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悪い魔法使いを捕まえるお仕事  作者: 中谷誠
二章 祈りの残滓
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三節 剣と血の祝祭

 昨日の襲撃から一夜明け、現在の時刻は十時となる。昨晩の戦いで重傷を負ったが、ヴィオラの回復魔法により全快し特に不調はない。

 部屋には五人。一応ジョエルもあの場にいたためここに呼んでいる。


「情報をまとめよう」


 全員が俺を見た。


「昨日俺達が襲われたのは自立式アーティファクトで間違いない」

「まさかオートマタが出てくるなんてね」


 マルティナが苦虫を嚙み潰したような顔で言う。予想を超えた敵に俺も口元を歪めた。大司教を殺害したのは高位術師と考えていたが、オートマタが付いてくるのなら話は変わる。最悪だ。


「オートマタ?」


 話を聞いていたジョエルが訊ねる。


「自立式アーティファクトの総称だよ。そもそも自立式は?」


 予備知識について訊ねると首を振る。知らないらしい。アーティファクト自体珍しいため各特徴を知らないのも無理はない。一応術師資格を取る際学校で習っているはずなのだが。


「自立型は文字通り起動させたら勝手に動くアーティファクトだよ」


 これは教科書に書かれている説明。問題なのはここからだ。


「厄介なのが、とにかく強いこと」

「そんなに?」


 ジョエルはあまりオートマタの異常さを想像できていないようだった。戦闘に触れる機会のない層へ強さの度合いは説明し難い。


「昨日のを見ただろ。一対一だと勝てるかも怪しい」


 俺は過去オートマタと戦った時のことを思い出す。


「人間の強化術式も凌ぐ剛腕に高い魔力。元々術式が搭載されてるから高位魔法も即発動でおまけにマナ中毒にもならない」

「めちゃくちゃだな」


 納得したジョエルが鼻で笑う。実際俺達もどうにもならない相手に笑うしかなかった。

 彼女、と言っていいのだろうか。オートマタ達は少女の姿をした麗しい見た目とは裏腹に高い戦闘能力を持つ。どの戦いでも俺達は重傷を負いながら何とか勝利してきた。


「ちなみに、ここに馬鹿みたいに硬い体と高い回復力も付いてるからな」


 エドガーが補足する。昨日のマルティナの狙撃術式でもオートマタは無傷だった。おそらく、生半可な傷ではすぐに治ってしまうのだろう。


「そんな化け物倒せんのか?」


 俺達の話を聞き不安になってきたのかジョエルが問う。俺は頷いた。


「体の中心部、俺達の体で言うと心臓の辺りに核となる魔石がある。従来のオートマタと同じならそれを壊せば止まるはずだ」


 ダンテはアーティファクトを壊すなと言っていたがオートマタ相手になりふり構ってはいられない。壊さないよう加減なんてしたら間違いなく返り討ちに合うだろう。オートマタを操る術師が使役を止めてくれるのが一番いいのだが。残念ながらそんな事は今の今まで一度もない。


「話を戻すけど」


 長々と話していたが、オートマタの話で最初から逸れてしまった。


「俺とジョエルが襲われたのは二十時頃になる」


 俺は昨日の林道での出来事を思い出していく。


「なんでそんな時間にジョエルが出歩いてたのかは……」


 説明を求めジョエルを見ると、にこりと余所行きの微笑みで返される。絶対に言う気はないらしい。


「置いといて」


 ため息混じりに俺は呟く。大司教殺しの違法術師がいる中、神父服のまま夜の街を出歩く危機管理のなさに苛立ちを覚えるも、この場ではその感情に蓋をする。


「教会へ続く裏道で出会った相手は二人。さっき言ったオートマタとこれの指示を出す術師だ。術師の方は高位術式も使ったが、魔法の間隔や精度から考えてそこまで強いとは言えない」


 相手が戦闘に慣れた高位術式だったら俺は今この場にいなかっただろう。オートマタの間から精密な狙撃術式がくると想像したら、それだけで戦うのが嫌になる。術師の戦闘能力が低いからこそ、確実に大司教を殺すためにオートマタのような代物を準備したのかもしれない。


「やっぱり問題はオートマタか」


 エドガーが呟く。その言葉に誰も意を唱えない。皆思っている事は同じだった。


「ごめん、あの時は追いつけなかった」


 マルティナは悔しさの滲む表情で言う。追いかけたが途中で見失い、潜伏先の見当も付かなかったと話していた。


「気にしなくていいよ。夜だったし土地勘もない」


 矜持が許さないのか、マルティナは不満気だった。


「でも相手が分かっただけ進展したと言えるわ」

「そうだな」


 ヴィオラの言葉に同意する。一部でも敵の正体が掴めたのは大きい。問題はここからどうやって違法術師を特定し潜伏先を見つけるかだ。


「じゃ、そろそろいいか?」


 ジョエルはそう言うと席を立つ。


「何か用事でもあるのか?」

「今日非番なんだよ」


 気にしていなかったが、よく見ると今日のジョエルは神父服ではなく私服だった。休みなのにわざわざ顔を出してくれていたのか。


「悪い、俺達に付き合ってもらって」

「別に良いよ。昨日、助けてもらったし……」


 ジョエルは目を伏せ、小声で言う。彼も彼なりに昨夜の出来事について思うことがあるのだろう。


「じゃ、精々頑張れよ」


 彼は口角をわずかに上げ、皮肉な笑みを浮かべた。どうやら態度は変わらないらしい。

 扉に手をかけた所でエドガーが立ち上がる。椅子の擦れる音にジョエルが振り返った。


「まだ何かあんのか?」


 ジョエルの眉間に皺が寄る。エドガーは彼の射貫くような視線に気圧され口を噤む。目を逸らすエドガーを一瞥し、ジョエルは扉へと向きなおした。


「待ってくれ」


 エドガーは部屋を出ようとする背に声をかける。自分を曲げないために、今度こそ真っ直ぐにジョエルを見た。


「この前はお前の事情も知らないのにあんなこと言って……その、すまない」


 そう言って彼は頭を下げる。あの時の言葉に罪悪感を抱いていたエドガーの精一杯の謝罪だった。再びエドガーを見たジョエルは驚いたような表情のあと、小さく笑う。


「もしかしてまだ気にしてたのか?」


 穏やかな声色にエドガーは顔を上げた。ジョエルは視線を合わせ微笑む。


「余計なことで悩んでるから身長伸びねーんだよチビ」


 天使の様な笑顔を張り付けたままジョエルは言う。啞然とするエドガーを見て愉快そうに鼻で笑い、ジョエルは最悪の空気を残して部屋を後にした。よりにもよってエドガーが一番悩んでいる身長について触れて。

 恐る恐るエドガーを見ると、肩を小さく震わせていた。

 拳を握り締め、扉に向かって叫ぶ。


「なんだあいつ!」

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