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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第三章 蒼月
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03-28.恩賞

 エルが目を開けると心配そうに覗き込むリックがいた。リックが驚いた顔をして誰かに声をかけている。すると、ルチアやエドガー達の顔が見えた。


 「リック....皆....」

 「エル!具合はどうだ?」

 「頭が少し痛いけど、体は大丈夫。」

 「ジュリア様が魔素を使い切った影響で頭痛が起こるかも知れないって仰ってたからそれだと思う。起き上がれるか?水を取ったほうが良い。」


 エドガーが背中に手を当ててくれて起き上がるのを助けてくれる。ティルダから受け取ったコップの水は体の中のどの部分を通っているか分かるほどに染み渡っていくように感じた。それほどまで乾いていたのだろう。


 「村は?」

 「もう大丈夫だ。オーレル様とダン様が冒険者の皆さんと協力して魔素溜まりを打ち消してくれた。そしたら嘘みたいに魔物達が森に帰っていたんだ。今は冒険者の皆さんが即席のパーティーを組んで、森の中の魔物を間引いてくれてる。あと三日はかかるって言ってた。」

 「あの親子は?」

 「無事だ。子供は少し熱を出したけど、ジュリア様とワックルトから来た医者が見てくれてる。」


 エルはホッと体の力を抜く。危機は去った。村を守る事が出来た。その事が嬉しかった。それはエルだけではない。リックやエドガー達も同じである。自分達が少しでも村の力になれたかも知れないと言う想いが冒険者としての自信を生んでいた。


 「今はオーレル様が指揮して村の南側の防壁をエルのコンタルを使って広げてる。オーレル様はレミト村の防壁完成までの指揮を執るようにワックルトの領主様に言われてるそうだ。」


 これでもう安心だ。すると部屋のドアがノックされた。ルチアが対応すると中に入って来たのはダンだった。

 ダンは入って来るなり皆を一人づつ抱きしめ、最後にエルを強く抱きしめた。


 「無理をしたね。あんな危険な真似を。ジュリアにも厳しく説いておいた。....でも、良く守ってくれた。この国の貴族の一人として君達を誇りに思うよ。」


 ダンの抱きしめる強さの奥にある温かさをエルは感じていた。ゆっくりとエルを離すと、まるでレオのそれのようにダンはエルの頭をワシワシと撫でた。


 「城壁が完成する三日後をめどにスタンピートが治まった事を村人に告げる集会をする。それには皆も参加して貰う。それまでは村に留まってくれ。良いね?」


 全員が頷く。そこからは色々な人が見舞いに来てくれた。恐らくエルの目が覚めたと言う事が広まったのだろう。食べる物などを差し入れてくれる冒険者などもいて、中にはパーティーに誘って来る者までいた。

 自分達の行動が少し認められて、皆で嬉しさと充実感を分かち合う。そんな中にレオが入ってきた。全員の無事を確認し胸を撫で下ろしたレオは、しっかりとエルの頭に拳骨を落とした。痛がるエルをしっかりと抱きしめる。


 「ジュリアが指示した事は分かってる。お前達があの親子を守ろうとしてくれた事ももちろんだ。しかし。それでもだ。お前達に何かがあったら。サーム様が、俺達が、村の者達が、どれだけ悲しむと思ってるんだ。自分達の実力を過信し過ぎるな。良いな。これからもその気持ちは胸に置いておいてくれ。」


 レオの言葉に全員が真剣な顔で頷く。どれほどの危険な事をしたか、自分達でもしっかりと自覚しなければならない。勇気と無謀は違うのだ。

 するとレオは笑顔で全員に告げた。


 「お前達のパーティーはサーム様より村を守り抜いた功績として褒美が下される事になった。何か欲しい物があれば考えておくと良い。お金でも屋敷でも構わない。三日間ゆっくりと悩め。」


 そう言い残して部屋を去った。エル達は途方に暮れる事になる。褒美などと言われても何も思いつかない。お金などとは口が裂けても言えない。死力を尽くした村の皆さんの気持ちを金に換える事など出来ない。屋敷、と言われてもつい先日自分達の家がレミト村に出来たばかりだ。エドガー達の家も今の家の隣に新たに建てる予定で、ワックルトからヴィオラも呼び寄せるつもりでいる。


 「でもさ、一度ワックルトへは戻る事になるだろうけど、エル、たぶんエルボア様に相当怒られるぜ?」

 「えっ....」


 リックがいたずら顔でエルを見る。確かにそうだ。エルボアは「慎重に慎重を重ねて行動するように」と何度も言い聞かせていた。今回の事を聞いたら....


