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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第二章 冒険者、エル
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02-16.エルボアとの試験

いつもお読みいただきありがとうございます。遅くなりました!自分の中で決めていた中一日投稿を守れないようでは・・・お楽しみくださいませ。

 リックとエルは男から木剣を離しルチアの横へ移動する。その時に女の子を自分達の後ろへ避難させる事も忘れない。

 ザックは膝を付いている男達とエル達の間に入り顔を見回す。


 「何があった・・ギルドで騒動を起こすとは余程怖いものがないらしいな。」

 「あいつらがいきなり襲い掛かって来たんだ!!」


 男二人はザックに必死に訴える。当事者達以外に周りに人はいなかった。目撃者がいない以上、はっきり言えば言った者勝ちになってしまいかねない。

 ザックは厳しい表情でエル達を見る。


 「そう訴えているが?」

 「こちらの女性に対して先ほどの講習で説明されていたにも関わらず、無理やり自分達のパーティーに入れようとしていたので彼女の了承なく助けました。」


 答えたのはルチアだった。ザックはふぅっと息を吐き、表情を落ち着かせ女の子に声をかける。


 「こう言っているが間違いないかね。」

 「はい。断ったのに無理やり誘われました。」

 「嘘だ!!!誰もそんな奴なんか誘ってない!」

 「まぁ・・・往生際が悪いわねぇ。悪いのは顔だけじゃなくて性根もだったようね。」

 「なにを・」


 〔止めないか!!!!!!〕


 ザックの出した声には威圧が含まれていた。男たちは再び膝を付き、リック達は体が揺らいだ。その声を聞き職員が近付いてくる。


 「ザックさん!どうかされましたか!」

 「冒険者の強制勧誘の疑いがあり質問をしている所です。」

 「俺たちはやってないって言ってるだろ!俺の親は領主だぞ!良いのか!?親父に話してお前たち全員クビにだって出来るんだ!!」


 そう男が息巻くとザックと職員は顔を見合わせ、ザックは大声で笑い職員は必死で堪えている。笑われた男は再び顔を赤くし大声を上げる。


 「何が可笑しい!!!」

 「冒険者ギルドも含め全てのギルドは国から離れた独立組織だ。国との間で定めた協定に反しなければ国は、ましてや領主もギルド職員を罰するなんて出来ないのさ。」


 そう言い返されて男はさらに顔を赤くする。そして職員と女の子を指差しながら恫喝する。


 「お前たち!これから先、ワックルトの街を歩くなら気を付けておくんだな。誰かから恨みを買わないように気を付けろ。」


 そう言うとザックは瞬時に男の目の前に移動し顔をグッと近づける。


 「ほぉ・・・白銀冒険者の前で一般の人々を恫喝するとは命がいらんらしいな。良いだろう。親でも国王でも連れてこい。俺の命を取られる前にお前をしっかり『送ってやる』。そちらの男もな?」


 そう凄まれて男たちは後退りしながら冒険者ギルドを出ていった。ザックはため息をつきながら職員と二三話してエル達の所へ来る。まず女の子に声を掛ける。


 「大丈夫だったか?」

 「はい。ありがとうございました。」

 「その後の事は心配するな。きっちりフォローする。身の危険もないから安心してくれ。」

 「ありがとうございます。」


 女の子が礼をしたのを確認するとザックはエル達を見る。少し怒っている。


 「エル?いや、ルチア。女の子を助けた事は褒められる事だが必要以上に煽り過ぎだ。お前たちはいつから護衛依頼を受けられるだけのランクになったんだ?」

 「あぁ言う礼儀も知らない奴は大嫌いなんです!!・・・でも、ごめんなさい。女の子の事を考えればもう少し穏便に済ませるべきでした。」

 「リックは?」

 「同じくです。ザックさん。本当にすみません。俺も腹立ってたからつい乗っかっちゃって。」


 ザックは困ったような顔で笑いながらエルと向き合う。


 「俺はエルはもう少し冷静な奴だと思ってたんだがな。こりゃサーム様にお知らせしないといけないかな?サーム様のいない所で随分危険な真似をしていると。」

 「・・・・ごめんなさい。」


 思った以上に落ち込んだエルを見て、ザックは踏み込み過ぎたと後悔した。サームの名前を出すべきではなかった。ザックが膝を付きエルに顔を近づけ額を合わせる。ゆっくりと言い聞かせるようにエルに話す。


