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伸び続ける配信

 フウガの緊張は止まらないし、視聴者の興奮も止まらない。


 お店に例えるなら閑古鳥が鳴いていそうなチャンネルは、今や大繁盛状態となっている。


「さて、今日はとりあえず下層までは行こうと思います」

『ダンジョン濃度を改めて計測……計測完了。本ダンジョンでは、地下七階からが下層に該当していると思われます』


 なんの脈絡もなくぼそっと呟くと、AIがすぐに反応した。元々コミュニケーションに難を感じていたせいで、彼は発言が唐突になりやすい。


:え!? 一人で下層行く気?

:やばいってマジで

:お兄さんそれ自殺行為じゃ

:できるかも!

:フウガさん。本当に凄いんですね


 多くの心配する声が上がっているが、フウガは杞憂だと考えていた。


「大丈夫です。俺にはこの魔剣がついてます」


 彼が手にしている漆黒の長剣は、先ほど倒したオーガの返り血を吸い、怪しい光を放っている。だが、視聴者達は他のことに気を取られていた。


:おい! ヒナリーがチャットしてるぞ!

:キターーーーーーーーーーーー!!

:天使降臨!!!!!

:ヒナちゃん愛してる!


 ちょうど地下七階への階段を降りきったフウガは、この事実にまたしても驚きゴーグルを震わせる。


「……ヒナリーがいるんですか?」

:こんにちは! すみません、あの時ちゃんとお礼が言えてなくて。本当に、本当にありがとうございました!


 しかし、またしても猛烈なチャットの嵐が巻き起こり、フウガはヒナタのチャットを見つけられなかった。気にしてばかりもいられず、彼はとりあえず探索を続ける。


『地下七階。下層に入りました』


 AIの声は視聴者にも届いている。


:来ちゃったか

:俺だったら絶対無理

:なんか雰囲気違うね

:AIちゃんの声好き

:俺もAIになってナビしたい

:がんばれー


 画面の向こうで唾を飲みこんだのは一体何人いるのか、見当もつかないほど同接人数は増え続けている。


(に、二万八千だって!? やばい)


 望みが叶った時、人は必ずしも喜ぶとは限らない。むしろ困惑や緊張に包まれてしまう場合が多いかもしれなかった。今のフウガは高鳴る鼓動と不安で胸がいっぱいになっている。


「あ、この辺りはですね。ちょっと蚊が多いんですよ。それも結構デカい奴が多くて、なんか嫌なフロアだったりします」

:蚊が多いって、すげえ湿気ありそう

:ってことは水系のモンスターが出る?

:やべえよおおお。逃げたほうがいいって!

:下層に一人で潜るの初めて見た

:怖い怖い怖い


 誰もが口々に騒ぎながら、少年が下層から出ることを望んでいた。薄暗い洞窟の通路はひたすらに一本道。淡々と歩いているうちに、彼にはお馴染みの耳障りな鳴き声が聞こえてくる。


「あ、出てきましたね。……ちょっと数多いかも」


 フウガの視線の先に見えたのは、確かに蚊であった。しかし、近づくほどにその大きさが増していくのが分かる。エビルモスキートと呼ばれる身長二メートルを越える魔物だ。


:うわぁ! 蚊って普通に魔物じゃん!

:キモイキモイキモイキモイキモイ

:逃げて! 身体中吸われちゃう

:直視できないわ。絶対に無理なタイプ

:待った。これ、何体いんの?

:蚊取り線香使って!

:デカくなるとこんなにキモ怖いのか

:虫除けスプレーないと無理

:蚊取り線香効かないでしょ


 みんな散々な言いようだなぁ、とフウガはしみじみ思う。蚊は沢山の血を持つ存在に気づき、一斉に羽を広げて飛び始めた。もしこのまま無抵抗でいれば、人間などものの数分で乾涸びてしまうほど吸血されることは間違いない。


「ちょっと数が多いんで、魔剣エアセイバー使うか」


:ちょっとどころじゃないだろ

:本当に死ぬやつだわこれ

:チューチューされちゃう!

:ひえええ

:フウガさん! 逃げてください!


 ヒナタもまたフウガを止めるべく必死でチャットしていた。彼女は画面の向こうでスマホを持ちながらオロオロしていたのだが、そんな様子をライブ中の少年は知らなかった。


 同時に、視聴者達も知らない変化が起こり始めていた。彼が持っていた漆黒の長剣は、いつの間にか全体的に緑色の装飾がされた細身のデザインに変化している。


 フウガは静かに重心を落とし、右手に持った剣を斜め上に振り抜いた。剣の残像かと思われたそれは、風の刃となって空中を進みながら巨大化し、勢いを増していく。


 あっという間に凶刃と化した風が、エビルモスキート十匹をまるで紙切れのように切断した。血に飢えた魔物の魂は、欲したものを得る前に地獄へと送還されてしまう。


 風の刃は距離が離れるほど巨大化しているようにみえ、ライブ映像を見る限りただの一撃で全滅させたようだ。


「はい。とりあえず、こんな感じで。静かになりました……あれ?」


 どうしたのだろうか。チャット欄まで静かになっている。


(もしかしてつまらなかった?)


 フウガは心の中で不安が増長していくのを自覚せずにはいられなかった。


 しかし、それは嵐の前の静けさに過ぎない。次々に事態を認識した視聴者がチャットを打ち込み始めた。


:はあああああ!?

:すげえー!!

:神業

:有能すぎる必殺技

:蚊「ちょっとくらい吸わせてよ」

:何今の!?

:ちょ、ちょお前

:おかしいって兄ちゃん!

:信じられねえええ

:十匹まとめてキルしやがった!

:瞬殺しすぎいいい

:なんか気持ちいい!

:爽快感MAX

:うええええええええ!?


 膨大なチャットに全く慣れていなかった少年はただただ圧倒され、しまいには魂が抜けそうになる。


「ま、まあ下層に来たし。今日は……この辺りでやめときましょうか」


 とりあえずエビルモスキートが落としたコインや奇妙なアイテムを拾った後、フウガはダンジョンの外へと帰ることにした。


 視界には同接人数が表示されているが、なんと四万を超えている。


 このままではあまりの緊張に泡を吹きそうだ。軽やかにダンジョンの階段を最速で登り続け、帰り道はあっさりと終わるのだった。

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