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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第三章 蒼月
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03-13.ワックルトへの帰還

いつもお読みいただきありがとうございます。

他に書いている作品の影響でここから文章内に「・・・・・・」という行が現れるようになります。これは場面転換を表しておりますので、読みづらい方はぜひ感想をお聞かせください。

 門兵のチェックが終わりワックルトの街へと馬車を乗り入れる。サーム達はそのまま森狸の寝床へと馬車を向けた。先にノーラとジョバルが店に入り、皆を受け入れる準備をする。その間にテッドとシュー、ノエルを裏の小屋へと繋ぎ、水を使って旅の埃を取ってやる。

 初めて馬車を曳き長距離を走ったノエルの疲れを心配していたが、本人は楽しかったようでテッドとシューと共にお互いの首を絡め合って仲が良い様子を見せる。

 エルはノエルの首や体をグイグイと押してダンから教わった走竜が喜ぶマッサージをしてやる。テッドにはリックが、シューにはルチアがマッサージする。心配するエルをよそにノエルは気持ちよさそうにだらしなく舌を出してボ~ッとしている。その顔が面白くてエルは思わず吹き出してしまう。それを見てノエルも嬉しそうに鳴き声を上げる。


 綺麗に洗った貰えた三頭はお互いに顔を見合わせタイミングを合わせたように全身を震わせる。体に付いた水滴がエル達に一気に襲い掛かってびしょ濡れになる。それを見てノエル達は嬉しそうに鳴き声を上げた。

 ノーラが宿に入れる準備が出来たと声をかけるが、エル達の様子を見て大笑いする。


 「なぁ~にやってんだい!そのまま風呂に入っておいで。ジョバルが準備してくれてるはずだから。」


 そう聞いて着替えを取りに馬車に戻る3人の背中に「体を冷やすんじゃないよぉ!」とノーラは声をかける。楽しそうに走っていく3人の背中にため息をつくノーラの顔は笑顔だった。


 ・・・・・・・・・・

 エル達がノエルの世話をしている間にサームとレオ・ダン・ジュリアは冒険者ギルドを訪れていた。錬金術ギルド本部ギルド長のバルニア・ハインツのエルに関する書状をギルドマスターのメルカに渡す為だ。サームはギルドマスターの部屋へと通された。


 「サーム殿、王都までの道程ご苦労でした。いかがだった?ギルド本部は?」

 「問題なく。アーヴィン殿からもこれ以上の追及や措置も無いと言質をいただきました。」

 「そうか。それは良かった。」

 「メルカ殿、これを。」


 サームがバルニアの手紙をメルカへと手渡す。メルカは手紙の封印を見て眉をピクリと上げる。封印の紋章がハインツ家の家章である事が見て取れた。港町デルタにある錬金術ギルドのギルド長が冒険者ギルドの一支部のギルド長に過ぎないメルカに手紙を書く。年齢はメルカが遥かに年上ではあるが、王国内の序列で言えばバルニアは上級貴族であり、メルカは一支部のギルドを預かる一領民に過ぎない。


 しかも錬金術ギルドと冒険者ギルドはほとんど繋がりが無い。冒険者ギルドが繋がりあるとすれば薬師ギルドなどは冒険者ギルドへ薬の提供なども行っているので、普段より交流がある。そして商業ギルドなどは競い合う相手として意識し合う関係だ。しかし、錬金術ギルドはほとんど交流が無い。錬金術ギルドに所属する店舗などに個別に冒険者が訪れる事は当然あるが、ギルド同士の付き合いは皆無である。

 その相手、しかも本部長官からの手紙。ただの挨拶状で無い事は安易に想像できる。メルカは封を開き、一呼吸して手紙を開く。そしてゆっくりと内容を読む。読み終えると眉間を抑え、深呼吸をしてサーム達と向き合う。


 「サーム殿、この手紙の内容は?」

 「承知しております。」


 メルカは背もたれに体を預け、ふぅ~っと大きく息を吐く。


 「まさか。あの時の感覚が、同じエルダーの血を感じたと言う事なのか。しかし....」


 メルカは己の考えを口に出しながら必死に頭の中を整理する。初めてエルが冒険者ギルドを訪ねて来た時のメルカが『視た』もの。あの魔力と不思議な感覚がやはり間違いでは無かったと言う事だ。


 「エルがまさかエルダー種である可能性が....サーム殿。今後いかがする?」

 「はい。実は私はこの後、レミト村とケーラ村の統治の為、代官に任命される事になっております。」


 再びメルカの眉がピクリと動く。サームは王都とミラであった事をメルカに説明する。ワックルトの臨時領主が決まった事。統治体制を一新する事。レミト村への冒険者ギルド支部の要請を出す事。それを全て聞き終えるとメルカは何かを考え始める。


