メンクイの乱
時は戦国、ある知略に優れた大名が天下統一に王手を掛ける。
その大名が配下の武将を集め宴を開いた時にそれは起こった。
最初は細うどん派の武将と太うどん派の武将が、自分が推すうどんについて互いに意見を交じえていただけだったのだが、段々と興奮して激高し感情論の言い合いになる。
近くにいた武将が2人を宥めようと、「まぁまぁ、細いのも太いのも何方のうどんも、それぞれ美味しいじゃないですか」と口を挟む。
それに対し細うどん派と太うどん派の2人の武将が何故か、口を挟んだ武将に同じ罵声を浴びせる。
「「喧しい! 米どころか小麦も生産できずに蕎麦を食ってる貧乏人が知ったかぶりするな!」」
「な、何だとー! 言うに事欠いてそれを言うのかー!」
2人の武将に罵声を浴びせられ脇差しを握りしめた武将を見て、傍観していた周りの他の武将たちがそれぞれ声を上げながら睨み合っている3人の間に割って入った。
「小麦を材料にした麺はうどんだけでは無いですぞ、大陸から入って来たラーメンも美味しいですからな」
「南方からもたらされたスパゲッティもなかなかいける麺だぞ、同じように南方から入って来たトマトという野菜の汁を絡めて食べる麺なのだ」
「イヤイヤ素麺も美味しいですぞ」
「冷麦も……」
睨み合っている3人の武将の間に割って入った武将たち皆が皆、自分が推す麺の自慢を始めた為に収拾がつかなくなる。
それを見て宴の主催者である酒を飲みすぎて酔っ払った大名が皆に声を掛けた。
「静まれぇー! 何が麺だ、米を食え米を。
麺なんて物は米を食い飽きた時に米粉から作るビーフンやフォーでたくさんだ」
その言葉に対し喧々囂々と掴み合い寸前だった武将たちの間から反論の声が上がる。
「御館様だからとて言って良い事と悪い事がありますぞ。
御館様の傘下に収まる際に我らは、米が沢山収穫出来る地を献上している。
だから我らは収穫量の少ない米の代わりに小麦で麺を作り、腹を満たしているのですぞ」
「「「「「「そうだ! そうだ!」」」」」」
別な武将も声を上げた。
「米粉にするほど米が有り余っているなら我らに下賜して欲しいですな」
「「「「「「そうだ! そうだ!」」」」」」
「き、貴様らー、儂に逆らうとは良い度胸だ、叩き切ってやる」
「「「「「「望むところだ! あんたの傘下から離れ俺の推す麺が一番だと天下に知らしめてやるわ!」」」」」」
武将たちはそう啖呵を切ると宴会の場から飛び出し、各自の領地に走った。
此の事により戦国の世が統一されるのは数十年延びる事になる。
後世の人々は此の宴の事を麺喰い(メンクイ)の乱と呼び、此の事を戒めにして各自が好きな麺を食べても他人に好きな麺を勧める事を自粛するのだった。