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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第二章 冒険者、エル
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02-31.ヒマリの身の上

いつもお読みいただきありがとうございます。

 今日はサーム達も一緒に食べていってほしいと子供達にせがまれて、夕食は孤児院で一緒に取る事になった。サームは気を遣う必要は無いと言ったが、子供達を怯えさせたくないとヒマリは同席を事前に断った。今は宿に戻っているはずだ。


 子供達は食べながらサームに今日会うまでにあった事を聞いて貰ったり、今度はいつ来てくれるのかとせっついていたりと様々だ。サームは子供達ひとりひとりと会話をしながら生活で困った事はないか、孤児院での生活は楽しいか等、子供達から話を聞いていく。


 サーム達が宿へ戻る時も何人もの子供達が見送ってくれて、一行は後ろ髪を引かれる思いで宿へと戻った。エルとリックの部屋のドアがノックされる。返事をするとサームだった。ドアを開け迎え入れると後ろにはジュリアともう一人外套を被った人物がいた。


 「リック、すまんがルチアも呼んできてもらえるか?」


 リックがルチアを呼び3人がサーム達と向き合う形でベッドに腰掛ける。


 「実はの、少し話は聞いておるとは思うがダンがギルドの依頼でしばらく離れる事になったんじゃ。まぁ、とは言っても元々は冒険者としての生活が本業なのじゃから、まぁ本業に戻ったと言ったところかの。そこでじゃ、ダンの代わりと言っては彼女に失礼じゃが、ダンがいない間は彼女が3人と共に行動してくれる事になった。挨拶を。」


 外套のフードを取ると若い女性だった。エルはその女性に見覚えがあった。


 「あっ、前にワックルトでお会いしましたよね?」

 「覚えてくれていましたか。お二人とは初めてですね。私の名前はヒマリ・テンリューと言います。普段はダン達の依頼を手伝ったりしてます。短い間かも知れないけど、宜しくお願いします。」


 リックとルチアはヒマリの顔にある鱗のような肌に目を奪われる。そのような人を初めて見たからだ。しかし、エルが二人に「あんまり見つめたらヒマリさんが困っちゃうよ?」と言うと、慌てて自分達の名前を自己紹介し見つめていた事を謝罪した。その後にエルも自己紹介をする。


 「よろしくお願いします。これからエルさん達のワックルトへの遠征時に護衛をさせて貰いながら、エルさんの雷属性魔法の指導もさせていただきます。」


 するとルチアがヒマリに申し訳なさそうに話す。


 「あっ、ヒマリ先生。私達に指導して貰えるなら私達にさん付けはいりません。私達はこれからヒマリ先生の生徒と言うか弟子になりますから。レオ先生もジュリア先生もそうしてくれているので、ぜひヒマリ先生も。」

 「先生ですか....分かりました!」


 先生と呼ばれた事に少し嬉しそうな表情を見せたヒマリは意を決して口調を変えた。


 「じゃ、そうするね。私は戦闘は指導した事はあるんだけど、魔法に関しては初めてだからジュリアにも見てもらいながらの指導になると思うの。エル、大丈夫?」

 「もちろんです。頑張ります。」

 「うん。」


 すぐに打ち解けられたようでサームもジュリアも安心した。恐らく魔法の指導も始まればヒマリとエル達との付き合いは長くなっていくだろう。初対面の段階で良い印象をお互いが持てたようで一安心だ。

 明日からはまた森へ帰る事になる。リックとルチアも同行する。今後、リック達は孤児院に戻る機会はグッと減る事になるだろう。そう言った意味では少しづつ一人立ちを始めている。


 サーム達が部屋を後にするとルチアは部屋に残り3人で少し話し合う事にした。そこでリックが2人に提案を持ちかけた。


 「あのさ、ポーリーなんだけどさ。俺たちのパーティーに誘わないか?」


 その提案にルチアは驚いてリックに聞き返す。


 「えっ!?ポーリーを?冒険者にするって事?それは厳しいんじゃない?戦闘訓練だってした事ないのに。」

 「いや、そうじゃなくてさ。こないだギルドでクレリノさんと話したじゃん。商会作る為には会計の専門職をパーティーに入れなきゃいけないって。」

 「それをポーリーに頼むって事?せっかく就職先決まったばっかりなのに?」


 リックの提案にルチアは少し不満顔だ。それはそうだろう。せっかく就職先が決まり、しかも自分達も知っているエルボアの店で働ける事になりそうなのだ。なのに命の危険が付きまとう冒険者をさせようと言うリックの提案は賛同しかねる内容だ。