 「恐らくギルド本部から支部の設立の許可は滞りなく下りるだろう。何より断る理由が無い。幻霧の森に近い二つの森の貴重な素材が手に入るだけでなく、支部が出来る事で冒険者達の常駐数が上がり、自ずと村の防衛力は上がる。国境に近い村であれば有難い事だ。支部を建てる事はギルド主体で決める事が出来ないのがツラい所だ。領主や国王からの要請無くしては新たに支部も建てられんとは。面倒な世の中よ。」


 メルカの言葉にサームも頷く。国と種族同士が絶え間なく争い合い、戦争が常であったエテネル期を経てドルア統一暦を迎えた後もエテネル期や統一国家アウロスの頃の治世の名残が各国の法律や倫理観の中に残されている。はっきり言えば千年近く昔のルールが未だに罷り通っている。当然、時代にそぐわないものも出てくるが、その時の施政者達は大きな変化を求める事無く維持を選んだ。

 そう言った中で他国との戦争も無い世の中であるにも関わらず、相変わらず有力貴族は王都に住み置かれ、各領地の砦・城の建設やギルドの支部設立など国王の許可なく勝手が出来ない事があまりに多い。砦の建設などはまだ理解が出来る。しかし、ギルド支部に関しては昔と違い今はギルドは王政から切り離された独立組織となっているはずだ。それであるにも関わらず、ギルドの発展に王政が待ったをかける形になっている。


 しかし、その決まりを改める事もまた非常に労力と時間が必要で、誰もが煩わしさを感じながらもその手間を考えて行動に起こす者はいない。


 「すぐにアーヴィン殿と連絡を取り、支部設立の準備を進める。教えてもらえて良かった。しかし、まずはエルの事だな。さて、どうしたものか。」

 「エルが一体何者なのか。それだけでも分かれば。」

 「ハインツ卿の鑑定によって人族で無い可能性が大きく高まった。であるならば、あれほどまでに()()()()()()()()()()()()がいたであろうか。ハーフリングであれ混合種であれ、必ず姿かたちに何かしらの特徴が現れる。エルにはそれが一切見られない。うぅむ....」


 バルニアが言っていた気になる言葉。『神器三種族』。西ドルアから離れたのは記録にも残らぬ伝聞の時代。西ドルアで神器三種族の面影を感じられるとすればヒマリのような竜人族の血を残した者達。神器三種族の中で最も好奇心が強く、他種族との交わりや交流を望んだ竜人族。三種族の中では最も他種族との血族を残したと言われている。

 もしやとも思うが、やはりエルには身体的特徴が見られない。一体。唯一可能性が高いのはエルダーヒューマンと言う可能性。古代人族。しかし、やはりそれもバルニアの人物鑑定に引っ掛からないのは可笑しい事になる。


 あまり思い悩んでも結果が出ない事は分かっている。今までにサーム達より報告されているエルの行動・思考を思い返す。


 「やはり一番気がかりなのは何度か発作的に表れた目の色の変化。そして意識が無い状態での行動。そこがどうして起こるのか。」

 「はい。」

 「そしてその発作を、()()()()引き起こす事は出来るのか。」


 部屋の空気がピンと張り詰める。あの状態がどうやって起こるのかは分からない。しかし、あの騒動の時にエルは自制を失いながらも今まで使った事の無い魔法を操りレオの掴んだ手を振りほどきそうな程の力を見せた。自分の能力を引き出せる状態は以前に話した牛人族や虎人族のような特徴を持つ人族など聞いた事も無い。


 「もし人為的に引き起こす事が出来るとすれば?」

 「いや、我々が引き起こすのではなく、本人がそれをコントロール出来るようになればエルが街の外で行動をしていても心配事は一つ減る事にはなる。」


 あのような大きな力をコントロールする。今のエルにそれが出来るのだろうか。


 「あまりに謎が多い事にこれ以上時間を使っても仕方がないな。今はエルを見守る事しか出来ん。しかしサーム殿は代官としての日々が始まり、創竜の翼もエルの指導から少しづつ離れていく。エルも新たな生活が始まる。」

 「エルに対しては心配事は尽きません。しかし、我々はエルを鳥カゴに閉じ込めるような事はしないと決めております。これからは冒険者としてエルが成長していくのを見守る中で何か手掛かりになるモノが見つかれば良いのですが。」