 「エル。忘れないでくれ。離れていても君の事を自分の事以上に心配している人たちがたくさんいる。サーム様だけじゃない。ほら、あいつらだって。」


 そう言ってザックが目線をやった先をエルがみると、心配そうに見ているジュリアと落ち着いた表情のダンがこちらを見ている。ザックの言葉は続く。


 「あいつらだってそうだ。それは俺も含まれてると思っててくれ。もう少し自分と周りを大事にしながら冒険者を続けてくれ。良いな?」

 「はい。すみませんでした。」

 「よし、もういい。君だけはカウンターに来てくれるか?」


 ザックが女の子にそう言うと女の子は不安な顔になる。するとザックは笑顔で答える。


 「君に合う冒険者、探してるんだろ?登録しておこう。」

 「・・・はい!」


 そう言って二人はカウンターへ歩いて行った。入れ替わりでダン達が近付いてくる時にダンがザックに頭を下げるとザックは手を挙げて応える。

 ジュリアは3人の前で両膝を付いて心配しながらも3人を叱る。


 「女の子を守るとは言え、冒険者ギルドで木剣とは言えど剣を抜くとは!ダンもレオもそのような粗暴な者に剣を教えている訳ではありませんよ!ルチアも。あなたは必要以上に人を煽りすぎます。相手の冷静さを失わせたい気持ちは分かりますが、自分の実力が伴わない内は悪手でしかありません。もう少し冷静に場を捉えられなければ後衛職は務まりませんよ。」


 ジュリアのこれ以上に無い正論に3人ともが下を向いて言葉を失くす。ダンが笑いながら近寄るのを見てジュリアが叱る。


 「笑っていないでダンからもしっかり言ってください。」

 「俺の言うべきことはジュリアが言ってくれたよ。良いかい?自分の実力を考えずにあんな事をする者達に僕もレオも何も教えられない。今日の事は3人ともしっかりと心に刻んで反省してほしい。」


 その言葉に3人は反省していると話す。


 「よし、じゃあサレンさんの所へ行こう。一応さっきの事も謝罪しなきゃいけないし3人の受けたいって言ってた依頼があるかどうかも確認しなきゃ。さぁ、反省は己の中だけにして切り替えていこう。それも冒険者として大事な事だよ。」


 そう言われて3人は顔を上げる。カウンターにはサレンが待ち構えていた。顔は冷ややかな笑顔。3人は緊張しながらサレンの前に立つ。


 「講習会、お疲れさまでした。このような騒動を起こされますと依頼のご紹介を控えさせていただく事も検討させていただかなければならなくなります。それは保護されている創竜の翼にも迷惑がかかる事だと言う事をもう少し認識していただかないと困ります。」

 「すみませんでした。」

 「まぁ、女性冒険者を助けていただいた事は感謝いたしますが、あのような場合でも大声を上げるなり職員を呼ぶなりもう少し手段を選んでくださいね。」

 「「「はい。」」」


 そしてサレンは3人が以前に受けてみたいと話していた3つの依頼について話を始める。リックの受けたい『鍛冶屋の手伝い』の依頼とルチアの受けたい『食堂の厨房での作業』の依頼は今も継続して募集しているが、エルの受けたい『薬屋の手伝い』は今は募集は無いそうだ。

 エルがガッカリしているとサレンがそっと声をかける。


 「薬屋からの依頼はありませんが、エルさんが伺えば手伝いをさせてもらえるかもしれませんよ。」

 「え?どう言う事ですか?」

 「この依頼主はエルボアさんなんですよ。」

 「え?先生なんですか?」

 「恐らくエルさんが来られる頃を予想して出されているんだと思います。」

 「何で。」


 そう言うとジュリアが後ろから声をかける。


 「エル様が受けやすくしてくれてるのでは?依頼を受けながら薬学のお勉強も出来るでしょうし。エルボア様はエル様のお力になりたいんだと思います。」


 エルはエルボアの店に行ってみる事にした。リックとルチアもそれぞれの希望の依頼を受けてダンが依頼を出した店まで送り届ける事となった。エルはジュリアと共にギルドを出て『草原の風』を目指す。


 店までの道すがらでジュリアはエルに話しかける。


 「先ほどの事はさておき、3人とも稽古を真剣に行い連携も考えながら行っている事が見れて、私は・・・少し嬉しかった面もあります。エル様、心構えなどは今一度学び直していただきたいですが、剣術や連携の稽古は今のまま続けていきましょう。」

 「はい。心を入れ替えて頑張ります。」

 「褒めてはいけないと分かっていますが、あの冒険者を後ろから制圧出来た事は新米冒険者としては上々の動きでした。リックさんとルチアさんに注意を存分に引かせておいての気配を消して制圧。ダンの稽古が身に付いている証拠です。ダンもあぁ言っていましたが内心は嬉しかったはずです。」

