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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第三章 蒼月
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03-17.レシピ発明

 サームは今後のレミト村とケーラ村の統治について、村民の皆でも分かるように丁寧に説明していく。村民が安心したのは統治内容については国王陛下からもミラ州領主からもサームへ一任されていると言う事。サームがレミト村とケーラ村の村民の声を拾い上げながら必要な事を優先して手を付けていくと約束した事。

 そして、何より喜ばれたのが、


 「これはまだ正式決定はしておらんが、ほぼ間違いなくレミト村に冒険者ギルド支部が設立される予定じゃ。これによって冒険者の諸君は今までよりも納品や依頼の受注がより活発になるはずじゃ。」


これには話を聞いていた冒険者達も声を上げて喜んでいた。待ち望んでいた支部がようやく作られる。これで貴重な幻霧の森の素材をより安全に納品出来るようになる。

 その他にも冒険者が活動拠点をレミト村に移す場合には家を購入する場合と建築する場合に関しては補助金を出す事を約束した。補助金の額がいくらになるかはまず冒険者ギルド支部が出来た後に冒険者ギルドに相談を持ち掛けて欲しいとした。サームとしてはそれまでに冒険者ギルドに『冒険者移住補助金(仮)』の手続き窓口を務めてもらうつもりでいた。冒険者ギルドとしても一定の冒険者の確保に繋がるので旨味しかない。話には乗って来るはずだ。今まで冒険者ギルドが行っていた分割払い制度に代官からも更に補助を上乗せする形になる。レミト村で常駐して依頼を受けられる冒険者は自ずと銀ランク以上となるので、冒険者ギルドが制度の条件に定めている金ランク以上と言う条件にも当てはめやすい。


 「尚、商業ギルドや鍛冶ギルドなど他の職業ギルドに対しても支部の建設はワックルト領主様を通じて設立要請をしてもらえるように働きかけるつもりじゃ。これまで皆がレミト村を少しづつ発展させてくれていたこの流れを大きなものに変えて行けるよう儂達も皆と共に努力する事を約束する。これから、宜しく頼む。」


 その言葉に広場の民衆は沸き立つ。今までどんなに冒険者達の往来が増えようと自分達で畑を開拓し村の収入を上げようとそれが村に直接還元されている様子を感じられなかった。それは全て前領主の不正が原因であったのだが、サームが代官になり、自分達の頑張りが目に見える形で報われていく事に更なるやる気と活気に満ちるのを感じていた。

 そして、最後に騎士隊長のバルが民衆に呼びかける。


 「尚、これより我々は代官様の住まわれる館を村の南側に建設する予定だ。もし、仕事が無いような者がいる場合はぜひ建設を手伝ってもらいたい。もちろん日当は支給する。ぜひ考えてみてくれ。」


 何人かの村人から既に手が挙がっていた。レミト村の改革が既に始まっている事を感じさせた。


 ・・・・・・・・・・

 エル達三人は広場が解散となった後、シスター・エミルと話をする為に孤児院に向かった。本当であればサームも同席したい気持ちはあったが、さすがに代官が同席するのは世間体もあり控えた。代わりにダンとジュリアが同席する事になった。


 「リック、ルチア、お帰りなさい。エルさん、お帰りなさい。ダンさんもジュリアさんもご苦労様です。」


 エミルが茶を用意してくれる。今まで出ていたような出がらしの茶ではなく、上品な香りを感じる茶葉だった。そう言った部分にお金を掛けられるほど孤児院の運営は安定してきたと言う事だろう。

 リックが代表してエミルに話をする。


 「シスター。俺達、冒険者としてレミト村で家を借りて暮らそうと思うんだ。それでシスターに相談したくて。」

 「....そうですか。もうこんな日が来てしまうんですね。ダンさん、ジュリアさん。お二人から見てリックとルチア、そしてエルさんはその暮らしをするに値する冒険者になれているでしょうか?」


 エミルの真剣な眼差しに二人が答える。


 「三人共、実力は既に鉄ランクの範疇は大きく超えています。後にも先にもまずは冒険者としての依頼をこなす経験を積むことが最優先です。その中で、ワックルトで暮らし始めるなら反対したかも知れませんが、レミト村を拠点にするならば我々やシスターの目も届きますので、三人も無茶はしないかと。」


 そう言ってリック達を覗き込むダンにエミルは笑みをこぼす。ジュリアが言葉を預かる。


 「私としてもリック達には冒険者として更に経験を積んでもらう時期が来たと感じています。拠点をレミト村としつつ依頼はワックルト周辺で受ける。手間になると思われるでしょうが往復の道程で少しづつ遠征の練習にもなります。あまりに個人の実力を上げる事に注力しすぎましたので、これからはパーティーとしての経験を積んでもらいたいと考えています。」

