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アスカの野望は壮大で

 学校の生徒会室は、学校中の情報が集まるのだ。そこには知られたら多大な衝撃を与える機密情報もあるかもしれない。

 ただの学校に、世界を揺るがすような機密があるわけないけど。普通なら。

「会長、各部活の報告書、あがりました」副会長の男子生徒は、ファイルを手渡す。

「ん、ありがとな」

 結城レオ生徒会長は、ファイルから書類を出す。一通り目を通す。理解しやすいように作られているから、すぐに読み終える。

「オカルト研究部の空色アスカ、か」

「有名な生徒のひとりですよね。カッコいいですし」

「そうだな、ガールフレンドのひとりでも作ればいいのにな」以前、本人にそう言ったところ『友達に同性も異性もあるか』と返された。

「そういうの、お節介なのでは。親戚のおばちゃんみたいな」

「ああ、そうなんだけどね。イイ男に飢えている女子たちが多いから……」

 これを聞いた副会長は『だったらお前が女子と関われよ』とツッコミたくなった。

「そういえば、修学旅行で大浴場に行ったとき感じたんですが、彼の体って芸術的ですよ」

「おやおや! お前がそんなに変態だとは思わなかったな」レオは口に手をあてて驚く。とはいえ、その顔は微笑みがある。

「いえ、そういう意味じゃなくて! 男の子だと分かるけどマッチョという感じじゃない。細マッチョでも行き過ぎですが、バランスが取れているって感じですね」

「ん? それなら天瀬翼もそうじゃないか。水泳の時、男子をドキっとさせてるぞ」きょとんとした顔をするレオ。

 天瀬翼、アスカの親友たる少年だ。

「文化祭じゃ、彼を女装させるのがお約束だし」

「そーですね。翼くんは女子っぽさが強すぎですよ。美少年は、女子と勘違いさせちゃいけません」

「……そういうものか」

「ま、アスカくんは名前が女子っぽいんですけどね。なんであんな名付けをされたんでしょう? 親御さんに聞いてみたい気がします」

 おそらく、どうでもいい理由である。

「名前の男女差なんて、所詮は人々にそう刷り込まれているだけだけどな。まあ、音の響きもあるが」

 レオは机を指でなでながらつぶやく。

「……ネーミングセンスってやつは」レオはその先を言わなかった。

 と、そこへ彼らに近づく生徒が。

「会長さんと副会長さん」

 雪内桃花、アスカに入れ込んでいる女子だ。もっとも、アスカの親友である翼にもふらついている。最近はふたりともモノにしたい。というより、ふたりの所有物にされたいという変態女子である。

