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悪い魔法使いを捕まえるお仕事  作者: 中谷誠
二章 祈りの残滓
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落日に燃ゆる③

「二人を殺害した者とは別に、アルトゥーロ大司教を殺した犯人がいると……」


 続く言葉が出ない。また最初からとなった捜査に部屋の空気が沈む。朝の疲労もあり、今の状況に軽い頭痛を覚えた。


「殺され方も違うと思ったら本当に違う犯人だったとはね。便乗で殺したって線は?」

「便乗で殺したとしても、相当恨んでないとあんな殺し方できないだろ」


 遺体の状態を思い返したエドガーが虚ろな声で言う。あの惨状はしばらく忘れられないだろう。


「だよねぇ……」


 マルティナは背もたれに体を預け天井を仰ぐ。彼女も当時の状況を振り返っているようだが、いまいち犯人に繋がるようなものは思い出せなかった。皆黙り込み、沈黙が降り積もる。


 アルトゥーロ大司教は最初に少し話した程度で、後は一度も会っていない。違法術師事件の担当者と言ってもこちらに任せきりで特に関わっていなかった。

 ジョエルなら何か知ってるのだろうか。顔を合わせる機会がなく昨日から見ていないが、どうせどこかでサボっているのだろう。


「そういえば、結構前に術痕の照合結果が出てるわよ」


 ヴィオラの声に全員の注目が集まる。すっかり忘れていた。昨日から忙しかったとはいえ、こんな重要なことを後回しにするなんて。


「でもどうせ登録されてない魔石だろ」


 エドガーはまったく期待していないようだった。照合結果に期待する半面、エドガーの感情も理解できる。感情に任せた突発的な犯行なら自身の魔石を使用し殺害してしまうこともあるが、多くの場合は犯行用に用意した違法魔石を用いるのだから。


 しかしヴィオラは首を振った。


「術師協会に登録されていたものだったわ。アルトゥーロ大司教の所持する美術品のアーティファクトとしてね」


 エドガーは首を傾げる。


「所持するアーティファクト? 自分の保管してたアーティファクトを盗られてそのまま殺されたって事か?」


 犯行の不自然さに混乱していた。確かに、部屋の棚に飾られた物の中にアーティファクトの存在を確認していた。しかし部屋の状態がそうではないと告げている。


「あの扉は厳重に施錠されてた。殺害された時も荒らされた形跡はなかったし。その場で取って使うならなんかしらの形跡は残るはずだよ」


 俺が考えていたことをマルティナが代弁する。俺は頷きその続きを話す。


「殺される以前に盗まれてた、としか考えられないな」

「もっと訳が分かんねーな」


 エドガーはため息をつき眉間を押さえる。

 悩んでいても仕方がない。まずは捜査の方針を決めなければ。


「とりあえず、アルトゥーロ大司教の身辺調査からだな」

「それだけどさ」


 いつもの組み分けを告げる前にマルティナが声を上げる。彼女にしては珍しく、眉を下げ疲れた顔を見せた。


「少し休憩しない? 朝からずっと働きっぱなしでしょ?」

「それもそうだな」


 時計を見ると、針は十の文字を示していた。思い返せば、夜明け前から準備し、オートマタの相手にロベルトとの面会と、ずっと活動している。この部屋に来てやっと座れたくらいだ。傷は回復しているとはいえ疲労も溜まっている。彼女の提案は尤もだった。


「じゃあ、二時間後にまた集まるか」


 休憩の指示を出すと、マルティナは「やった」と呟き立ち上がった。


「あたし仮眠してくるから」


 彼女は笑顔を残しながら、軽やかに部屋を去っていく。その様子に先程までの表情は演技だったと分かる。だが、彼女の提案によって、部屋に漂っていた重苦しい空気も少し和んだ気がする。この前彼女に言われた通り、休息も必要だ。

 休憩に向かうマルティナとは反対に、ヴィオラは通信用端末に触れた。


「私はもう少し本部と連絡を取ってみるわ」

「ありがたいけど、程々にな」


 ヴィオラは無言で頷き、端末を起動させた。

 俺は何をしようか。止まっているとどうしても事件のことを考えてしまう。焦って動いてもいい結果にはならない、そう自分に言い聞かせるもやはり落ち着かない。特にやる事はないが、とりあえず立ち上がる。エドガーは俺を見た。


「アイクもどこか行くのか?」

「気晴らしに歩いてこようかなって」


 俺が答えると、彼は少し目を伏せ考え、再び俺を見た。


「なら俺も行く。特にやる事もないし……」

「いいよ、行こう」


 言葉を最後まで言わず、詰まらせるエドガーに俺は笑って見せる。彼にも休息が必要だった。


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