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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第三章 蒼月
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03-23.予兆

 明くる日、エドガー達はリック達と合流した時に自分達の想いを伝え、一緒のパーティーで活動していきたいと伝えた。リック達はそれに迷うことなく同意をし、これからは同じパーティーとして活動していく事を約束した。

 その足で冒険者ギルドに向かい、クレリノにそれを伝えた。


 「畏まりました。ギルド判断がありますので2~3日判断にお時間を貰いますけど、恐らく問題なく許可は出ると思います。それまでにお互いに話し合いをしっかり重ねて、パーティーとしての意識を統一するようにしておいてください。あと、ホントにそろそろパーティー名を決めてください。こっちで勝手に決めちゃいますよ?」


 すっかり忘れていた。呆れたように話すクレリノに出来るだけ早く決めると伝えると、ある冒険者の一行がギルドに飛び込んできた!


 「ギルドマスターはいるか!?レミト村の北側の森でスタンピートの予兆が出た!」


 ギルドホールの雰囲気が突如ざわつき始める。職員がすぐに二階に向かって階段を駆け上がっていく。その冒険者から話を聞く為にサレンが冒険者に近寄る。


 「規模は!?」

 「クラスⅡだと聞いた。しかし、創竜の翼は王都に戻っててジュリアさんしかいなかった。今、ジュリアさんと代官のサーム様が現地を取り仕切ってくれてるが、サーム様が代官になってくれたおかげで今、レミト村にもケーラ村にも新たに移り住んだ商人や移住者が溢れてる。冒険者達は稼ぎが見込めそうな鉱山掘りにケーラ村に移動しちまってるんだ。だから、助けを呼び寄せるならワックルトの方が早いってサーム様から指示をもらってこっちに来たんだ。」


 クラスⅡ。スタンピートには発生状況によってⅠからⅤまでの段階が設けられています。Ⅰはまだ魔物が発生していない状況。所謂、魔素溜まりだけがある状態。Ⅱは既に魔物に対してその魔素溜まりが影響してしまっている状態。凶暴な魔物が生まれてしまった状態。そこから魔物の発生数によってクラスが上がっていく形になっています。


 「急がなきゃさらに魔物増えちまう。俺はサーム様から頼まれた物を冒険者ギルドと薬師ギルドから受け取ったらすぐにレミト村に引き返さなきゃならねぇ。これがリストだ。」


 サレンがリストを受けとり、すぐに職員達に指示を飛ばす。すると二階からメルカが下りてきた。サレンはエル達をチラリと見ると、サレンに目線を改め指示を出す。


 「今、動ける銀ランク以上の冒険者はすぐにレミト村に向かうのじゃ。冒険者の取り纏めはザックがせよ。参加した者には一律に金貨10枚を支給する。しかし、討伐した魔物の部位は全て冒険者ギルド扱いとし、その売却益で支払う事にする。」


 冒険者達からは歓声が上がる。討伐部位が手に入らないのはキツイように感じるが、それ以上に金貨10枚などと言う報酬が手に入る事の方が冒険者達には魅力的だ。しかも、最近になってレミト村に城壁のような巨大な防壁が出来た事は、ワックルトでも話題になっている。それを考えてそれほどの危険は無いだろうと考えているのかもしれない。


 しかし、リックとルチアは顔面蒼白になり、エルに判断を聞いてきた。迷う事は無い。すぐにでもレミト村に戻るべきだ。その時、エドガー達が確認する。


 「銀ランク以上じゃないといけないんじゃないのか。」

 「俺達の生まれた村だぞ!何が何でも帰るさ。」

 「心配せずとも良い。」


 急に真後ろで声がし、振り返るとメルカが立っていた。


 「リック、ルチア。すぐにレミト村に戻りなさい。万が一の万が一が起こった時にお前達が村にいる事が助けになるかもしれない。エル。そなたの同行も認める。」

 「「「ありがとうございます!」」」

 「この3人もさきほどエルさん達のパーティーに加わった者達です。いかがいたしましょう?」


 クレリノがメルカに問う。メルカはじっと3人を見つめる。すると、


 「エドガーとティルダの動向は認める。しかし、ヴィオラは残りなさい。」


 ヴィオラは悔しさで顔を歪める。しかし、それほど自分は実力が足りていないのだと思い知らされる。


 「すまんな。堪えてくれ。エル、そなた達の竜車ならば他の馬車よりは早くレミト村に着けるじゃろう。冒険者隊を組織してすぐに出立する旨をサーム卿に伝えてくれ。書状を書くのでな、少し待って俺。」

