03-04.積み重ねた思い
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予定通り二日後にサーム達がワックルトへと到着した。サーム達はそのまま冒険者ギルドへ向かい、エル達ともギルドで合流する事となった。
エル達がギルドに到着すると、その日は二階は立ち入り禁止の措置が取られていた。入り口を開けるとロビーにいる冒険者達の視線が一気にエルに集まる。当然ながらエルの聞き取りが行われる事は冒険者達は知っている。
そんな冒険者の中にザック達『紅蓮』の姿があった。ザックがエル達に近寄って来る。ザックはエルの前で片膝を付き、視線を合わせる。
「エル、話は聞いた。こんな事を言ってはいかんのは分かってる。しかし、良く守ってくれた。領民たちを。俺はお前を誇りに思うぞ。あそこに自分がいられなかった事をどれほど悔いているか。」
そう話すと後ろにいたレイやフルビオも「大丈夫だ。」「心配しないで。」と温かい言葉をかけてくれていた。エルは深く頭を下げて二階へ続く階段へと向かう。階段の下にはクレリノが立っていた。
「担当職員として聞き取りに立ち会う許可をいただきました。」
「クレリノさん、ごめんなさい。」
頭を下げるエルにきょとんとした顔で反応するクレリノ。返す言葉も明るかった。
「何も謝る様な事はされていませんよ。冒険者として不遜な輩を制圧したにすぎません。胸を張ってください。聞き取りでもしっかりとその辺りをアピールしましょう。」
この状況であってもクレリノはいつも通りに対応してくれる。
二階の会議室に通される。中に入ると部屋の奥にサームが座っており、後ろにヒマリと男性が二人控えている。竜の牙のメンバーだろうか。エルがサームの元に行き、今回の騒動を詫びる。しかしサームは笑顔でエルの頭を撫でて「良くやった」と褒めてくれた。
エルはサームの横へ着席する。レオもその隣に控えた。
ギルドマスターのメルカが話し始め、聞き取りは始まった。
「さて、今回の件については王国としての処理は済んで居るが、冒険者ギルドとしてこの件でそのままにしてはおけない事として領民からの話が入って来た。そこでその当事者である銅ランク冒険者のエルとリック、そしてルチアに聞き取りを行う。なお、3人はまだ未成年である為、後見人としてサーム・キミア殿と白金ランク冒険者のレオ・アイゼンフォードが同席する事を許可する。」
そこからギルド職員によって騒動の起こりからレオが治めるまでの流れに間違いが無いか確認が取られた。聞かされた内容に間違いはなく、エルがロタール達5人の一般領民に向けて魔法を使役した事も認めた。
それを聞き、メルカがエルに問う。
「今回の騒動でのエル自身の行動に何か申し開きはあるか?」
「ありません。街の人が傷付けられ、あの親子はあと少し遅ければ殺されていた可能性もありました。街の人が殺されるのを見過ごしてまで冒険者としての立場を守ろうとは思いません。」
「魔法の使役以外の方法で制圧する方法もあったのではないか?」
「4人がこちらに襲い掛かっている状況で後ろで見ているロタールの動きを止める為には、ロタールの視線がこちらに向くようにする必要がありました。その事を考えて魔法を使えば、まさか街中で使うのかと言う意識が生まれて親子への注意が逸れると考えました。」
自分が行動を制御出来る状態では無かったとは言わなかった。そう言ってしまえばエルは完全に要注意人物を超えて危険人物の認定をされてしまう。あの日の行動がちゃんと自分の行動理念に基づいて取ったモノだと言う事を伝える。
それを聞いたメルカは腕を組み考え込む姿勢になる。エルの言う事は尤もなのだが、だからと言って冒険者の魔法使役を見逃す事は出来ない。冒険者は一般の民衆からすれば『歩く凶器』だ。しかも凶器一つ一つに感情があるのだからコントロールは難しい。虫の居所等と言う理由で揉め事が起こった事は数えだせばきりが無い。
メルカはリックとルチアにも聞き取りを行う。エルを止めに入った時の状況やパーティーとしての判断に間違いは無かったかなどだ。それに関してもリックとルチアはあの時の判断は多少の問題はあったかも知れないが、あの状況で5人を制圧する為にはエルが魔法を使わざるを得なかった事もパーティーとして仕方のない判断だったとリックは判断した。
メルカは話の矛先をサームへと向けた。
「サーム卿、そなたのお考えは?」
