画を見たりしながら過ごしていた。


ふと、外を見た時に明るい日差しに混じってキラキラ光るものが見えた。

いつの間にか天気雨になっていた、時間は十四時十二分、前ムトに会った時とほぼ同じ時間と天気。

もしかしてと思い急いでベランダへ出て隣の部屋のベランダを見たら、ムトはいた。

勢いよく出てきた私を見てムトは一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに優しく微笑んでくれた。

「どうしたの?」

過去に二度も聞いた言葉だけど、雰囲気はそのどちらよりも明るいものだった。

「報告しようと思っていて、会いたかったんです。何度か来たけど会えなくて、何かで見たんです、いくつかの状況が重なると違う世界の人やこの世の物でない者と会えるって。もしかしてムトってそういう存在かなって思って、十四時頃の天気雨が条件かなって思って急いで出てきました。」

夢で見たあまプリの話をする幼い私のように早口で話した。

「うーん、そうかもしれないね。でも僕から見たら君の方なんだけどね。」

まあ、確かにそうも見えるかのかな?ちょっと難しいなと思いながらもそれはひとまず置いておいて、葬式の事と夢で見た事を話したかった。

「おじいちゃんのお葬式は無事に終わりました。」

「そっか。」

「もうすっごく泣きました。人前で声を出して泣いたのは久しぶりです。両親以外の人もいる所では小学校低学年以来だと思います。」

「怒られたり恥ずかしいって言われなかったでしょ?」

「はい、それにみんな泣いてました。私の母もちゃんと泣いてました。」

「そうか、幸せな最期だね。」

ムトはそう言って遠くを見つめた。

少し時間を置いてから、私はゆっくりと話し出した。

「昨日夢で見たんですけど、私の小さい時にもムトと会ってますよね?」

あの夢はたぶん私の忘れていた幼い時の記憶。

「うん、やっぱりアキラちゃんか。前会った時よりかなり成長しててすぐには気づかなかったよ。」

ムトは私に笑顔を向けながら言った。

「夢の中でもムトは同じ姿でした。だからたぶん同じ世界の人間じゃないと言うか、生きている時が違うというか、そんな気がしたんです。」

「そうだね、よく気がついたね。」

ムトは私より早くに気づいていたようで、少し意地悪に笑いながら言い、続けて話し始めた。

「でもアキラちゃんのおじいちゃんと赤ちゃんの頃からの知り合いって事は本当だよ。」

おじいちゃんも私みたいな不思議な体験をしていたのかもしれないと私は思った。

「あ、そうそう、君の事も赤ちゃんの時から知ってるよ!」

「えっ?五歳は赤ちゃんじゃないですよ?」

私の返事にムトは、ははっと笑って見せただけだった。

きっとムトはまだ何か知っているんだと思う、けどムトが教えてくれないなら聞く必要はない事なんだと思い、別の話題を出してみた。

「このベランダの柵に絡まっているピンクの花、アサガオに似てるけど確かおじいちゃんが違う名前で呼んでました。この花の名前わかりますか?」

「これはヒルガオだよ。おじいちゃんがアサガオと間違えて撒いたら増えちゃって困ってたよ。」

増える?種が落ちたのかな?と想像できないでいる私に気づいたムトが説明をしてくれた。

ヒルガオはアサガオと違って多年草地下茎で増える。

ベランダを支えている柱の根元の地面に直接撒いてしまったために駆除ができなくなってしまったらしし。

おじいちゃんもおっちょこちょいな所があるんだなと、また知らないおじいちゃんを知れて嬉しく思った。


少しの間、ヒルガオや外の景色をそれぞれ眺めていたけど、そろそろ雨雲が通り過ぎそうな気がして私は話し始めた。

「私、明日の昼に家に帰ります。帰ったら暫く会えなくなりますね。もしかしたらもう…」

ムトがどんな存在であったとしても、会えなくなることは悲しくて最後まで言えなかった。

それを察したのか、ムトが話し始めた。

「僕はアキラちゃんを護るムトだから、いつでもそばにいるよ。」

優しく笑顔を向けてくれた。

「うん、そんな気がする。」

私もムトに笑いかけた。

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