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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第三章 蒼月
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03-25.防衛戦開始!!

 ジュリアの口から思いがけない言葉を聞かされた。しかし、リックは焦る事無く礼をしたままジュリアに報告する。


 「ワックルト冒険者ギルドのギルドマスター・メルカ様よりレミト村代官サーム様への書状を預り、そのままレミト村の支援に回って欲しいと命を受けました。またパーティーメンバーのエルとルチアがサーム様へ書状をお届けした際にも、我々にジュリア様が編成されている冒険者達の加勢に加わるように命を受けております。」

 「そうですか。ならば指示を与えます。ドノバン、あなたは少しの間こちらの管理を任せます。宜しいですね?」

 「畏まりました。ジュリア様。」


 ジュリアはエル達に付いてくるように促す。ジュリアとエル達とでは、冒険者としても王国民としても立場が違う。それをしっかりと弁えなければ、周りからはエル達が不敬であると見られる。それはエル達がレオ達から離れる時にジュリア自身から教わり、徹底するよう指導された事だった。

 ジュリアは白金ランク冒険者であり、高位貴族の一人娘で自身も導師の爵位を持つ貴族だ。普通に考えれば、エル達がおいそれと会話出来る相手ではない。


 ジュリアは一軒の空き家にエル達を招き入れる。中に入るとジュリアは居間の椅子へと腰掛ける。エル達は立ったまま控える。


 「ルチア、カーテンを閉めなさい。」

 「はい。」


 ルチアがカーテンを閉めると、わずかな陽の光だけが部屋の中を照らす。ジュリアはテーブルの上に盗聴妨害の魔道具を置き作動させると大きくため息をついた。そして、ゆっくりと立ち上がりエルから順番にリック達を抱きしめていく。


 「エル、リック、ルチア。それにエドガーさんにティルダさんですね。本当に支援感謝します。ごめんなさい。貴族としての立場を優先しなければいけない状況なので、あのような態度を取ってしまいました。」

 「いえ、私達も理解しておりますので。」


 リックの硬い言い回しに苦笑いを浮かべ、頭に手を置き「ここでは大丈夫です」と答えるとリックは笑顔で頷きました。


 「なぜエドガーさんとティルダさんが同行しているのですか?」


 笑顔で問いかけたジュリアにエルが今日までの経緯を説明する。それをうんうんと頷きながら聞いて、エドガー達3人がパーティーに加わった事を喜んだ。


 「そうですか。やはりあの時のヴィオラさんとの出会いは良い方向に向かってくれたのですね。心強い仲間を迎えられてエル達は幸運ですね。これからも気を抜く事無く精進してください。」


 その言葉に皆は力強く頷くが、ジュリアはすぐに厳しい表情に戻る。


 「せっかくパーティーが充実したと言うのにこんな危ない状況に招き入れてしまって。しかし、サーム様も仰る通り、ワックルトよりの支援部隊が到着すればそれほど苦になる状況ではありません。ただ、それまではこの20人で守るより他無いのです。」

 「はい。」

 「他の2部隊の隊長は竜の牙のメンバーが勤めていますが、他の二人は本来支援職の二人なんです。冒険者ランクが高い事と修羅場をこなした数は多いですから隊長に任命していますが、本来の金ランク討伐冒険者からすると少し実力は劣ります。」

 「はい。」

 「エルとルチアは私の部隊に入って貰います。エドガーとティルダは村に入り込みそうな魔物をせん滅するヒマリの部隊に加わってください。そして、リック。あなたが一番重要な部隊です。魔法職だけで部隊を編成しています。その部隊に加わり、コンタルを作りながら内側から防壁の修繕を行ってください。敵が壁に突撃を始めた箇所に裏からコンタルを分厚くしていく作業です。非常に魔力と根気を問われる部隊になりますが、頼めますね。」

 「はい!!」


 その返事を聞いてジュリアも大きく頷く。


 「あなた方にはもっと安全に依頼達成を続けさせてあげたかった。しかし、いつかはこう言った状況に加わらなければいけない時が来ます。私が傍にいられるだけ幸運と思わなければいけませんね。」


