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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第二章 冒険者、エル
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02-23.深き夜の密談

いつもお読みいただきありがとうございます。

先日、10,000PVを達成する事が出来ました。偏に皆様のご愛読のおかげで感謝しております。自分の中で一つ目標にして始めた初投稿だったので、本当に嬉しく思っています。

これからものんびり書かせていただけたらと思っておりますので、お付き合いいただければ嬉しいです。

では、お楽しみください。

 防具はそれこそ種類も形も様々だった。エルが主に使用する事になる革鎧と言っても革が何の素材で出来ているかによって硬さ・柔らかさが全く違う。鎧の形も様々だ。上半身だけの鎧もあれば、胸当てと呼ばれる胸の部分だけに細工されている物(お腹はがら空き)、その胸当ても片胸なのか両胸なのか、肩当ての部分も横に広がっている肩当てもあれば、肩を包むような形の物、そしてそれも片方だけか両肩か。

 色々と付けてみて実際に木剣を振ってみたりして邪魔になる部分はないか、動きづらさなどが無いか、細かい所まで話し合う。その後はサイズなどももう一度確認し調整してもらう。


 エルの装備はレッドホーンと言う魔牛の素材を使ったソフトレザーのショルダーアーマーと同じレッドホーン素材の腹当て・すね当て・篭手と言う構成になった。レッドホーンの皮は表面の硬さはありながらも皮全体は弾力があり、鞣した後も弾力を失わず重ね合わせて合皮にする事によって柔らかさで剣の衝撃を逃がすような革になる。体の部分は肩の装備と腹の装備を分ける事で上半身の可動域を出来るだけ作る工夫をした。腰はベルトを巻き錬金術を今後学んでポーションなどを扱うエルとしては左右に革製の小さなポーチを付けて取り出しやすいようにする。

 そして装備構成がある程度決まった時にエルが親方に装備の希望を伝えた。


 「親方、実はお願いが・・」

 「どうした?遠慮するこたねぇ。自分を守るもんだ。」

 「篭手の手の甲を守る部分に薄い鉄板を貼ってもらってそれを薄い皮で隠すって事出来ますか?」

 「なに?・・・・ふんふん。なるほど。ははは・・・エル?なかなかエグい事を考えるな。よし!任せとけすぐに段取ってやる。まぁ、全部合わせて二日ほど時間をくれ。」

 「ありがとうございます!!」


 ようやく全ての装備が決まったが、ダンに聞けば上位冒険者になってきたら装備一つ決めるのに一ヶ月ほどかかる事も当たり前だと言う。素材が希少なものとなり作りも丈夫であったり工夫を凝らす事が多い為、完全オーダーメイドでの製作となるので当然時間がかかる。金額も驚く額になるそうだ。


 リックの方は上半身をプレートアーマーにして下半身は金属と革をあわせた物が側面を守る垂れのような構造になっていて走ったりするのに邪魔にならない。しかし、エルから見れば相当に重そうな鎧だ。合わせてみたリックだが思いの外動けるようで肩や腰の動きを確かめるようにガチャガチャと体を動かしている。


 「リック!これから稽古の時はこの鎧を常に着けてやるんだぞ!じゃねぇと実戦になって動けねぇなんて事が起こるからな。」


 親方の言葉にリックは顔を引きつらせながら返事をする。確かにこの装備を着けての稽古は今から気持ちが重くなる。しかし、当たり前の事だ。これを着て動けなければ装備は何の意味も無くなってしまう。


 店の裏からルチアとピピが戻って来る。親方が具合を聞くとピピが報告する。


 「うん。この子の技術を考えるなら少し張りの強い弓が良いと思う。あと、ノーラさんからの紹介状があって多少金額はかかっても良いから長く使えて手を加えられる弓にしてほしいって。」

 「おいおい・・・ノーラまで関わってるのか。そりゃ気合入れねえとなぁ。うぅ~ん。どうするか。」


 親方はじっくりと考え始める。ノーラから紹介状を預かっていたとは。ダンがエルに弓術の事について説明してくれる。


 「後衛職の中でも物理攻撃に特化した弓術だからね。使う道具は長く使える物にしたいって言うのはノーラの経験によるものだろうね。これには僕らは何も口は挟めないからね。」

 「よし!!決めたっ!!」


 親方が自分の膝をバンッと叩き立ち上がる。ルチアの装備はコンポジットボウに決まった。弓の長さはルチアの身長の半分以上はある物で弦も今まで使っていた物とは少し太さが違う。ルチアが手に持ってみるが取り回しが大変そうだ。

