03-11.歩み始める一歩
いつもお読みいただきありがとうございます。
長い間休載し誠に申し訳ありません。これから不定期ではありますが投稿していきたいと思います。
その部屋にいる誰もがバルニアの言葉を受け止められずにいた。「人ではない」?ではエルは何だというのだ。他の種族の判断要素となる物は何も見えない。ハーフリングと呼ばれる混血種に表れやすいと言われる種族別の特色も全く見えない。
サームは頭の中で何度も今までのエルとの生活を思い起こす。もちろんサーム達にも「エルを人族として認識した先入観」があった事は間違いない。しかし、そうであったとしても、エルが人族では無いかも知れないと思わせるような行動は見えなかった。
いや、あったのか。
「....人でないとすれば、なんだと言うのじゃ。確かにエルには時折自分を見失い、まるで別人のような、この世とは違う場所にいるかのような状態に陥る事はあった。しかし、そうなってしまう原因も、それが何であるかも何も分からなかった。それが、バルニアには分かると言う事か。」
「サーム様。どうか。気をお静めください。」
自分の不安をかき消すように言葉を捲し立てるサームにダンが落ち着くよう口を挟む。サームは深く深呼吸を二度三度して、バルニアに向き合う。
「兄よ。私の『人物鑑定』で分かった事をお教えします。名前はエルで間違いないようです。しかし、種族を観る事が出来ませんでした。私が今までこのスキルを行使し、人族の鑑定が出来なかった事はありません。それは人族と交配した他種族のハーフリングももちろんの事です。」
「では、エルは、あの子は何だと言うのだ。」
バルニアは自分が『人物鑑定』を行使して観えた事をそのままに伝える。観えたのは、名前・スキルのみだった。種族・年齢は靄にかかったように何度スキルを行使しても最後まで観える事は無かった。
「以前に私が同じ状態になった人物は数名おります。その者達には共通点がありました。」
「共通点........」
バルニアはゆっくりと頷く。
「それは、【神器三種族】と【古代種】でございます。」
バルニアの言葉に皆の表情は更に固い物となっていく。そんな、馬鹿な。
【神器三種族】とはこのドルア大陸が西と東に分かれる前に住んでいたとされる種族。竜人族・人魚族・象人族の事だ。今は東ドルア大陸に住み、固有の文化と国を持つ種族。その種族が大挙して去っていった事から、その昔に西ドルア大陸は『神に見捨てられし大陸』と呼ばれた事もある。
ヒマリのように竜人族の血を受け継ぐ者もいるが、それこそ非常に希少な存在である。それが純血種となれば恐らく数百年単位で西ドルア大陸では確認されていない。
そしてもう一つの【古代種】。これは所謂『エルダー種族』と言われる種族の事を指す。人族・エルフ族・ドワーフ族、そして猫人族と犬人族。西ドルア大陸では『基礎五種族』と呼ばれる種族達。その五つの種族にはそれぞれエルダー種と呼ばれる各種族の能力を非常に色濃く受け継いだ者達がいる。それがどのように生まれ、どう血脈が受け継がれるのか、全てが謎なのだ。
ロンダリア王国で最も知られるエルダー種と言えば、ワックルト冒険者ギルドマスターのメルカ・グラジオラスである。エルフ族のエルダー種で本人が自分がいつ生まれ、親が誰なのかすらも覚えていないと言っている。
エルが、まさか。信じられないと言う気持ちでサームはバルニアの言葉を聞く。
「これはただの共通点に過ぎず、これでエル殿をそうであると断言するのはあまりに早計です。しかし、純血の人族と人族のハーフリングで無い事は恐らく間違いないであろうと思われます。彼がそれを分かっていないのも、メルカ殿から伝わるエルダー種の話と照らし合わせれば、少し納得できる部分はあるかと。ただ、ではなぜ彼が帝国の奴隷商に捕らわれる事になったのか。彼が帝国の領内で生まれたかどうかの説明すら出来ません。しかし、サーム達が探されていた道に差す僅かな光にはなったかと。」
サームは動揺する自分を悟られぬよう、ゆっくりゆっくりと何度も頷く。エルにどんな過去があろうと受け入れる気でいた。しかし、まさか。人族に由来する種族ですら無い可能性がある。恐らくそれをエル自身が認識していない。