 その様子を見たリックは顔の前で大きく手を振りながら、ルチアの考えているであろう事を否定する。


 「違う違う!例えばさ、エルボアさんの店で勤めてる中でお店の経営の仕方だったり、物の流通って言うんだっけ?そう言うの覚えられる訳じゃん?その知識をさ、俺たちの商会で活かしてもらうって言うか。そりゃもちろんエルボアさんにもそうだし、ポーリー自身の了解があって出来る事だけど。」


 必死に説明しようとするリックだがルチアの表情はまだ晴れない。するとエルがリックの言葉を預り続ける。


 「リックはパーティーに入ってもらおうって言ったから誤解を生むんだよ。そうじゃなくて、商会を作るのにはパーティーに入る必要は無いんだよね?」


 エルがそう言うとリックもルチアも何かを思い出したようにあっと言う顔をする。

 エルが更に言葉を続ける。


 「あの時、ジュリアさんが説明してくれた内容では【4名以上の商会員、つまり商業ギルドの登録証を持つ人が必要】って言ってたんだよね?って事は冒険者ギルドに登録する必要はないって事でしょ?」

 「そっか。なら、商会を作る為にポーリーに商会メンバーに入ってもらって商会を作る事だけをとりあえず目標にするって事?」


 ルチアにそう聞かれたエルは少し考える。それではあまりにも自分達の都合でポーリーを振り回してしまう事になる。何か『ポーリー自身にもプラスになるような誘い方は無いだろうか』と思案する。


 「例えばだけど、商会で得られた利益のいくらかを商会の手伝いをしてくれてるポーリーにもお給料として渡すって事が出来れば、ポーリーにとってもただ使われてるって事じゃなくてちゃんと商会に参加してるって意識を持ってもらえると思うんだ。」


 それを聞いたリックは手を叩いて同意する。しかし、そこでエルはしっかりと2人に釘を刺す。大前提としてポーリーはワックルトで就職して一人立ちをする事が大事なのであって、自分達の商会へ招く事ははっきり言えば迷惑事を投げかける事になりかねない。

 なので、事前にジュリアやクレリノはもちろん、出来るなら商業ギルドの職員の誰かにも相談して一番ポーリーにとって負担なく参加して貰える案を考える。それにポーリーが会計の知識を身に付けるとなればすぐにと言う話では無いのだから、焦らずじっくり考えていこうと共有した。


 少しづつではあるが自分達の向かいたい方向が見えて来た。今は創竜の翼の支援で幻霧の森での訓練と採取を行う事が出来る。これは時間が許す限り(この場合は創竜の翼の時間となるが)有効に使わせてもらわなければ。特に採取素材の納品額はエルの貯蓄を見れば重要なのは明らかだ。市場と森に影響しない程度に納品を行い、少しでもお金を貯めたい。馬車もそうだが、リックとルチアが一人立ちする為の家も探さなくてはいけない。まだまだお金は足りない。


 その為にはやはり自分達の冒険者ランクを上げて受けられる依頼の種類を増やす事も必須だ。いくら戦闘訓練を厳しく行っているとはいえ、3人だけで魔物と対峙した経験はない。この先、街の外での依頼を受けるとなった時にいつまでもレオ達に付いてきてもらう訳にもいかない。

 早くレオ達からワックルト近辺であればエル達だけで外に出ても問題ないと言う評価を得なければ、はっきり言って半人前以下だ。

 ひとつひとつ課題をクリアしていくしかない。今は課題がしっかり目の前に見えている。


  ・・・・・・・・・・・


 明くる日、順調に森を抜けて小屋へと戻る。この際に驚いたのはノエルがヒマリと会った際にヒマリがノエルの感情を少し読み取れていた事だ。本人は何となくと言っていたが、やはりドラゴニアの血がそうさせるのだろうかとサームは様子を見守る。


 ドラゴニアはいわゆる竜人族の別称でドルア大陸が西と東に分かれる前には竜人族はドラゴニア王国と言う国を興して繁栄していた。しかし、ドルア大陸が二つに分かれ、行き来が困難となった後は竜人族を含めいくつかの種族は西ドルア大陸から姿を消し、書物の中だけに記された者となった。

 そのあまりに稀有な種族であるが為にヒマリは己の姿を隠し、竜の牙で裏方として働きながら創竜の翼と言う大きな後ろ盾によって守られてきた。


 竜の牙に所属したばかりの頃はなかなか周りと馴染めず常にジュリアの傍から離れなかった。牙の中で唯一の女性と言う事も原因であったのだろうが、それでもヒマリは何とか活動を続けてきた。その中で類まれな身体能力と偵察・隠密性に優れたスキル構成のおかげで牙の中での成果は他の追随を許さなかった。