 親方の説明ではノーラも現役時代はコンポジットボウの名手だったそうだ。力の強い狸人族に向いている弓なのだそうだ。今の弓だと慣れてくると実戦の中で弦を切ってしまう恐れがあるそうだ。力が強い種族が弓を扱う場合は他の種族よりも慎重さが必要となる。

 防具の方はレザーアーマーで腰に矢筒を付けるような形の装備となった。装備の見た目だけで言えばエルが一番軽装だ。


 3人の装備がある程度決まった所でエルは親方に金額を聞く。すると一人一人の金額を聞き、総額は31万4000ジェムとなった。三人のそれぞれの金額を聞くとリックの金額がもちろん一番高額になるので、今回は1人10万ジェムづつ出し合い残りの金額をリックが出した。本当ならリックの金額はもっと高いのだが、今後パーティーとして活動し始めればパーティーの口座も作れて必要なお金はそこから捻出する形になる。

 なので、最初の装備の時は3人で折半しようと事前に話し合って決めた。ダン達もそれが良いと後押ししてくれた。パーティー登録が許可されてからは色々と決めなければいけない事も増えるだろうが、それはまたダン達からもアドバイスを貰いつつ決めていく事にする。


 装備がすべて揃うのは三日後となり、それまではワックルトで過ごす事になった。鍛冶屋を出る頃には陽はだいぶ傾いて街も夕飯の準備や飲みに出る冒険者達で賑わっていた。

 その中を満足そうに歩く3人を後ろから見守るダン。これからがやっとこの3人のスタートになる。まだ街の外での依頼が許可された訳でもなければ命のやり取りをした訳でもない。これから冒険者の本質の部分にどんどん触れていく事になるだろう。


 宿に戻り明日に備えて休息を取る。明日は冒険者ギルドの訓練会だ。この出来によってはパーティー登録の許可に少し近づけるかもしれない。3人は期待と緊張を感じながら眠りに落ちた。


  ・・・・・・・・・


 街も寝静まった深い夜。その通りに浮かぶ三つのランタンの灯り。サームを中心にレオとジュリアが前後を守り街の通りを歩く。話す事無く足早に辿り着いたのは古き友人の薬屋。ノックもせずサームはドアを開ける。店の奥にぼんやりと明かりが灯っているのが見える。


 「おや、ご到着かい?奥でお待ちだよ。」

 「店を借りてすまんの。」

 「何を言ってる。そんな場合じゃないだろ。」

 「そうじゃの。では、失礼する。レオ、ここで警護を頼む。」

 「畏まりました。」

 「ジュリア、茶を淹れてやってくんないかい?あたしが淹れるよりあんたの茶の方が客も喜ぶ。」

 「ふふふ。畏まりました。」


 サームが暖簾をくぐり奥の部屋へと入る。部屋には大きな円卓と背もたれ椅子が五脚構えられていた。そのうちの一脚に一人の女性が座っている。着ている服の質素でありながら作りの良い恰好と後ろに控える者達の雰囲気でその女性が貴族であると分かる。

 サームは向かい合うように卓の反対側の椅子に座る。


 「ふぅ。お待たせいたしましたな。」

 「いえ。それ程の事はございません。このような深夜にお呼び立てしてしまい・・」

 「なりませんぞ。あなた様の方が王国内での格は上でございます。このような爺にそのように話されては。」

 「ごめんなさい。まだ慣れないの。幼い頃より世話になっているサーム卿に上の立場として会う事がくる等と考えた事もなかったもので。」

 「お父上はご健勝ですかな?」

 「えぇ。代を譲る方向で話が決まり、肩の荷が下りたのか最近は色々と好きに動かれるので、家の者も大変なようで。」

 「ほほほ。目に浮かびますのぉ。」


 二人は和やかに微笑む。そしてジュリアが部屋へと入り、二人の前へ茶を置く。女性の後ろに控える男達にも茶を手渡し頭を下げる。


 「ジュリア、久しぶりね。」

 「はい。拝謁のお許しをいただき同席させていただける喜び、恐悦至極に感じております。」

 「まぁ、あなたもサーム卿と同じく昔のようには話してくれないのね。重い物は受け継いだりしないに限るわ。面倒と寂しさが増えるだけだもの。」

 「そう仰られますな。国内最年少での栄誉なれば。」

 「父上ももう少し待っていてくれれば良いのだけれど・・・。はぁ・・さて、夜は思うより短いわ。本題といきましょう。」


 女性の顔がにこやかな笑顔からため息を吐いて真剣な物へと変わる。後ろに控えていた者達が裏口のドアの前と暖簾の場所へと移動し他からの干渉へ警戒をする。


 「今回の件、本当に申し訳なく思っています。これは私の立場からしっかりと謝罪させていただくわ。でも、公式な謝罪として出せない所は申し訳なく思っています。」

 「いえ、こちらも大事には至らずに済みましたし、勝手な事をしてしまいましたのはこちらが先でございますので。誠に申し訳ございません。」

 「いいえ。あのままにしておけば間違いなくいくつもの命と未来が危険に晒されていた事でしょう。あなた方の善意と行動にどれほどの救われた幼い命があるかは疑う事のない事実です。本当にありがとう。」