「街中での魔法使役に関しては何か他の方法があったのかも知れません。しかし、まだ経験浅いエル達が捻りだした答えが魔法を使うと言う判断であったのならば、私はその判断を信じてやる事しか出来ません。師としてエル達に伝えねばならない事はまだたくさんありますが、まずは師として弟子達を信頼する事を怠っては弟子達にも見放されます。そして、エルはその時の感情だけで他人を傷つけるような粗野な男ではありません。そして、リックとルチアもそれをしっかりと理解し支えております。あの状況で3人がそう判断したのなら、私はその判断を信用し見守る事が最善であったと考えます。」
「ふむ....なるほど。では、創竜の翼としての考えは?」
「3人の実力を考えればあの暴漢を制圧するのはそれほど困難であったとは思いません。しかし、親子が既に斬りつけられていて、今まさにもう一度剣が振り下ろされようとしている時にまだ銅ランクである3人が呼吸を合わせて5人を制圧するのはかなり厳しい状況だと判断します。その瞬間の状況を見た訳ではありませんので、憶測となりますが。」
サームとレオの見解を聞き、メルカはワックルト冒険者ギルドとしての判断を下さなければならなかった。サームやレオ達から時折送られる報告を信じれば、エルが複数人に対する魔法使役が出来るとの報告は受けていない。しかも、レオの制止を振り払おうとしたともあった。
今までにメルカがエルと関わる中でレオの制止を振り切ってまで相手を制圧するような性格には見えなかった。であるならば、エルは今回の報告で虚偽の報告をした事になる。
メルカもまた難しい判断を迫られていた。
「分かった。ワックルト冒険者ギルドとしての見解を記し王都のロンダリオン冒険者ギルド本部へ送る。エル達3人とサーム殿、レオは申し訳ないが明日にでも王都に向けて出発してもらいたい。創竜の翼と竜の牙にはエル達3人とサーム殿の護衛依頼をギルドより指名依頼として出させてもらう。」
「畏まりました。」
そこで聞き取りは終了となった。職員達が会議室を出ていく中でメルカはエルに近寄り小声で話す。
「そなたが何も後悔なく取った行動であるなら、王都でもそのまましっかりと自分の行いを話せばよい。エル、達者での。」
「ありがとうございます。」
メルカが部屋を出る。残されたのはエル達一行だけだった。レオがサームにこの先の事について提案する。
「明日一番でワックルトを出発します。今日の所はノーラの所で一泊をして準備を整えましょう。ヒマリ、ノエルは?」
「もうノーラ達に預けてある。間に合わせだけどノエルが引けそうな荷車も調達した。」
「分かった。エル、明日はお前達3人はノエルが曳く荷車に乗ってもらう。お前達で荷車を準備してたのは知ってたが、ノエルだけを長期間預けっぱなしにする訳にもいかないからな。」
エル達はレオの言葉に頷く。今回調達した荷車はこの件が終了すれば竜の牙が預かるそうで、その先は自分達が依頼した荷車をノエルに曳かせてやればいいと言ってくれた。
「王都まではおそらく4日もあれば着くはずだ。途中で州都ミラでダンとジュリアも合流する。済まないが大所帯でのキャラバンになる。今までの遠征とは色々と勝手が違うが、これも経験だと思ってエル達も準備しておいてくれ。」
「「「分かりました。」」」
「では、一度宿に戻りましょう。」
そう言って一階に降りるとそこには紅蓮のメンバーとエドガー達が待っていた。ザックがレオに話しかける。
「どうだった。」
「ここでの判断は見送ったようだ。やはり王都での判断と言う事になった。」
「そうか....」
「ザック、すまぬの。おぬし達にも心配をかけてしまった。」
「何をおっしゃられますか!我々はエル達を信じてますので。エル、しっかりと話してこい。」
「はい。」
エドガー達が話の切れ間を見計らってエル達に近寄って来る。顔が強張り緊張していた。
「エル、リック。お前達がそんな馬鹿な事するなんて俺は思ってない。それに街の人達だってエル達の事を庇ってくれてるみたいで、ギルドにも何人も話に来てくれてるみたいだ。あの子は悪くないって。だから、早く疑い晴らして帰ってこい。その間に俺達はもっと強くなるからな。」
「エドガー。ありがとう。僕らも負けないように頑張るよ。」
ティルダとヴィオラはルチアに話しかけていた。
「ルチア、大丈夫?」
「大丈夫よぉ!皆が付いてるんだから。ちゃんと話して分かってもらえるようにするだけよ!心配しないで。ヴィオラも訓練頑張ってね。レオ師匠から聞いてる。頑張ってるって。」