 「はい。でも、指導していただいてるダンさんに申し訳ない事を。」

 「ダンも言っていましたが切り替えていきましょう。忘れるのではなく、『刻み、歩む』。帰ったらレオにも謝罪を。良いですね?」

 「はい。」


 二人はエルボアの店『草原の風』の前に立つ。中に入るとエルボアが奥のカウンターで薬を整理していた。エル達を見ると手をくいくいと招く。エルが近付くとニコリと笑い頭を撫でる。


 「よく来たね。」

 「お邪魔します先生。今日は冒険者ギルトに先生が出されていたお店の手伝いの依頼を受けられないかとお聞きしに来ました。」

 「ふん。わざわざあたしの事を喋ったって事はサレン嬢だね。まったく。エルフはこれだから。まぁ、良い。その前に今日は以前に出しておいた課題の結果を見せてもらおうか。」

 「あっ・・・はい。」


 思いがけず課題の事に触れられエルは緊張する。自分のバックの中から低級ポーション2本と低級キュアポーション1本を取り出しカウンターに置く。エルボアは眉をピクリと動かし、エルをジロリッと見る。


 「あたしは低級ポーションと低級キュアポーションを『1本づつ』と頼んだはずだがね?なぜ低級ポーションが2本あるんだい?しかも、こりゃ出来がまるで違う。どういう事だい?」


 スキル【効率化】をどう説明するべきか迷っていたエルの横からジュリアが前に出てエルボアに今回の事を話す。


 「エルボア様。以前にお伝えしておりましたエル様のユニークスキル【効率化】ですが、先日偶然にそのスキルが発動しました。そのご報告は水晶便ではなく直接にとサーム様より言付かっております。」

 「ほぉ・・・と言う事はエルがその【効率化】を発動出来たって事だね?」


 ジュリアは今回のエルの【効率化】発動の一連の出来事をエルボアに話す。発動条件と言ってもまだ確定している訳ではない事やそれが調薬に限った事なのかはまだ分からないなど、報告としてはかなり曖昧なざっくりとしたモノとなってしまっていた。

 それを全て聞き終えたエルボアが2本の低級ポーションを手に取り見比べながらエルに目線を向ける。


 「と、言う事はこの2本は【効率化】で作成したものと手作業で作ったものって事だね?」

 「はい。先生に持ってくるのは最初はどちらも手作業分を持ってくる予定でした。でも、出発の前日にお師匠様からスキルで作成した低級ポーションを先生に持って行って見てもらってきなさいと。」


 エルボアの質問に答えたエル。それを聞き腕を組んで考え込むエルボア。カウンターの端に置いてあった鑑定眼鏡を付けて2本の低級ポーションをジッと見つめる。そして、次は眼鏡を外し2本をランプの明かりにかざしたり瓶を振ってみたりしている。

 それを見ている間、エルの緊張は片時も休まる事がなかった。実際にこうして調薬をする事が出来た。やっと薬師への入り口が見えかけている。しかし、それはサームとエルボアの『この先も調薬を続けても構わない』と言う許可をもらうのが大前提だ。サームも最終判断はエルボアに任せると言った。サーム自身も調薬を教わったのはエルボアなのだから、この判断は当たり前だと言える。


 エルボアは2本の瓶をカウンターに置き、ふぅっと息を吐く。そしてエルに手招きし、いつものエルの特等席のエルボアの隣にある小さな椅子に腰をかけさせる。

 そして、エルボアが口に出した言葉はエルが想像していなかったものだった。


 「エル、あんたはこの先、薬師として生きていくとしたら・・どんな薬師になりたい?」


 一人前の薬師になる事が目標だ。それはサームやエルボアのような薬師。しかし、薬師としてどう生きるか、どのような薬師になるか。『誰のような』ではなく『どのような』。そのイメージがエルにはまだ出来ていない。きっとそれは宮廷薬師になったり、街で薬屋を営んだり、きっとそう言う事なのだろう。

 しかし、冒険者としてリック達と歩み始めたエルにとってその選択肢を選ぶことはリック達と離れていく事を意味する。


 するとエルの頭を優しく撫でるエルボア。戸惑いながらエルボアを見つめると優しい笑顔で応える。


 「エル、調薬を続けない。」


 静かな店の中に優しいエルボアの声が響く。

誤字脱字ありましたら教えていただけますと幸いです。

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