 そのヒマリが牙の中で何組かあるパーティー長に任命されるのは当然の事と言えた。パーティーの中でも最年少でありながらヒマリは周りに助けられながら隊長としての任務に邁進していく。その中で言い渡された新たな任務が『エルがワックルトで活動している間の身辺警護』だった。牙のメンバーに出される依頼で身辺警護は警護対象者に知られる事無く行うのが基本だった。


 しかし、今回に至っては護衛対象であるエルに自分が竜の牙の所属である事がバレなければ接触する事は構わないと言う内容だった。その不思議な内容に少し戸惑ったエミルだったが、あの月夜の晩に思わずエルに声をかけてしまった事は今となってはヒマリの心の支えになっていた。

 そんな中でヒマリがダンに「エルと話してみたい」と願い出ていたら、まさかのエルの護衛と魔法指導に抜擢された。誰かの指導をする事は初めてだったが、自分のパーティーのメンバーからも薦められて今回の任務を引き受けた。


 小屋に向けて歩いている途中でもエル達と積極的にコミュニケーションを図るヒマリ。しかし、意識はしっかりと周りの警戒にも向いていた。

 ヒマリは話せる範囲で自分の事をエル達に話し、出来るだけ壁の無い状態で指導に入りたかった。指導する・される関係の中で信頼関係は非常に大切であるとヒマリは考えていた。なので、少しでも指導に入る前にエル達との壁を失くしておきたいと考えた。

 ヒマリが竜の牙の所属と分かるとリックは尊敬の眼差しでヒマリを見ていた。普段からダンやジュリア達から依頼に入る前の準備がいかに大事であるか、そして冒険者ランクが上がるにつれてその重要性はどんどん高まると教えられてきた。創竜の翼にとって竜の牙失くしてクランとして成り立たないとまでレオは断言していた。


 小屋に戻ってからもまずはヒマリは3人と会話する事を重視した。「どんなパーティーにしていきたいのか」「自分の長所・短所はどこと思っているか」「メンバーの戦闘時の短所を自分が埋めるとするならばどういう立ち回りが大事だと思っているか」など、会話は細部にわたってヒマリが3人に質問しながら続いていった。


 「ダン達からも同じ指導があったと思うけど、漠然と連携が取れてしまう事が本当はパーティーとしては一番怖いの。漠然とした行動はもう考えていない事と同じだから。無意識ではない漠然。違いってなかなか分からないかも知れないけど、とりあえずこうしておけば良いかって考えは絶対に持たない事。」

 「「「はい!」」」


 訓練で使う広場に4人は輪になって座って会話を続けている。それを輪の外で見守るジュリア。指導する者が変われば指導方法もガラリと変わる。その新鮮さに3人はまた気持ちを新たにする。ヒマリが言葉を続ける。


 「新米冒険者の時は指導する人が変わると教えてる事がコロコロ変わってどれを優先すれば良いか分からなくなる事がある。エル達の場合は、私もジュリアやレオと話してどういう指導をしてるか確認してるし、指導の核になる部分は指導する者全員がブレないように統一できるように話は続けてる。だから、エル達は私達を信じて自分達が今出来る事を最大限努力してほしい。」


 あの時と同じだ。自分の知らない所で皆が自分達の為に色んな気遣いや努力をしてくれている。もう知らないとは言えない。この人たちの努力に自分達は応えなければ。

 するとヒマリがすっと立ち上がる。


 「さぁ、話してばかりでも体がなまるから、少しだけ皆の連携を確認させて。」


 そう言うヒマリにリックが不思議そうに質問する。


 「えっ!?ヒマリ先生一人で?俺ら3人で訓練するの?」


 普段はレオとダンの二人にこちらも2人もしくは3人相手で稽古していた。そう思って質問したリックにヒマリは冷たい笑みで見つめる。3人の背中に冷たいものが流れる感覚があった。


 「あら?まだ鉄ランクの冒険者が何人集まっても私一人で十分だし、私に全力を出させられたらワックルトのギルドに私が銀ランク昇格を交渉しても良いわ。まずはその勘違いの自信を叩き折る所から始めましょう。」


 ヒマリがすっと短剣の長さの木剣を構える。

 さぁ、地獄の始まりだ。

誤字脱字ありましたら教えていただけると助かります。また、感想・評価・アドバイスもお待ちしております。今後ともよろしくお願いいたします。

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