 「そうだの。私も気を付けて見守るようにしよう。しかし、サーム殿が代官か。レミト村とケーラ村のこれからの発展が楽しみだな。どうするつもりだ?」


 それはレオ達も同じだった。ミラ州の領主テオルグからレミト村とケーラ村に関してはワックルト領主アンクレットに事前に報告さえすれば、発展や新規開拓等の許可は出ている。領地の開発は国王より賜った州領地の境を越えて開拓しなければ街や村の発展の裁量は領主に委ねられている。城や砦などの戦争や軍事力に関わる建設や保有戦力の拡大(徴兵による最大兵力増強など)は国王の許可を得る事が絶対であり、破れば最悪の場合は領地没収の上、貴族爵の剥奪もあり得る。

 しかし、サームは楽しそうな笑顔を浮かべメルカの問いに答える。


 「ふふふ。楽しみになさっていてくだされ。まぁ、面白くしてみせますわい。内政はワシの主戦場、領主様の希望に沿う村へと発展させてみせます。」


 メルカは深緑の賢者と言われる男の久しぶりの戦場を見れる楽しみに心躍らせていた。


 ・・・・・・・・・・

 アンクレットがワックルトへ到着するまでの二日間はエル達は今回の騒動で心配や迷惑をかけた人々へ挨拶に回っていた。冒険者ギルド、商業ギルド、そして騒動のきっかけになった家具屋。先々で何も罰なく帰ってきた事を喜んでもらえた。そして、皆から言われたのが「街を助けてくれてありがとう」の声だった。

 家具屋の主人から聞いた話だが、領主やその家族が起こした問題に口を出すような真似はそれこそ命をかけて行わなければならないような事らしかった。主人も直接見た訳では無いが、同じ職人仲間から聞いた話では隣のタリネキア帝国では領主に対して苦言を呈した領民が自身はおろか一族全てが極刑に処されたと言う話もあるそうだ。


 こう言った話が昔から話題に困らないほど周りに転がっているからこそ、今回のエルの行動を領民達は心配していた。同じ領民の親子を守った小さな冒険者が、まさかワックルトの領民では無いと言うでは無いか。自分達ですらただ受け入れていた領主の息子の横暴をたった一人で立ち向かった少年。それだけではない。親子の命までもを救ってくれた。

 今、ワックルトではエル達はちょっとした英雄扱いをされているらしい。


 家具屋の主人と別れ、エル達は最後の訪問先へ向かう。店のドアを開ける。するとカウンターからひょっこりとポーリーが顔を出す。ここは薬屋『草原の風』。エルの薬学の師匠でもあるエルボアが営む店だ。

 ここにはリックやルチアと同じレミト村の孤児院出身のポーリーが働いている。


 「いらっしゃいませぇ。あっ!リック、ルチア、エルさん。いらっしゃいませ。」

 「よぉ!真面目に働いてるかぁ?」

 「うん。大変だけど、楽しいよ!」


 ポーリーがエル達と話していると奥からエルボアが現れる。


 「なんだい。店が騒々しいと思ったらエル達じゃないか。無事に戻ってこられたんだね。」


 エルは居住まいを正しエルボアに頭を下げる。


 「先生、ご心配をおかけしました。王都の冒険者ギルドからも罰は無いと言っていただけました。」

 「当り前さね!自分の住んでいる訳でも無い街の住民を助けたにも関わらず、罰を受けるなんてある訳がないじゃないか。もしそんな事になるんなら、それは決まりの方が悪いのさ。」


 エルボアはふんっと鼻を鳴らし、当然だと言わんばかりに腕を組む。エルは王都であった事をエルボアとポーリーに話す。ギルドでの話は当然だと聞いていたエルボアだったが、話が陛下との謁見の話になるとさすがに驚いた様子だった。

 エルボアはエル達に言い聞かせるように話す。


 「良いかい?私達のような貴族爵も持たない一般領民が陛下にお目通りが叶うなんてのは、一生無い事なんだ。それがサームのおかげであれね。良かったね。3人共。」


 エルボアが珍しく褒めてくれるが、あれだけ緊張する場所には申し訳ないが二度と御免被りたい気分の3人だった。そしてエルボアが重要な事を伝える。


 「陛下がそう言ってくださったなら、エルはこれで誰に邪魔される事も無く錬金術ギルドと薬師ギルドに見習い登録をしてもらえる。陛下が公平に判断せよと仰せになられた事は、エルだけじゃない、これから錬金術師と薬師を志す多くの庶民の助けになるんだ。エル、胸を張りな。」


 優しく頭を撫でてくれるエルボアにこれからの事を話すエル達。そこでエルボアの表情が固くなった後、ため息をついた。


 「結局、こうなってしまうんだね....」


 エルボアが静かに話し始めた。

誤字脱字ありましたら教えていただけると助かります。また、感想・評価・アドバイスもお待ちしております。今後ともよろしくお願いいたします。

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