 エルは先生の怒った顔を想像し不安を感じながら、皆で褒美を何にするかを考えた。


 ・・・・・・・・・・・

 三日が経ち村の広場には村中の人々と兵士達・冒険者達が集まっていた。村の防衛に従事した者達が列の前に並び、その後ろに村人たちが並んでいる。その列と向かい合うようにサームやオーレル、そして創竜の翼のメンバーなどいわゆる貴族爵を持つ人達が並んでいる。その列の間に左右に分かれて兵士達が並ぶ。


 「これよりスタンピートからのレミト村防衛を成し遂げた英雄たちの功績を讃える。」


 サームの言葉に村人達はその場で腰を曲げて深く礼をする。冒険者達は臣下の礼を取る。兵士達は兵隊長の号令と共に貴族爵の方々に向けて剣を捧げる。

 サームの合図で全員が直る。最初に呼ばれたのは作戦を指揮したジュリアだった。


 「ジュリア・ユニトリー。この度の防衛戦の指揮を執り、見事に村を守り抜いただけでなく、被害者を誰一人出さなかった事。これまでに幾度となく起こったスタンピートの混乱の中でも初めての事じゃ。その素晴らしい功績を讃え、大金貨10枚を授ける。」


 その金額に村人達からは大きなどよめきが起こる。しかし、ジュリアは臣下の礼のままサームの言葉に応える。


 「有難き幸せに御座います。恐れ多くも申し上げます。此度の功績と評していただけるならば、まさに此度の功績はレミト村の人々全ての協力無くして叶うモノではございませんでした。もし、お許しいただけるならば、その功績をレミト村に捧げ、いただける恩賞も、どうか村の為にお使いいただきたく思います。不敬な申し出とは重々承知しております。しかし今、レミト村は発展最中にございます。資金はあって困るものではありません。どうか、恩賞金をお使いいただきたく思います。」


 その言葉に村人たちからは感嘆の声が漏れる。代官とは言え、爵位では上位に当る侯爵からの褒美を断る形になるのだ。その不敬を知りながらも村の為にと恩賞を譲る形を取ったジュリアに対して、村人達は更に尊敬の念を深める。


 少し考えていたサームはゆっくりと頷いた。


 「ジュリア・ユニトリーよ。何を不敬などと思おうか。その心、まさに王国貴族に相応しいものである。しかし、そうなるとそなたに与える恩賞が無い。そこでだ。恩賞金は間違いなく村の発展に役立てさせてもらうと約束しよう。使い道に関してもしっかりと公書に書き留め、ワックルト領主様へ報告する事も約束しよう。その上で、ジュリア・ユニトリーを含む創竜の翼は村を守る指揮を執り、荒れる幻霧の森へ冒険者達と入り、ダン・レイドナムはオーレル・ロンダルキア卿と共にその根源を絶った。その功績も合わせて鑑みた。これ以上の陞爵は王家の許可なく賜る事は許されておらぬ。儂がワックルト領主様並びに州都ミラの州領主様へそなた達の功績を伝え、王家よりの陞爵をいただけるよう取り計らうと約束しよう。いかがであろうか?」


 これには村人だけでなく兵士や騎士、冒険者達も驚いた。ジュリアやダン、レオ達が持つ子爵までのいわゆる下級爵位に関しては、侯爵の爵位を持つ者ならば陞爵させる事が出来る。しかし、それ以上の中位・上位の爵位に関しては国王または大公(この場合はオーレル)の許可が無くては陞爵させる事が出来ないのだ。


 サームの真横に立つオーレルは何も言葉を発しない。この場合に何より大事なのは、まずサームがワックルト領主とミラ州領主へのお伺いを立てるという形式なのだ。そこを無視してオーレルが許可を出してしまえば、王国の統治体制が無視される事になってしまう。

 面倒な事ではあるが、非常に大事な事なのだ。


 「恐れ多い事でございます。その言葉だけで我ら創竜の翼はまた王家そして王国・領民の為に羽ばたく事が出来ます。どうか領主様の御心にて。」


 これは形式文句だ。「気持ちには本当に感謝しているから、あとはサームの好きにしてくれ」と言う意味合いだ。これでジュリア達、創竜の翼への恩賞伝達が終わる。その後、増援の部隊と共に到着していたワックルト冒険者ギルドのサレンがメルカ・グラジオラスの代席として恩賞を受け取る。

 これは防衛戦に参加した冒険者への恩賞金だ。冒険者ギルドから出される金額と同額が上乗せされる事になる。冒険者達はかなりの金額を手にする事になり、これもまた村人達から驚かれる事になった。


 「さて、ほとんどの恩賞伝達は終わったが、一つ、恩賞を与えたい者達がおる。ワックルト冒険者ギルド所属の冒険者、リック、エル、ルチア、エドガー、ティルダよ。前へ。」

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