03-29.英雄の始まり
エル達が列の前へ促され全員で臣下の礼を取る。エル、リックやルチアは何度か経験があるが、エドガーとティルダに関しては貴族の前で臣下の礼を取るのは初めてだった。緊張で倒れてしまいそうなほどだった。
「そなた達の機転によって親子の命は救われた。誠に素晴らしい判断であった。皆を代表してリックよ。そなた達に何か恩賞を与えたいと思う。望むものを述べよ。それに儂は応えて見せよう。」
村人達は拍手と共に賞賛を送る。しかり、リックは厳しい表情のままサームに向けて言葉を返した。
「まだ歩み出したばかりの我々には過ぎたる栄誉に御座います。こうして村の皆様の前でサーム様よりお褒め頂けた事で十二分に栄誉はいただけております。どうかそのお心だけで。」
するとサームだけでなく居並ぶ貴族達は皆が驚いた表情でまだ幼い冒険者の見事な口上に頷いている。しかし、サームもさすがに何もないとはいかない。悩む。その時にレオが助け舟を出す。
「サーム卿、恐れながら私より一つ提案が御座います。」
「おぉ!アイゼンフォード子爵か。構わぬ。見合う恩賞も考えてやれぬ儂の代わりに何か妙案があろうか。」
「何を仰られます。サーム卿のお心はこの者達だけでなく、冒険者諸君や村の人々にも深く感じいっておりまする。」
その言葉に村人達も深く頷く。それは冒険者達も同じだ。
「ただ報奨金や屋敷などは今より多くの可能性を秘め高く飛び立つ若い冒険者達にとっては、この地に留めおいてしまうモノになってしまう可能性もございます。」
「なるほど。その歩みを止めるとは言わずとも、後ろ髪を引くモノになりかねぬと。」
「然り。であるならば、この者達にはまだパーティーネームがございません。どうか、サーム卿よりその名を賜る栄誉を与えてはと。」
群衆から「おぉ~っ!!」と歓声が上がる。貴族や冒険者達に二ツ名やパーティーネームを与える事は、絶対王アウロスが自分達の国を守った騎士達に騎士団名を授けた事を始まりとして、貴族の中では誉とされており、それを冒険者が貴族より賜る事は爵位を賜る事と同意と言われるほどの栄誉であった。
「なるほど。良い案じゃ。では後日、この者達へパーティーネームを授ける事を恩賞と致す。リック、良いな?」
「すべてはサーム様の御心のままに。」
「良し。では、これにて恩賞の伝達をすべて終える。これよりは料理と酒を用意した。皆、数日間のこの地獄を酒と料理で洗い流して欲しい。さぁ、用意せよ。」
屋敷や倉庫から大小さまざまなテーブルが運び出され、その上に次々と料理が並んでいく。料理は代官の屋敷付の料理人はもちろん、村の宿屋や村人達総出で用意した。その資金はもちろんサームの自費である。
サーム達貴族が代官邸に戻ると宴が始まる。エル達は冒険者や村人に囲まれ、頂けた栄誉がどれほど素晴らしい物かと言う事を何度も説明された。エル達は腹も心も存分に満たし、この日は眠りについた。
その二日後、エル達は代官邸へ呼び出された。恩賞を賜る為だ。代官の執務室に入るとサームはもちろん、オーレルや創竜の翼の皆が待っていた。
しかし、リックを先頭にエル達はきちんと臣下の礼を取る。その姿を見て満足そうにサームは頷き、礼を解くよう指示する。そして話を始めた。
「これより先は以前の関係に戻り話をする。オーレル卿、宜しいですかな?」
「サーム殿、ようやく堅苦しいモノを脱ぎ払えるか。もちろん同意するぞ。さぁ、皆楽にするんじゃ。いやぁ~。エル、リック、ルチア、そして他の者も本当によくやった!!」
オーレルはその言葉を待っていたかのように、以前のようなあたたかい笑顔でエル達を抱きしめ一人一人を褒めたたえる。それを見てレオ達も頭を撫でたり、以前のようにエル達に接する。
「エルよ。本当によくやってくれた。そなたがリック達と共に救った命、決して軽くなかった。」
そこからあの熊人族の親子の話になった。彼らは帝国からの逃亡者だった。帝国内で獣人族の誘拐事件が多発しあの夫婦の子、そうあの子供も誘拐の恐れがあったらしい。しかし誘拐事件とは言っても帝国が表立ってこの事を調べている様子は無かったとの事だった。
まるでそのような事は無かったかのように普段通りの街の様子だったと。それに危機感を覚えた親子は王国へ逃げる事を選んだ。しかし、その道すがらでも何度か命を狙われ、このまま国境にある砦に向かえば帝国兵に捕らえられると考えた父親は、決死の覚悟で幻霧の森を抜ける決断をした。
そう、あの日のエルのように。ただ一つ違ったのはこの夫婦が熊人族であり、戦闘に長けていたと言う事が大きな利点となり何とか王国側へ抜けられそうだと思った時に、スタンピートに巻き込まれたと言う訳だ。
「儂はこの親子をこの村で保護すると決めた。親子も最初は我々に対して警戒心を持っていたが、今は村の者達とも打ち解けてくれているようだ。それもこれもエル達が命を救ってくれたからこそじゃ。本当に代官として礼を言う。」
「お師匠様。冒険者として当然の行いをしただけです。しかし、僕達の行動は迂闊だった事は間違いありません。お詫びいたします。」
「うむ、それを分かってくれておるならば良い。これからも皆と共に励むのじゃ。....さて、肝心の恩賞を授けるとしよう。」
エル達は再び臣下の礼を取る。レオ達も今一度、貴族然とした態度に戻る。サームをそれを確認し、机の上に置かれていた巻紙を開き中を読む。
