登場人物紹介②+短編 ※二章までのネタバレあり
■ジョエル
ヴァナディース教会に勤める助祭。
孤児院出身の青年。人目を引く美貌の持ち主。ルークス教国で起こった連続殺人事件の際、二班の捜査に協力する。
不真面目な態度が目立つも根は優しい。得意な事は家事全般。
■スヴェン
四班班長。
女好き。軽薄な言動が目立つも洞察力は高く、一級術師という最上級の資格も持っている。
仕事中にも関わらずナンパをする問題児。
■リーナ
四班班員。
医術師だが訳あって近接戦闘までこなす事が出来る、らしい。しないが。
可愛い物に目がなく、隙あらば何でも持ち帰ろうとする問題児。以前魔物まで持ち帰ろうとして怒られた。
■ネル
四班班員。
正義感が強く、自分の信念を曲げない女性。
思いが強すぎるためか、たまに全く指示を聞かなくなる問題児。
■シモン
四班班員。樹海に住まう少数民族。その一族に伝わる特異体質を持つ。
研究のため彼を執行部に縛り付けているが、闘争の場を与えてくれる術師協会にはむしろ感謝しており現状に不満はない。
戦闘時、何かと物を破壊する問題児。
* … * …* … * …おまけの短編* … * … * … * …*
「ジョエル兄ちゃん、なんか手伝う?」
エレナが俺に声をかける。
久々に孤児院へ帰った日の夕方、折角だからと夕飯の準備をしていた。料理は嫌いじゃない。前々からエリノアを手伝っていたしむしろ得意だった。
「いいよ、あぶねーから。向こうで遊んでろ」
雑に答えるとエレナは台の上に置かれている果物を指差す。俺が孤児院に来る途中、俺が差し入れにと買ってきたものだった。
「それ、切るのは?」
「机まで手が届かねーだろ」
「これ、乗ればだいじょうぶ!」
「そんな不安定な台駄目に決まってんだろ」
エレナの目が潤む。泣かせようと思って言ってるんじゃない。怪我をさせたくないからこそ止めてるのだが子供にそれを伝えるのは難しい。周囲を見渡し何かないか探すと視界の隅に丁度良いものが映る。
「じゃあこれ、ホールに運んで」
俺の指が示すのは食器の山。孤児院の人数分だから結構な数となっている。スープを煮込んでいる間に運ぼうかと思って放置していたが正解だった。
仕事を託されたエレナの顔に笑顔が広がった。
広げた手の間に積み上げられた半分の食器を乗せ、静かに離す。重みで腕が沈むもすぐ持ち直した。
「ゆっくり運べよ」
「まかせて!」
緊張しているのか歩幅は妙に狭い。慎重に机に置くと駆け足で戻ってくる。そしてまた手を広げ、次の食器を催促していた。残りの食器を乗せながら問う。
「なんで急に手伝う気になったんだよ」
「だってジョエル兄ちゃんばっかいろいろやって大変でしょ? 手伝えば兄ちゃんもうれしいかなって」
予想外の回答だった。急に手伝う気になったのは遊びの延長かと思ってたが違ったようだ。最近まで遊びが最優先で我儘放題だったのに。
「エレナは偉いな」
「えへへっ」
エレナも成長している事を実感し表情が綻ぶ。
頭を撫でようと手を伸ばした所で腕が止まった。見えないものに掴まれたかのように硬直し、それ以上動けない。
「どうしたの?」
不自然な恰好で止まる俺を見てエレナは首を傾げた。伸ばしたままの手でホールを指差し無理矢理笑顔を作る。
「ついでに並べといて」
「はーい!」
二回目で余裕が生まれたのか、促されたエレナは小走りでホールに向かった。走るなと注意するが帰ってくるのは適当な返事のみ。落とさないか見守っていると無事に机まで到達。そのまま椅子の前に皿を一枚一枚配り始めた。溜息をつきながら手を戻すと僅かに震えているのに気が付く。
俺は、無意識にエレナに触れるのを避けようとしていた。
当たり前だ。こんな汚れた手で、彼らを触れるものか。
クソ大司教から、ゴミ共から受けた行為を思い出し吐き気が込み上げる。死にたくなる衝動を抑え込み視線を戻した。大丈夫だ、まだやっていける。そう自分に言い聞かせる。
俺は、こいつらの日常が守れるなら、何だって耐えられる。
***
体を支えきれなくなり地面に膝を付く。あのガキの術式によって俺の体は右肩から脇腹まで吹き飛ばされていた。黒く炭化した断面からは燃え残った肋骨が覗く。
左肺も熱傷で潰れ思う様に息ができない。口からは臓器の損傷による血が溢れる。こんな状態でも死ねないのはこの遺物のせいだろう。
足音が徐々に近付いてくる。俺を、殺すために。
今までの事を思い返すが本当に碌でもない人生だった。可笑しくなって笑おうとした口からまた血液が零れる。熱気を吸い込み、爛れた喉を逆流してきたものが通過する度に激痛が走った。
目の前で足音が止まる。見上げると目が合った。俺を見据えるその瞳が、その奥に宿る決意が、俺を、俺が望むものへ導いてくれると確信する。
やっと死ねる。この憎悪から、この虚無感から解放される時をずっと待っていた。死だけがあの地獄から抜け出す唯一の方法だった。待ち望んだ安息が今、目の前にある。
死にたくねぇな。
終わりを前にして、ふとそう思う。
本当は孤児院に残してきた奴らの成長を見届けたかった。教会なんか辞めて、普通と言われる日常を手に入れたかった。どうでも良い事に笑い、落ち込み、怒り、変わらない日々を過ごしたかった。
そして、俺が掴めなかった幸せを、代わりに享受する姿を確認したかった。
でなければ、俺は何のために──。
思考を振り切り笑う。
嘆きは空しくなるだけだ。盗み出した時点で覚悟は決めていたのだから。
俺の最後の抵抗に対して剣を振り被る。こうでもしないと、さっさと止めを刺してくれないだろ?
「後は頼んだ」
そう告げるとあいつの顔が苦渋に歪んだ。うける。優しいし、察しも良いからきっと俺の望むように事を運んでくれるだろう。
最後に思い出す。この前また来るって言ったの、嘘になっちまったな。
考えている内に刃は首元まで迫っていた。刀身が夕日に煌めいた瞬間、そこで、意識は途ぎ
ジョエル・クローゼル 享年21歳