「うん。『安寧の水辺』のムーア様のおかげで少し立ち回りにも自信が付いて来たわ。まだまだルチア達には敵わないけど、私も強くなるから。あと、これ。持って行って。3人分作ったから。」
ヴィオラがルチアに渡した物はボアの皮で作った外套だった。
「えっ!?これ、どうしたの?」
「これもムーア様のクランメンバーの方たちの指導のおかげで作れるようになったの。ボアの皮はこないだ自分達で狩った奴。王都の方はこちらに比べると暑さがキツイ時があるって聞いたから。役に立つと思う。持って行って。」
「ありがとう........大切に使うわ。」
それぞれがそれぞれの別れを済ませる。一行がギルドを出て、森狸の寝床へ向かう間も領民からチラチラと視線を感じた。やはり今回の事は街の中でも相当な噂になっているようだ。
森狸の寝床に着くと、店は閉まっていて裏口から中へ入った。裏口の庭にはノエルが繋がれていて、たっぷりの餌と水を美味しそうに頬張っている最中だった。中に入るとホールのテーブルにはノーラとジョバルが座っており、なぜか旅の準備をしていた。
不思議そうに見つめているエル達にレオが説明する。
「今回は創竜の翼と竜の牙全員に事に当たる。ノーラとジョバルは既に翼を離れた身だが、今回同行を申し出てくれた。ダンとジュリアが合流するまでは人数的にも厳しかったからこちらとしても助かるんでな。」
ノーラがエル達3人をグッと抱き寄せる。力強いがあたたかい抱擁だ。
「あんた達は何も心配する事はないからね。王都での事だけを考えてな。そこ以外はレオとあたし達でしっかり守ってやるから。エル、リック、ルチア、街の人を守ってくれてありがとう。」
まだ夜が明けきらない早朝に一行は宿を出た。するとまだ薄暗い街の通りに人だかりが出来ていた。街の住人がエル達一行を見送る為に集まっていたのだ。その中にはあの時に斬りつけられた親子がいた。母親はエルに近寄り、泣きながら感謝を告げた。「娘を助けてくれてありがとう」と。ただただ感謝を伝え続ける。
他の領民達もロタール達が捕まった事に感謝をしていた。そして王都の冒険者ギルドへ行く事も知っていた。何人もの人がギルドに嘆願に訪れていた事も知った。
たくさんの人と握手をし、抱擁されてエル達はワックルトを出発した。いつもと違う旅立ちとなった。今回は初めて王都へ向かう。まず向かうのは馬車で一日ほどの距離にある州都ミラである。
静かに馬車が揺られる中で幌の付いた荷馬車の中でエルは涙を堪えながら外を眺めていた。自分達の行動で大きな騒動に発展してしまったにも関わらず、街の人達はエル達を信じ温かく送り出してくれた。街の人達はちゃんとエル達の行動を評価してくれていた。
創竜の翼に助けられ、サームに出会い、リック達と共に学び、たくさんの人達に支えられている。その輪は確実にエルを成長させてくれていた。それを感じられた。ひたすらに怯え逃げ惑ったあの日々はエルの傍にはもう無い。
エル達の馬車の前にはノーラ達とサームの乗る馬車、その前にレオとヒマリの乗る馬車、サームの馬車をレオとエル達で守るような隊列となっている。州都ミラでダン達が合流すれば、レオ達が最後尾に下がりダン達が先頭を走る事になる。こうした馬車の列『キャラバン』。元々は街と街の間を行く商人たちの集団「商団の列」の事をキャラバンと呼んだが、いつからか馬車の列を総じてキャラバンと呼ぶようになった。
キャラバンの構成はその商団や冒険者達によって様々で守るべき馬車を中央に置く構成もあれば、最後方に置く構成もある。当然だがメンバー構成も同じである。
途中で食事休憩を挟む時にもノーラやジョバルがここぞとばかりにルチアやリックに指導する。ノーラ達にとってもワックルトに来てくれたとしても街中では十分に指導できない苛立ちはあったのだろう。水を得た魚のように付きっ切りで指導していた。ルチアとリックからしても広い草原の中で指導して貰える事は貴重なのでここぞとばかりに質問を重ねる。
州都ミラは見えているがこのまま進んでも閉門時間には間に合わないとの判断で衛兵からも認識できる距離で野営をする事にした。こちらからも衛兵の表情まで見えるくらいの距離なので、夜番も少なくて済む。
明くる日、一行は無事に州都ミラに到着した。
誤字脱字ありましたら教えていただけると助かります。また、感想・評価・アドバイスもお待ちしております。今後ともよろしくお願いいたします。