 ゆっくりと目を瞑り何かを考えるジュリア。そして、覚悟を決めた目でエル達に向かい合います。


 「良いですか。これからは今まであなた達が経験してきたどんな戦闘よりも厳しい状況が待っています。絶望に囚われず、皆を信じ戦いなさい。無事を祈りますよ。」

 「「「「「はいっ!!!!」」」」」


 『魔物が来たぞぉーーーーーー!!!!!!』


 大きな声が外から聞こえてくる。弾ける様に全員が小屋の外へと出る。北門へと冒険者達が集まって来ていた。ジュリアはすぐに指示を飛ばす。


 「騎士団は住民をすべて冒険者ギルド付近に集めなさい!あそこがどの門よりも一番遠く建物も頑丈です。もし門を突破されるような時にはギルド入口を騎士団で何が何でも死守するのです!」


 騎士団が高らかに返事を返し、すぐに住民の避難を呼びかけながら村中を走り回る。ジュリアはその背中を見送り、冒険者達に声をかける。


 「ジュリア隊!防壁の上に昇り、森から出てくる魔物に対して弓・魔法での攻撃を開始しなさい!!」

 「「「はっ!!」」」

 「ヒマリ隊、門周辺の強化、そして門突破に備えなさい。それまでは待機。体力を温存しなさい。」

 「「「はっ!!」」」

 「魔導師部隊、土魔法の使える二人はコンタルの作成に注力。それ以外は防壁に上がり魔法にて攻撃。」

 「「「はっ!!」」」

 「ワックルトの支援部隊が来るまでの我慢比べです。我々の強さを思い知らせてやりなさい!!!」

 「「「「「オォーーーーーーーー!!!!!」」」」」


 冒険者達が指示通りに散っていく。エルは竜車からおろしていたルチア用の予備の弓を借りて、防壁の上へと階段を駆け上がる。防壁の上の通路には既にいくつかの箇所に大量の矢が置かれていた。


 「エル、ルチア。あなた方で倒せる魔物だけに集中しなさい。それ以外の強力な魔物は高ランク冒険者で対応します。あなた方は何よりも頭数を減らす事を考えて矢を射りなさい。」

 「「はいっ!!」」

 「来たぞっ!!!」


 森を見つめていた冒険者が指を指す方向を見ると、森の中から魔物が数体こちらを見ている。


 「コボルトとゴブリン、斥候のつもりか。魔物ごときが。目視!ゴブリン8!!コボルト5!!」


 それに合わせて数人の魔導師たちが魔法の詠唱を始める。ジュリアは防壁上の冒険者達を見渡す。


 「弓隊、弓引けぇぇぇぇ!!!」


 ジュリアの合図と共にルチアとエルは弓を引き待機する。


 「合図とともに魔法と弓の一斉攻撃を開始する。一撃放った者は待機に入れ!!」


 魔物達がジワリジワリとこちらに向けて歩いてくる。こちらの魔法と弓が目に入っていないのか。それとも危険なモノだと認識出来ていないのか。魔物達は門に向けて歩いてくる。

 そして射程距離に入った瞬間、ジュリアが号令をかける!


 「放てぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 魔物の群れに向かって魔法と弓が命中し、辺りは土埃が舞い上がる。ジュリアは弓隊にもう一度弓を引くよう指示して待機する。土埃がおさまると魔物の死骸が見えるが、その奥からまたゴブリンとコボルトが現れたのを確認した。


 「ここからは各個撃破!!!自分の射程に入ったら攻撃を始めなさい。」

 「貫け!!ウイングバレット!!」


 ジュリアの言葉と同時にルチアが風魔法をまとわせた矢を放つ!すると矢は一直線に森から出たばかりのゴブリンの眉間を貫き、ゴブリンは前のめりに倒れた。

 防壁上の冒険者達からは驚きの声が漏れる。ジュリアは魔物達を見つめたまま、ルチアに言葉を投げる。


 「見事です。ルチアの判断でどんどん射ちなさい。魔力の残りも気を付けて。」

 「はい!!」


 もう一匹ゴブリンを倒したルチアが体を防壁の狭間を突っ込み森を睨む。エルが気にしているとルチアと斥候役の冒険者が同時に叫ぶ!!


 「「バインドウルフだ!!!!!」」


 漆黒の狼と呼ばれるブラインドウルフの群れが森から勢いよくこちらに走って来るのが見えていた。

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