思い出話
天気雨は通夜が始まる前に止んでいたが、日付が変わる頃にシトシトと本格的な雨になりまた降りだした。
その雨は翌日も降り続け、葬儀を行うには厄介だった。
皆様お足元の悪い中…から始まる挨拶を正式な場で初めて聞くことになった。
ご近所さんもかなり参列してくれており、おじいちゃんとのお散歩で行っていた商店街の酒屋のおじさんや駄菓子屋のおばあさんとおばさん、スイカをくれた畑のご夫婦にスーパーマーケットの店長さんまで来ていた。
温厚で人当たりの良いおじいちゃんだったからみんなに慕われていたんだなと嬉しく思った。
そんな雨の中でも葬儀屋さんは慣れたもので、葬儀は粛々と執り行われていた。
でも葬儀屋さんの司会ってなんだか涙を誘う言い方をしているように思えて少し腹が立った。この葬儀屋だけだろうか?
葬儀の打ち合わせの時の事だが、孫からの言葉を言うかどうかということを聞かれた。
泣かずに話したら薄情者と思われるかもしれないし、かと言って泣いてしまったら話などできないに決まっているので断ったが、みんな言うものなのだろうか?
私達は火葬場へ向かう事になった。
この辺でようやく落ち着いたので辺りを見渡してみたが、ムトの姿はなかった。
通夜にもいなかったと思う、親しいと言っていたが嘘だったのか、と少し考えたがなんとなくそれは本当だと思ったし不法侵入した悪い人とも思えなかった。
きっと何か理由があるのだろう、深く考えずにおじいちゃんとのわかれを噛み締める事にした。
泣いていた人達もこの辺りまで来るとだいぶ落ち着いていて、親族だけになったのもあってかそれぞれにおじいちゃんとの思い出話をするようになっていた。
それは少し目は潤んでいても、笑いながら楽しそうに、今でもおじいちゃんが生きているような話し方だったりして時々錯覚してしまいそうになった。
食事の席ではお酒の入った伯母の旦那さんが、結婚の挨拶に行った時の事などを泣きながら大声で語っていて伯母が肩を叩きながら静止しようとしていた。
その後も皆それぞれに思い出を語っていた。
小学六年生の母と中学三年生の伯母の姉妹喧嘩がなかなか治まらず遂には手が出始めた時、普段温厚なおじいちゃんが大声で止めに入り更には二人の頬にビンタまでした話には凄く驚いた。
私の知らないおじいちゃんをたくさん知れて、少し楽しくもあった。
私もおじいちゃんの家に来た時は散歩をして、ご近所さんからスイカを貰ったこと、商店街の酒屋のおじさんと仲が良かったおじいちゃんはお酒はあまり飲まないのによく話をしていたこと、それに付き合っている私が飽きてきた事に気がついては隣の駄菓子屋さんで幼い私が好きだった「あまあまプリンセス」という女児向けアニメのシール付きのお菓子を買ってもらっていたこと、そのシールをおじいちゃんの家の中にたくさん貼り付けたことなどを話した。
泣いてしまうかと思ったけど、それ以上に楽しく温かい気持ちになった。
こうして段々と故人とのお別れを整理して理解していくために葬式が行われるのかなとその時思った。