サームは後ろに控えるダン達の方を振り返る。
「では、何度かエルが見せたあの蒼い眼はその種族に関わる何かである可能性もあると言う事か。」
「一概には言えませんが、可能性の一つとして考えておく事は必要だと思います。興奮状態で目の色が変わると言えば、牛人族、虎人族。そして、........竜人族。」
もちろん竜人族の目の色が感情によって変化すると言うのは、古い書物にしか書かれておらずそれを確認した者はいない。竜人族の血を受け継ぐヒマリもそのような事になった事が無いと言う。
「何より牛人族や虎人族の目の色が変わるのは赤い色に変わります。エルは蒼。」
更に重くなる部屋の雰囲気の中、バルニアはサームに話しかける。
「兄よ。この後、私と魔法契約を結びましょう。絶対にエル殿の出生に関わる情報を漏らさぬと。どれほどサームと私に他の者達には理解出来ぬ繋がりがあろうと、徹底しておく必要があると思います。」
「バルニアよ....すまぬ。恩に着る。」
「私の方でも今一度調べてみます。しかし、この事によって彼を部屋に縛り付けるような真似はいけません。今と同じように自由に経験を積ませてあげる事で、何かそれに繋がるものが出てくる可能性はあります。文を書きますので、ぜひそれをメルカ殿に。教えを乞うべきです。」
「そうじゃの。そうしよう。」
バルニアはサームの言葉に頷きながら更に言葉を続ける。
「事前に手紙に書かれていた憶測と私も同じ推察です。恐らくエル殿には何らかの「妨害」「認識阻害」「隠蔽」が極めて高い熟練度で習得しているか、その上位スキルが備わっているものと思われます。しかし、どのような生まれでどのような生き方をしてきたかは分かりませんが、あまりにエル殿の身の上を隠すのに都合の良すぎるスキルが身に付いているように思われます。」
サームはやはりかと思った。エルがもしサームに話したように10年ほどしか生きていないのだとしたら、これほどのスキルをどうやって身に付けたのか。恐らくサームと知り合って後の訓練や勉強の何十倍の努力をしたとしても、身に付くとは思えない。と、するならば天啓たるものなのか、もしくは10年などではない年数を生きて来たのか。
あまりにまとまらぬ頭の中を落ち着かせるように、深く呼吸をした後に茶を啜った。これ以上はここで議論をしても恐らく進展はあるまいと、一行は屋敷へ戻る事とした。
ギルドを案内してもらったエル達はとても上機嫌だった。今まで自分が練習し体得してきた薬などがどれくらいの値段で取引されているのかを知り、見習いランクだとどのくらい値引きされてしまうのかも職員が丁寧に教えてくれた。
今後はワックルトにあるギルド支部にも顔を出しながら、今必要とされる薬剤や素材などの納品をしていく事になる。職員も丁寧に「是非ともご協力をお願いします」と頭を下げてくれた。
屋敷に戻るとテオルグからサーム宛に早くも文が届いていた。中を確認すると代官を任せるにあたり、いくつかの確認事項と共有したい情報がある為、ワックルトへ戻る帰りに手間にはなるが州都ミラへ立ち寄ってもらいたいとの事だった。
サームとしても代官として当然応じねばならない事だし、テオルグ達がこの先どのような統治を目指すのかと言う事も当然知っておく必要があった。サームは出発を明後日とし、明日はせっかくだから王都見物をしてから帰ろうと言う事になった。それを聞いた時のエル達のはしゃぎ様にダン達も含めて笑顔になった。
明くる日、少しゆっくりしてから街へ出た一行は、まずエル達がレミト村の皆に買いたいと言っていたお土産を買う為に様々な店を回った。リックやルチアは子供達の服の素材になる布をたくさん買っていた。エルは調理道具がだいぶ古くなっていたのを見ていたので、鍋や包丁などを買い求めた。
3人が色々と皆に気遣って品を選んでいるのを見て、ダン達はいつも以上に笑顔で眺めていた。久しぶりにこれほど気を許した状態でゆっくりと散策出来るのはいつ以来だろう。