 「そうですか。お二方がそう判断していただけるなら私としては反対はございません。リック、ルチア、エルさん。良いですか?これからはもうあなた方は一人の大人として冒険者としての責任を問われる事になります。孤児院からも、サーム様やダンさん達からの後ろ盾も無い中での活動が始まるんです。あなた達が考えている以上に大変な道のりになるでしょう。しっかりと覚悟して臨んでくださいね。」


 エミルの言葉に三人は真剣な眼差しで頷く。エミルは「子供達には自分達で話をしなさい」とリック達を孤児院の子供達の元へ向かわせます。


 「ダン様、ジュリア様。過分なご配慮、誠に感謝しております。リックとルチアの成長を本当に有難く思っております。」

 「エミルさん。私達も必要と感じたからこそ彼らを手助けしました。エル様を助ける為と言う事が最初はあったにせよ、今はエル様と変わらぬ私達の弟子です。彼らが冒険者として大成するまで、しっかりと面倒はみさせていただきます。それは孤児院も同じです。」

 「サーム様が代官様になられたと聞いた時は、やっとこの村が救われると心が躍りました。期待して良ぉございますよね?」


 ダンとジュリアは笑顔で頷く。


 「シスター・エミル。ここだけの話です。この数年でレミト村は皆さんの考えが追い付かない程発展するはずです。それこそレミト町と呼ばれるほどに。」

 「まさか....それはさすがに。」

 「いえ、本当に内々の話ですが、近々中にオーレル卿の土魔法を用いて今、村を囲んでいる丸太防壁を全て城壁クラスの防壁に作り替えます。ただ通常の城壁とは違い、レンガなどを用いず岩と石、土で作る物なので恐らくは半年ほどで完成するかと思いますが、今の予定ではその時に村の広さを二倍ほどに広げる予定です。」

 「にっ....二倍?」


 もうすでにエミルの考えは追い付かなくなってきている。それほど広げても土地を持て余すだけではないだろうか。


 「冒険者ギルドの支部が正式決定すれば、それに商業ギルドが後れを取る訳がありません。恐らく商業ギルド支部も同時期に支部の設立許可が出るはずです。そうなればケーラ村の西にある『アリマンの岩場』の採掘を求めて鍛冶ギルドが、そして何より深緑の賢者が代官としている場所に錬金術ギルドが無いなど考えられませんから。今の時点でこの4つのギルド支部の建設は確実かと。そうなればその支部を建てる土地、そこで働く職員達の住む家、それに伴って訪れる人達が求める宿や商会、店の建設予定地、恐らく二倍でも足りないかも知れません。それが数年の間に一気に押し寄せることになるんです。」

 「....サーム様が代官様になられると言う事がこれほどの影響が....」

 「陛下が手放したくなかった王政の助言者の手腕を試されています。サーム様も全力を持って改革に乗り出されるかと。」

 「なるほど....」

 「しかし、これほどまでの急な発展は新たな火種や不安材料を呼び込む事も考えられます。シスター・エミルにもぜひご協力をいただきたいとサーム様は考えてらっしゃいます。」


 それは民衆の中に不穏な動きが無いかどうか、悪い噂を聞く冒険者や商会などが無いかどうかを噂レベルでも構わないのでダンやジュリアを通じて内通して貰いたいと言うモノだった。内通と言うとあまり聞こえは良くないが、何よりも村民たちの平和を想っての事であると説明した。


 「お任せください。どれほどのご協力が出来るかは分かりませんが、気を配るように致しましょう。」

 「感謝いたします。」


 ・・・・・・・・・・

 そこからのレミト村はまさに祭りか戦かと思われるほどの忙しさとなった。代官の館が出来上がっていないので、宿屋レミトを代官一行で借り上げた。村にあるたった二軒の空き家を冒険者達に貸し出した。エル達は一時的に孤児院に間借りして生活した。子供達の世話も一緒に手伝えるので、エミルからすれば願っても無い申し出だった。


 オーレル卿と共に建築資材の第二陣がやってくる。どんなに急いでも代官の館完成には二ヶ月はかかる。オーレルはその間に代官の館の土台を作り終えた土魔法師とリックを連れて、新たな村の防壁を作る作業に入る。

 そこでエルの才能が発揮された。ワックルトの道具屋の依頼を受けた時に見つけた素材のいくつかを鑑定した時に「コンタル」と言う合成レシピを見つけた。鑑定スキルの説明によれば「乾燥させると非常に硬くなる建築資材」とあった。