「ツバサ&アスカのお話ですか?」

 あのふたりがコンビとして扱われるのはしばしばだ。

「そういえば、コンビ名って翼が先なんだな」

「いえ、語呂が良いと感じる方を独自に使ってます。公式には設定されていませんよ」

「時々は、アスカ&ツバサって言いますし」

 正副会長は、なるほどとうなずく。

「そ、そういえば……副会長さんは、修学旅行で一緒にお風呂に入ったんですよね」

「大浴場だからな!」

「で、でしたら……あのふたりのゴニョゴニョ」

 レオはよく聞こえなかったが、大体察した。

「ああ、それなら」

「な、なるほど……大きくないけど形が良いと。私も生で見てみたいです」

「おい、男女でする会話じゃねえよ」


――ふう、生徒会室って緊張するね。会長さんは優しい人なんだけど。それにしても、わたしにオカ研について聞きたいってどういうことなんだろ。

 わたしはアスカくん目当てでオカ研に通っているだけで、正規部員ではないから、知らないことも多い。

 とりあえず、会長さんの質問には答えられたからいいか。そう思うことにして、部室に行く。

「桃花、遅かったな」アスカくんが出迎えてくれた。

「生徒会室に行ってました。このオカルト研究部について聞かれました」

「聞き取り調査か。オレもよく答えてるよ」

 アスカくんは何かの書類を見ながら話す。この部室は整理整頓されているから、デキる男の仕事場みたいだ。そういえば、生徒会室もデキる人の集まりって雰囲気がある。

「そういえば、このオカルト研究部って他の部員はいないんですか?」

「んあ? みんな出払っているよ。部室に集合するのは、月一の会合ぐらいだな」

 そ、そうなんだ。今まで抱いていたオカルト研究部のイメージと違うなあ。

「アスカくんは、いつも部室にいますね」

「オレは後方を担当しているから」

 そういえば、気になることがある。

「あの、翼くんは部員なんですか」翼くんは普通に部室に来るけど、部員なのかな。

「あいつは非公式部員だよ。正式にはどの部活や委員会にも所属していない。毎日、どっかに飛び入り参加してるぞ」

 言われてみれば、サッカーしてたり野球してたり、書道やったり茶道やったり、放送委員してたり美化活動してたり、風紀委員の腕章つけてたりしてるね。

 わたしは学校中を駆け回っている翼くんを想像した。そういう男の子もいいなあ。

「桃花、部員になるか?」

「えっ! その、あの……」

 アスカくんと同じ部活ができるのは嬉しいけど……。

「ま、即断はできないよな」

「ご、ごめんなさい」

「謝ることじゃないさ、そんなに簡単に決めることじゃない」

「深くて暗いオレたちの世界に入っていくのはね」

 アスカくん、わりと中二病だ。

「しかし、桃花にウチの部活について聞き取りしたって事は、キミがオカ研に通ってるてこと、知ってるんだな」

「あ、そうですね」

 そんな簡単なこと、見落とすなんて。

 アスカくんは、窓から外を眺めている。その横顔は、何かを憂いているようだった。

 そこでスマホの着信音がした。もちろんアスカくんのだ。友達0人、登録してある連絡先は家族しかないわたしのスマホに着信がくるわけがない。

 アスカくんはスマホを確認する。そしてちゃちゃっと操作してまたしまった。

 なんだろう。メールが来て返信したのかな? それにしては返信完了が早すぎる気がするけど。あれだと一言程度の短文だ。

「翼のやつ、今日はバスケ部に行くみたいだぜ」

 突然、そんなことを言われた。

「へえ、翼くんがバスケを」

 あの小さい体で、活躍できるのかな?

「今日は来れないと言っていた」

「そうですか。それはよかっ……」よかった、と言いそうになって止めた。

 だって翼くんがいると、わたしの出る幕がないんだから。

「翼のやつは、何もやってもそれなりにこなせるんだよ。それだけだと器用貧乏なんだが、あいつの場合それ以上の力を出せる」

「へー、それはすごいですね」

「それに、どこへ行っても好感度が高い愛されキャラだ」

 たしかに翼くんには嫉妬を感じる。だけど敵意は覚えない。だから翼くんにもふらついているんだけど。いや、これはただの言い訳だよね……。

「翼は、誰とでも仲良くなれるんだよ。バスケ部の面々から『お前のようなチビにバスケができるか』と笑われても、うまく付き合えるくらいには」

 う、うーん。それはスゴイことに思えるけど、わたしはそんなに多くの人と付き合いを持つ気はないかな。

「……今日はもう帰るか」

「え。もう、ですか」

「桃花、アーケードにでも行くか?」

 そ、それって……放課後デート?

「あの、それって……どういう……」

「キミはウチの部員に近い存在だからな。一緒に遊んでもおかしくないだろう」

 あれ、部の関係者にされてるー! わたし、アスカくんとは個人的なつながりなのに。

「まあ、翼の代わりにされたくないなら、断っていいぞ」

 うぐっ、わたし……やっぱり翼くんに及ばない存在なんだ。

「いえ、せっかくですので行きましょう」

 わたしたちは、学校を出てアーケード街へ。実は、アーケードに行くのって初めてなんだよね。

 その道中、アスカくんは話を続ける。

「アーケード街は、最近になって再開発されたんだよ。そこから有名になった」

「なるほど、だからわたしが小さい頃は知られていなかったんですね」

「元々は、神社の参拝客目当ての商人が集まって商店街ができた」

 わたしは話がうまくないから、ふたりきりで歩くと沈黙が辛いのではないかと思ったけど、そんなことなかった。

「この神社がいわくつきだ。オカルト世界では、それなりに有名なほどの」

 アスカくんの話を聞きつつ、歩いてたどり着く。

「ここが、アーケード……」わたしはつぶやいた。

 キレイでお洒落なアーケードが空にかかっている。その道幅はかなり広い。林立するお店も最先端な感じだ。

「あの、あそこにある『青緑』ってなんでしょう?」

「あれはこのアーケードの名前だ。青緑商店街っていうんだ、ここは」

「へ、へえ。なんか、今時にしては単純な名づけですね」

「名前で中身が決まるわけじゃないからな」

「でも、アスカくんは『アスカ』って感じですよ」

 わたしは、自分でも意味不明な軽口を放った。

「そりゃ逆だ。アスカという言葉の意味はオレが決める」

「……それは、どういう意味ですか?」

「初対面の人に自己紹介すると『女の子みたいな名前だね』って突っ込まれるんだよ」

 あははー、わたしもそうだった気がする。

「だから、オレが活躍して有名になれば『アスカという名前は男性名としても普通だ』と思えるようになるだろ?」

 なんだろう、アスカくんのご両親に一言いたい。

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