エル達は自分達が今までに冒険者生活で稼いできたお金で色々と買い求める。冒険者達はこうした事で社会と言うものを知っていく。市井の者達は王都に住んだり、商会に勤めて行商などで他の街を渡り歩かない限りは生まれた村や町から出る事無く生涯を終える事がほとんどだ。
エル達の買い物した物をダンがマジックバックで預かり、屋敷へと戻る。各自の部屋へ戻りゆっくりしているとイサドラが部屋を訪ねてくる。どうやらサームから集まるように声が掛かったようだ。イサドラに尋ねてもイサドラ達も集まるように言われており、話の内容が何なのかは分からないとの事だった。
広間に集まると創竜の翼のメンバーも集まっていた。オーレルももちろんである。サームはティラー達も含めて伝える事があると言う。
「今回、儂はミラ州ワックルト領のレミト村とその西にあるケーラの代官を務める事となった。それにより今まではっきりとさせずなし崩しにこの王都の住居も維持してきたが、今回の事を以てこの屋敷を手放す事とした。」
この決定にエル達や創竜の翼のメンバー達よりもこの屋敷で雇われている者達への衝撃が大きかったはずだ。しかし、そこは使用人たちは感情を出す事無く話を聞く。
「本当に申し訳ないが何人かの者には暇を与える事になる。そして、希望してくれる者はレミト村での代官業務を助けてもらう事になる。これに関しては強制はせぬ。それぞれが自分の将来の事を考えて判断をして欲しい。猶予は二ヶ月。二ヶ月後にレミト村で仕事を始められるように判断してくれれば良い。」
そこでティラーが一歩前に出て、サームに発言の許可を求める。
「サーム様。私は迷うことなくお供させていただきます。今までにサーム様、そしてお父上様にいただいた恩恵に報いるだけの働きは出来ておりません。どうか、レミト村でも細事をお任せいただければと。」
「ティラー。宜しく頼む。では、こちらはティラーに任せるとしよう。皆は自分の進退をティラーに報告するように。もちろん暇を取る者に関してはちゃんと支度金も用意するので心配はいらんぞ。しっかりと考えてほしい。」
とりあえずはサーム達が現地で自分たちが住む邸宅と代官としての仕事を行う行政館を建設する(どちらもかなり小規模に作る予定)事とした。その準備が整い次第、王都から呼び寄せる事とした。今、王都の屋敷で雇い入れているのが18名。全員を雇い続けても問題は無いのだが、これを機会に全員に今後の人生を考えてもらいたいと言うサームなりの気遣いであった。
ここでサームはエル達にもある提案をする。
「今回、儂が代官に任命された事により、今後は森での生活は不可能になる。小屋が使えない訳では無いが今までの様に長期間そこで暮らすと言う事は出来なくなる。レミト村とケーラの統治を軽視しておると見られるような状況は作りたくない。そこでだ。エルはリック・ルチアと相談し、レミト村かもしくはワックルトに居を構えてはどうか?」
その提案に3人は驚いたが、状況を説明されるとリック・ルチアは今の生活でも継続していけるが、エルは新しい家を見つけない事には今後もサームの元で共に暮らす事になる。それでは、これまでの修行が意味を成さない事になってしまう。
「リックとルチアは以前よりレミト村に自分達の住居を構えるのが目標じゃったじゃろ?では、この機会に作ってみてはどうじゃ?うん?材料と資金か?リック。何のために土魔法をオーレル殿から教わっておるのだ。土魔法を使えば土壁の上等な家が作れるぞ?あとは村の人に手伝ってもらって屋根を作るだけじゃ。まぁ、そこは現地でオーレル殿と共に試作して見る事じゃ。」
リックとルチアは自分達の家が出来るかも知れないと言う期待感にワクワクしていた。エルはまだどうして良いのかが分からず、ワックルトへ戻るまでの間にゆっくり考えると答えた。
急いで答えを出すような事でもない。リックとルチアがレミト村に住むからと言ってエルもレミト村に住居を構えなければいけない訳でもない。
そこはゆっくりと話し合って決めて行けばいいのだ。
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