 「はい!」


 書状を受け取ったエル達が走りだそうとするとメルカが引き留める。


 「行く前にエルボア殿の所へ寄っていくのじゃ。良いな?」


 エル達はヴィオラと共にエルボアの店を目掛けて走り出した。ギルドを出ると二手に分かれた。エルとヴィオラはエルボアの店へ、他の者は宿に戻り出立の準備をする事になった。


 ・・・・・・・・・・

 エルボアの店のドアを乱暴に開けてしまう。エルはマズいと思いながらも店の奥にいるであろうエルボアを呼ぶ。


 「先生!!レミト村付近で魔力溜まりからのスタンピートが発生したと報告がありました!」


 カウンターで驚くポーリーの後ろからエルボアが現れる。


 「ポーリー、あの緑色の籠と奥にある前に教えた箱を持ってきておくれ。」

 「はい!!!」


 ポーリーが奥へ走っていくとエルボアはエルを近くへ呼び寄せる。


 「どんな状況なんだい?」

 「レミト村から来た冒険者の人が言うにはクラスⅡだと言ってました。」

 「そうか。それならば最悪の事態は無さそうかね。」

 「でも、レオ達は王都に行っててジュリア先生しかいらっしゃらないんです。他の冒険者も鉱山に行く為にケーラ村に集中してるらしくて。」

 「まったく。金に眼が眩むと人ってのは情けないもんだね。街を守る自警団みたいな役割を果たしてんじゃないのかい。冒険者ギルドは。」


 そう言いながらも周りの棚から必要な物を集めるエルボア。そこでエルは気になっている事を聞く。


 「先生。クラスⅡはそんなに危なくないんですか?」

 「危なくない事はないさ。魔物が増殖してるんだからね。しかし、あたしの中での危なくないって言う判断は、レオ達や発展してるレミト村目当ての冒険者がいる事が前提の話だったからね。それほど危ない事は無いだろうと思っていたんだよ。しかし、それだけ戦闘出来る者がいないとなると....」

 「僕達もすぐにレミト村に向かう許可をメルカ様からいただきました。」


 エルボアは顔をしかめる。


 「あたしとしては行かせたくないがね。リックとルチアの故郷だ。それにエルだってもう故郷みたいなもんだろうしね、あの村は。良いかい?慎重すぎるくらいに慎重に物事を判断しな。勢いで突っ走るんじゃないよ。」

 「....分かりました。」


 するとポーリーが頼まれた物をカウンターに並べていく。それをエルボアがマジックポーチの中へ収めていった。そのポーチをエルに渡す。


 「これはエルにやるよ。今後の生活に少しは役立つだろうさ。良いかい?何度でも言うよ。慎重に判断するんだよ。」


 エルボアがそう話すと店の前に竜車が停まる。窓からノエルが覗き込みながらこちらをみて鳴いている。


 「ほら、お行き。気を付けるんだよ。」

 「はい。行ってきます。」

 「エルさん!村をお願いします!!」


 ポーリーの言葉を背中に受けて店を出る。そして竜車に飛び乗った。それを下からヴィオラは見ていた。


 「皆、気を付けてね。」

 「おう!ヴィオラも。心配かけるけど、全員元気に戻って来るからな。」


 ヴィオラの心配にエドガーが答える。ヴィオラは不安そうに頷く。それを見たティルダとルチアが竜車から飛び降りヴィオラを抱きしめる。しばらくの抱擁の後、二人は竜車に戻りその瞬間ノエルは勢いよく走りだした。


 そのまま門を抜け、一行はレミト村に向けてひたすらに駆けた。

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