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悪い魔法使いを捕まえるお仕事  作者: 中谷誠
二章 祈りの残滓
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平常と日常⑤

 ダンテの視線を背中に感じながら食堂を進んでいく。


「ようアイク」


 横から男性の声。話しかけてきたのはやはりスヴェンだった。彼の緑色の瞳と目が合うとひらひら手を振り、こちらに歩み寄ってくる。普段は後ろで結われている金色の髪は、今はピアスが五つほど付いた右耳の下辺りで緩く結ばれていた。その理由は容易に想像できる。


「もしかして外出から帰ってきた所か?」

「正解」

「うわ」


 時計の短針は既に九に差し迫る頃、分かってはいたが思わず顔をしかめてしまう。休日の彼がこんなに早起きである訳がない。スヴェンは満面の笑みで口を開いた。


「戦果聞きたい?」

「遠慮する。いつか刺されるぞ」


 本当にどうでもいいので即答。スヴェンは口を尖らせる。


「命がけの仕事してるんだし今更だよ」

「それはそうだけど」


 尤もらしい言い方をするが、この人物の場合その言葉を真面目に受け取ってはいけない。

 趣味のナンパは任務内外問わず。こんなのでも誰もが恐れる術師協会直属の組織の四班班長である。人は見かけによらないとはこういう事だと思う。


「そっちはこんなところで何してるんだよ」

「次の長期任務の説明に行くところ」

「へー」


 スヴェンは興味のなさそうな相槌を打つ。自分から聞いたくせに何なんだ。その後、思いついた様に口を開いた。


「じゃあそんな真面目なアイク君にはこれをプレゼント」


 俺に向かって何かを投げてきた。思わず受け取ってしまう。


「雑誌?」

「いらなかったら捨てといて」

「ゴミ押し付けただけだろ。そういう事してるからリーナの小言が絶えないんじゃないのか?」


 俺の言葉にスヴェンは露骨に嫌そうな顔をした。彼と同じ班である彼女の名前は良く効く。


「お前、皆には優しいくせに俺には厳しいよな」

「普段の行いのせいだろ。大体……」

「あー分かった分かった。真面目に休みますよ」


 続けようとした所で雑に言葉を遮られた。


「それじゃ、アイクは仕事頑張りな」

「雑誌……」


 俺に押し付けたままスヴェンは去っていく。まだ投げ返せば頭に直撃する距離だが我慢。そういえばスヴェンが歩いて行った方向はダンテを放置してきた所だ。押収物を毎回壊す四班の班長が今のダンテに近付いたら。想像して寒気が走った。


 スヴェンのことは置いておいて、まだ打ち合わせまで時間がある。暇つぶしに雑誌を開くと目次には色とりどりの見出しで世界情勢が書かれていた。

 アウルム帝国で新技術開発、ルークス教国は聖誕祭間際、人里に増加する魔物被害、エレフ共和国で違法者一斉検挙、フォリシア王国は増税、イスベルグ王国で前時代遺物の発掘、増加する違法術師。自分の故郷の増税は珍しい事ではないので流しておく。それより、スヴェンがこんな雑誌を読んでいる事が意外だった。


「おはようアイク」


 前からマルティナが歩いてくる。片手を挙げ挨拶を返すと、彼女は俺が持っている物に目を留めた。


「なにそれ」

「ゴミだよ」


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