「ワックルト冒険者ギルドの所属する冒険者、リック、エル、ルチア、エドガー、ティルダ。そしてワックルトにて帰りを待つヴィオラとポーリーの冒険者パーティーに恩賞を与える。」
「「「「「ははっ!!」」」」」
「此度のレミト村スタンピート防衛戦において、小さな命を守りし栄誉を称え、サーム・キミアの名において、そなた達冒険者パーティーに【蒼星】の名を与える。そして、冒険者ギルドよりの提案も含め、蒼星メンバー全員を銀ランクへ昇格させるものとする。」
巻紙を戻し、テーブルの前に歩み出ると頭を下げているリックの前に両手で差し出す。リックはそれを礼を取ったまま両手で恭しく受けとる。これでリック達は蒼星と言う冒険者パーティーとなった。
「さぁ、堅苦しいのはここまでじゃ。立ちなさい。これからおぬし達は蒼星として活動していく事となる。その意味は、その昔、絶対王アウロス王が幻霧の森を抜ける際に神が道を示す為に夜空に蒼き星を掲げたとされる伝説からいただいた。どうか、アウロス様のように民の為、国の為に働く冒険者となってくれ。」
「「「「「はい!!」」」」」
「良い返事じゃ。さあ、皆来なさい。その勇敢に成長した顔を近くで見せてくれ。」
そう言ってサームは一人一人の頭を撫で、優しく包み込むように抱きしめる。最後にエルを強く強く抱きしめる時に小さい声でエルの耳元に語り掛けた。
「お前の思うように生きなさい。儂はここでお前を見守っているから。どんな道を歩もうとも儂だけはエルの味方じゃ。それを忘れてくれるな。」
その言葉にエルは涙を浮かべ、サームの胸に頭を埋める。それを大事そうにサームはまた優しく抱き留める。こうしてエル達はレミト村で知らぬものはいない冒険者パーティーとなった。
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エル達が去った執務室でサーム達は話を続けていた。
「エルが蒼き眼を維持した状態で戦闘を行っていたとリックから報告を受けております。」
「私も確認しましたが、最後の森を覆ったあの木属性の魔法は今までのエルの実力では到底出せる威力ではありません。」
ジュリアとレオの報告を目を閉じたまま聞くサーム。それはオーレルも同じだった。オーレルがゆっくりとした口調で話し始める。
「あの力を自身が操れるようになったと考えるのは早計か。」
「そのように思います。しかし、リックの話では最後の魔法を唱える前に後を頼むと言ったというのです。それは自分の魔力量を把握出来ていたと言う事であり、指導してきた私としましては今のエル様の実力では出来るとは思えません。」
「ふむ....」
「何を考えようとエルがあの状態で会話をし、自分達の共通敵の為に魔法を使った事は間違いない。方向は分からぬが一歩進んだと考えるべきでは無いか?サーム殿。」
「そうですな。その様に思います。リックには辛い責務を負わせてしまうが、これからも報告をしてもらうようにしよう。」
皆からため息が漏れる。自分達の可愛い弟子、弟のような存在の男の子が『正体不明』なのだ。一体彼は誰なのか。まだ謎は遠くにあるように感じていた。
・・・・・・・・・・
「エル!やったな!!」
「やったね!リック、皆!!蒼星、カッコいいよね。」
「さすがはサーム様だな。まさかアウロス王の伝説から引用されるなんて。ホントに名誉な事だぞ。恥ずかしくないパーティーにしたいな。」
皆で喜び合う。エル達はまた新たな出発点に立つ。銀ランク、これで幻霧の森の浅い部分は入れるようになる。そして、州を跨いでの冒険もし易くなった。自分達の視界がどんどんと広がっていく。
商会も作りたい。パーティーハウスの方が先決か。そんな話で盛り上がる。一先ず決まった事はワックルトへ行き、エルボアへの報告とポーリー、ヴィオラを迎えに行く事だ。
エルは希望に満ち溢れていた。自身の力がどこから湧くのかは分からない。いまだに自分が誰なのかすら思い出す事も出来ない。しかし、今の自分にはリック達がいる。サームが、レオ達がいる。それで良いではないか。そう感じていた。
これより蒼星の大躍進が始まる事となる。しかし、それはまたの機会に。
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話を終えた老人は私に向かって一つ礼をした。
「今日の所はここまでだよ。まぁ、泊まっていきなさい。明日、また続きを聞かせてあげよう。」
その言葉に私は胸を撫で下ろす。中途半端で放り出される訳では無いようだ。私はその老婆に深々と礼をする。
「そんなに畏まるもんじゃないよ。貴族だって言ってももう何十年も王都には行って無いしね。今じゃただの幻霧の森にすむ婆さんだよ。」
笑って返す。しかし、私は胸に手を当て感謝の言葉を述べる。彼女無くしては英雄の足跡は辿れなかった。
「感謝いたします。伯爵様。ルチア・ソーリンゲン伯爵様。」
物語は終わらない。
不定期な投稿に長きにわたりお付き合いいただきありがとうございました。
この話を持ちまして、『錬金術の森~未成年孤児エルの半生~』は本編完結となります。
この先はカクヨム様にて投稿中の『
(仮)アパートの住人さんと一緒に異世界に飛ばされた私の苦労譚【アパ譚】』へと繋がっていきます。主人公などが大きく変更となっていますが、新たな主人公たちがどうエル達と関わっていくのかを楽しんでいただければと思います。
本当に沢山の反応、ありがとうございました。