 「光栄にございます。」

 「まさかここまで好き勝手されていたとは。やはりちゃんと自分自身の目で見て回らなければダメね。周りの者はそこまでするのはって止めるのよ。でも、今回の事があってはさすがにね。」

 「お気持ちは図りかねますが今回の事は私共の独断が招いた事でございますので。」

 「人の命よりも優先される事は無いと思っているのよ。私は。まぁ、国が亡びるなんて言われたら困るけど。私はあなた達の行為にどうやって報いれば良いかしら?」

 「お許しいただけるのであれば、どうかこのままに。これまで同様に常に現状はご報告差し上げる形を取らせていただき、万が一お力をお借りせねばならない時に今一度お会い出来ればと。」

 「他の者へ影響が出ない事は約束して貰えるのね?」

 「最大限の努力を。」

 「まぁ、そのあたりの駆け引きでサーム卿とやり合うつもりはありませんから。父上にも鍛えてもらってこいと送り出されたくらいだから・・・・・ふぅ。分かりました。」


 そう言って女性は控えの者から一枚の紙を受け取り中を確認しそれをまた控えの者に返す。するとそれをサームへと控えの者が渡す。サームが中を確認し、恭しく頭を下げる。


 「これで何とか解決してください。その後の事は私だけでは判断出来かねますので、またそうなった時に話し合いましょう。では、これで。」

 「ご足労感謝いたします。」


 そう言ってサームが席を立ち頭を下げると椅子から立ち上がった女性は呆れたようにため息をつく。


 「別れの時くらいはいつもの関係に戻りたいです。サーム様。」

 「無理だけはせぬようにな。アンナ。」

 「はい。ありがとうございます。・・・ジュリア、また会えるわよね?」

 「もちろん。東で美味しい菓子を見つけたのよ。またあの日のようにお茶をしたいわ。」

 「楽しみにしてる。本当に気を付けて・・・無事でいて。」


 女性はサームとジュリア、それぞれと軽く抱き合い挨拶をして部屋を出ていった。

 入れ替わりにエルボアが部屋へと入って来る。ジュリアはそっと部屋の外へ。


 「あれほど嫌っていた貴族社会にまた戻る事になるとはの。皮肉じゃな。」

 「自分で言ってりゃ世話ないさ。選んだ道なら歩くより他ないじゃないか。何よりあの子達の為なんだろう?」

 「こんな齢になって幼子に自らの道を変えられるとはのぉ。」

 「年齢なんて関係ないさね。いや、この歳になったから動かされたのかも知れないじゃないか。」

 「なるほどの。エルボアにも世話をかけるの。」

 「あたしは好きでやってんだよ。あの子達が好きだからね。一端のもんにはしてやりたいじゃないか。あんたもあたしもまだ老いぼれるには早いよ。」

 「そうじゃな。もう少し気合を入れねばなるまい。・・・少し騒がしくなる。心配をかけると思うが、あの子らの事も頼む。」

 「ふんっ。分かってるさ。でもね、あんたが無事でいる事が何よりあの子の安心に繋がるんだからね。勘違いしちゃいけないよ。」

 「分かっておる。分かっておるとも・・・」


 ジュリアがエルボアの前に茶を置く。そして自らも円卓に座り茶をすする。レオが部屋へと入ってきて席に着く。


 「無事に。」

 「そうか。」


 その言葉だけで伝わる。今宵の密談が今後の大きな助けになる事は間違いない。


 「レオもジュリアも巻き込んでしまったのぉ。二人とも貴族としての生活が嫌で冒険者をしていると言うのに。儂に関わったばかりにすまんのぉ。」

 「エルの為です。リック達、孤児院の為です。いくらでも使ってください。」

 「そうです。あの子達を心配し愛しているのはサーム様やエルボア様だけではないのですよ。」


 ジュリアの言葉で部屋が笑い声に包まれる。

 あの子達の行く末の為に、出来る事を成していく。

 

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