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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第三章 蒼月
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03-26.防衛戦第一陣

 斥候役の冒険者とルチアのその報告に冒険者達に更なる緊張感が走る。バウンドウルフ。群れで行動する事が多く、動きが機敏でその牙は革鎧程度ならば簡単に嚙み切るだけの強さを持つ。


 またバウンドウルフの後ろには数体のマッスルきのこも付いて来ていた。下手に突破を許すとその小さな体を防壁に突撃される恐れもある。狙いを定める防壁上の冒険者達。そこにジュリアが魔法の詠唱を始める。


 【凍てつく大地に君臨せし龍よ。その牙で悪意を砕け!アプソリュート!!!!】


 ジュリアの持つ杖から放たれた膨大な魔力は目視出来る全ての魔物を凍らせた。しかも地面や防壁には何の影響もない。魔物達だけが凍り付いている。


 「弓隊!凍った魔物の頭を射ち抜きなさい!」


 弓隊は次々と矢を放ち、その矢は確実に魔物の頭を捉えていく。さすがは白金ランクの魔法。エル達は矢を射ちながら、ジュリアのその実力に自分達の体温が上がるのを感じた。


 しかし、当然ながらそれで終わってくれる訳では無い。今度は広い範囲に散らばって魔物達がいくつかの塊で押し寄せてくる。ジュリアも殲滅に参加しながら何かをずっと考え続けている。その様子にエルが気付いた。


 「おかしい....」

 「どう言う事ですか?」

 「魔物の攻め方が統率が執れています。もしかしたら上位の魔物がいるのかも知れないわ。」


 上位の魔物は確かに幻霧の森には多種多数存在している。しかし、それらの魔物が幻霧の森を出て町や村を襲ったと言う報告は今までではクラスⅣ以上の大規模なスタンピート発生の時以外には上がっていない。となると、今回のスタンピートに何かしらの偶然が生じて上位の魔物を取り込んでしまったのだろうか。だとすれば、本当にクラスⅡとして判断して良いのか。

 ジュリアの頭の中に少し迷いが生じ始めていた。


 冒険者達の奮戦もあって魔物達はまだ防壁にまでは到達していない。ジュリアは村内の防壁下でコンタルを作っている土魔法を使える魔導師とリックを呼び寄せる。


 「良いですか。二人の魔法で壁から1~2m離れた場所に防壁に沿うように堀を作りたいのです。堀が出来たら私とルチアの魔法で水を満たします。そうすれば少しでも魔物の防壁への進行を抑えられるはずです。」

 「「分かりました。」」


 二人が少し話し合い距離を取って防壁に手を添える。そして魔力を練り詠唱を始めた。


 「「大地よ、我に従え。ピットウォール!!」」


 魔法を唱えると防壁に沿うように2m程の深さの大きな四角い穴が生まれた。それは二つが繋がっており、その繋がりを広げるようにしてリックと魔導師は魔法を唱え続ける。しばらくすると堀の長さは門を中心に30m程の長さになっていた。

 それを確認するとジュリアはルチアと共に水魔法で堀の中を水で満たしていく。その間、リックと土魔導師が石礫の魔法で攻撃に参加する。魔物達は強力な魔物はいないが、絶える事無く続々と森から現れる。


 どうやら完全に根気比べになってきたようだ。するとついに門の西側でコボルトの集団が防壁に到達する。しかし、直立した壁と凹凸の少ない構造に昇りたくても昇れない。結局、冒険者達の弓や魔法で倒されていくが、それでも魔物は構わず防壁へと押し掛けた。ジュリアはエルの開発したコンタルの防壁の難攻具合に心から助けられていた。これが他の町の城壁の様に石垣に手をかけて登れるような状態だったら....レミト村は危なかったかもしれない。


 最初の接敵から二時間。休みなく続く攻防に少しずつ冒険者達にも疲れが見え始める。そこに思わぬ助けが入った。サームが体格のしっかりとした村人を4人ほど一緒に連れて来た。防壁の下でサームがジュリアに叫ぶ。