 そのレシピをオーレルにひっそりと伝えた。するとオーレルは非常に驚いた。これまでの城壁の作成には岩と石を積みあげながらその隙間を小さな石と漆喰で埋める作業を何層にも重ねて行っていた。しかし、エルの齎した「コンタル」を使えば粘質を持ったコンタルを土魔法で盛り上げ、風魔法を使い乾燥固定させると言う手法を使える。上手くいくかどうかはやってみなければ分からないが、間違いなく今までよりも強固な城壁が完成するだろう。


 とりあえず高さ5m程の城壁を横幅3m、厚み1m半ほどで作ってみる。コンタルの材料もそれほど入手困難な物ではなく、今レミト村にある材料を使い切って試作を作り、すぐにワックルトと州都ミラの商業ギルドに材料の確保と運送を依頼した。

 そして試作の城壁が完成した。冒険者達と創竜の翼の手を借り強度テストが行われたが、投石機を使った攻撃では傷すら付かず、ジュリアの大魔法でようやく少し崩れた程度だった。創竜の翼のメンバーの判断では村単位ならば攻撃を集中すれば二日もあれば人一人が通れるほどは崩せるだろうが、城レベルの城壁となるとかなり難しいと判断した。


 この「コンタル」に関してはオーレルはある人物から伝授された秘伝のレシピだとした。なのでオーレルとエル以外はどうやって作るのかを知らない。土魔法師達はオーレルとエルが作成した凝固前のコンタルを魔法を使って石や砂を混ぜ込み、固定化させていく作業だけで良い。圧倒的に以前の城壁の作成手順よりも少なく期間も短い。


 その日の作業が終わり、エル達三人はオーレルの泊まる宿の部屋へと呼ばれた。そこにはレオとダンもいた。オーレルからある提案をされた。


 「エルよ。エル達のパーティーで商会を作る事を検討してはくれぬか?まだ銅ランクになったばかりの三人に急にこんな事を言うのには理由がある。あのコンタルが原因じゃ。」


 オーレルの説明では、コンタルの実用性はあまりに高く、恐らくレシピが公開されれば瞬く間に王国全土に広まる事になる。しかし、今のままではそのレシピを開発した者に恩恵が手渡らない事になってしまう。なので、エル達のパーティーで商会を設立し、コンタルのレシピをエル達の商会で開発したモノとして商業ギルドに登録し、オーレルとダン達創竜の翼が保証人として登録する。そうする事で今後このレシピを購入する際とコンタルによって利益を得た商会はレシピ開発者に対して権利金を支払う義務が生じる。そうやって様々なレシピを開発した者の権利を守るよう法に定められている。


 「でも、オーレル爺ちゃん。俺達はワックルトのギルドで商会を立ち上げるには専門知識を持った人を勧誘して四人以上のメンバーにならないと商会を作るのは難しいって聞いたんだ。」


 リックがオーレルに相談すると、オーレルは満面の笑みとなる。こう言った状況になっても自分を爺ちゃんと呼んでくれる事に喜びを感じてしまう。リックの疑問に関してはダンが答える。


 「今すぐにってのはちょっと難しいね。まずは3ヶ月くらいは必死で銅ランクとして依頼をこなしまくって貰う。そこで商業ギルドメインの依頼を....そうだな、エルに受けて貰おう。そしてリックとルチアは素材採取をしながら魔物討伐の依頼を同時進行で受けてもらう。そうやって冒険者ギルドと商業ギルドにこの子達ならば信頼できると言う実績を作ってもらう。後の四人目のメンバーに関しては簡単だよ。」


 これに関してはリック達も以前自分達で話し合った案があったのでそれをダンに提案してみる。


 「そうだね。よく仕組みを理解してたね。商会メンバーに関しては無理にパーティーメンバーである必要は無いし、商会登録さえされていれば問題は無い。まぁ、今後の事を考えるなら冒険者登録もいずれはしておくべきだとは思うけどね。」

 「やっぱりそうなんですか?」

 「支援者としてパーティーとして登録していれば、ポーリーは今後依頼を受けなくても三人が達成した依頼によって冒険者評価を上げる事が出来る。それは冒険者ランクが上がっていった時にポーリーの冒険者としての信頼度も増す事になる。将来、君達がクランとして成長した時にクランの資金を預かる責任者としてポーリーの信頼度は絶対に必要だ。まぁ、まずは本人と話し合ってみる事だね。」

 「分かりました。ワックルトへ行った時に相談してみます。爺ちゃん、それで良いかな?」

 「もちろんじゃ。」


 エル達もまた前へ進むきっかけを見つけていた。

※作中に登場する「コンタル」はオリジナルの建材です。今後も合成の為の素材等は細かく載せるつもりはありません。皆さんの中で想像するコンクリートの素材に近いようなものでレミト村でも手に入る程度の素材だと想像してお読みいただけると助かります。(リアルを追求し過ぎるとこの舞台設定では絶対に作れなかったので....ww)

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