 「儂が作ったハンドボウガンをこの者達に持たせる。弓で射るよりは射程は短いが撃つのが容易じゃから村人でも扱えるはずじゃ。ジュリア、どこに配置する?」

 「東側へお願いします!サーム様、顔はお出しにならないでください!」

 「分かっておる。」


 サームが村人たちに指示すると、村人たちは新たに持ってきた矢を担いで防壁へと上がる。各弓隊の場所に矢を補充すると自分達も門の東側に陣取りハンドボウガンに矢を番える。

 ハンドボウガンから放たれた矢は城壁に近付いていた魔物に次々と当たる。東側の魔物の進行が少し落ち着いてくる。すると、サームがスリングを使って北門に向けて進攻しようとしていた魔物の群れへと何かの球体を放り投げる。その瞬間、サームが叫ぶ!


 「火属性の魔法を使える者は初期魔法でも良い。あの集団に魔法を撃ち込むのじゃ!」


 その言葉に素早く反応した魔導師が放った初期魔法のファイアボールが、サームが球体を投げた魔物の群れに当たると思った瞬間!

 魔物の群れは轟音と共に大爆発を起こした!爆発したあたりを中心に地面が抉れている。


 「ジュリア、今の球はあと二発しかない。使い所は任せる!」

 「畏まりました!」


 サームの使ったモノの正体が何かは分からない。しかし、強力な武器である事には変わりない。使い所が重要になる。


 ここで新たな魔物が森の奥から出てこなくなった。ジュリアがこれを機にすぐに判断する。


 「ヒマリ隊!矢の補充と水を防壁上まで運んで!防壁上は斥候職3名で監視行動継続!他は休憩を取りなさい。」


 ヒマリ隊が二手に分かれ矢と水を取りに行く。その他の防壁上で戦っていた者は魔物が確認出来るまで休息を取る。

 まだ戦闘は始まってたったの二時間。これがあと三日も続くのか。エル達の中に絶望にも似た感情が芽生え始める。その時、ジュリアが座っているエルの前に顔を近づけ小声で話しかける。


 「エル、自分の状態を冷静に報告してください。」

 「体力・魔力共にまだ余裕はあります。....でも気持ちが........。」

 「気にしない事です。エルが死んでしまう時はパーティーの皆もサーム様も私も村の皆も全員が死ぬ時です。そう考えれば一人だけではありません。皆一緒です。」


 そんな考えたくもない事を笑顔で告げるジュリア。しかし、考えればそうだ。死ぬつもりで戦わなければ誰かが死ぬ可能性があるのだ。あくまで生き抜く事を前提に自分の全てを投げ出さなくてはいけない。


 「魔物達はもう来ないのでしょうか?」

 「それはありません。スタンピートにしてはあまりに魔物が下位のモノばかりでした。普通の平原や山で出来た魔素溜まりならまだ分かりますが、幻霧の森の中に出来た魔素溜まりにしてはあまりに魔物が小物過ぎます。恐らく上位の魔物、知能の高い魔物がどこかで統率を取っているはずです。今回の群れは第一陣、小手調べと言った所でしょうね。」


 ジュリアのその話を近くで休憩を取っていた冒険者達も聞いていた。しかし、その話を聞いて誰もが絶望を感じるどころか気合を漲らせている。


 「エルもこの者達のような精神力を身に着けなさい。どんな逆境でも生きて帰ると言う何の根拠もない自信を。」


 周りの冒険者たちが苦笑いしている。しかし、そうだ。落ち込んでいる暇は無い。自分達でレミト村を守るのだ。他の誰がやってくれる訳でも無い。今は自分達しかいないのだ。


 すると騎士団の数人がパンやスープを持ってやって来る。防壁の上に置く。休憩している者はもちろん森を睨むルチアも視線を森から目を逸らす事無くパンに噛り付く。


 「少しでも腹を満たすんだ。長期戦だ。いよいよの時は俺達も共に魔物へ突撃する。エル殿、村を頼む。」

 「はい。お任せください。」


 まだ幼い冒険者のその言葉に誰もが負けてなるものかと気合を入れ直す。

 するとルチアの声が防壁に響く。


 「全員、構えてください!恐らく来ますっ!!!」


 さぁ、来い!!!ここは通さない!!!

 エル達の第二陣との戦いが始まった!!

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