32.魔力開放
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「エル様!!エル様!!!・・・サーム様!!エル様の目が!!!」
「落ち着け!!・・・エル。エル。エル・・エル・・・エル・・・」
サームはベッドで目を開いたまま反応しないエルの肩を抱き、耳元に近付いて優しい声でエルに何度も何度も呼びかけ続ける。エルに反応は無いが、それでもサームはエルを優しく抱きながら呼びかけ続ける。
さすがのレオも黙って状況を見守るしかない。弟のように思っているエルの変わりように動揺が隠せない。しかし、自分たちが慌てふためいた所で状況は変わらないのだ。
・・・・・・・・・・・・・
あぁ・・・見た事のある景色
あの真っ白な空間。またここへ『来てしまった』
また会えましたね。これであなたの身を守る術が備わる事になります。少し安心をしました。あなたのこれからを見守る者として新たな力を授けます。
大変かも知れませんが、上手く使いこなしてみてください。きっとあなたの役に立つはずだから。
声が聞こえる
あの日と同じ声 いったい誰なのか 力を授ける事の出来る存在 これが神様?
分からない あぁ・・・また眠くなる 遠くなる
・・・・・・・・・・・・・・
見開かれたままのエルの目が閉じていく。全員の中にあった緊張感が一気に膨れ上がる。もしかするとこのまま目を覚まさないのでは。そんな不安が沸き上がる。サームは出来る限り優しくエルに声を掛け続ける。すると、エルの体に力が入っていくのを感じた。
「エル?エル!聞こえるか!?エル!」
するとエルはビクッと体を震わせてゆっくり目を開ける。すると目の色は普段の黒い眼に戻っていた。サームはエルの様子を図るように注意しながらエルに問いかける。
「エル。どこかおかしい所はないか?」
するとエルは不思議そうに周りを見渡している。何かを確認しているように見渡した後、サームを見て答えた。
「お師匠様。あっ、変に感じる所はありません。でも、さっき僕はここではない場所にいたような気がしたんです。」
「ここではない場所?・・・それはどんな場所だったか覚えておるか?」
「はい。真っ白な空間で、あまりに白くてその空間が広いのか狭いのかも分からないくらいの場所でした。壁も天井も見えないし、床もあるのかどうかもわからないくらい真っ白でした。」
「なんと・・・そこで何があったんじゃ?」
「えっと・・・誰かの声が聞こえてきました。たぶん女性だったと思います。ジュリアさんかと思ったけど違って・・・あの声は・・・誰だったんだろう・・・」
「ふむ・・・声・・・」
ジュリア同様、サームも今までに何度も開路の儀の話は聞いたことがあるし、書物で勉強もしてきた。しかし、魔力循環時に温度を感じる事例は極めて少ない例ではあるが聞いた事はある。しかし、エルの言う白い空間を見たと言う話は聞いた事も読んだ事も無い。一体その空間はどこなのか。そしてその声の主は。
「その声は何を話しておった?」
「これで僕を守る術が手に入ると。僕を見守っていると。」
「術・・・見守る存在・・・まさか・・・」
「神託・・・でしょうか・・・」
ジュリアがサームに問う。サームの脳裏にも一瞬その可能性が浮かんだ。しかし・・・
「ふむ。しかし、そうであるならば神は何をエルにお伝えしたのか。あまりにも内容が曖昧だとは思わんか。」
「そうですね。私が学んだ神託はどれも目的やお言葉の内容がはっきりとしたものが多かったように思います。それもこれまでの長い時間の中で記録が書き換えられた可能性もありますが、エル様が聞いたと言う声の主が言った内容は目的が見えないような・・」
「そうじゃな。エル?体調や体の違和感は無いか?」
「ジュリアさんが魔力を流してくれていた時の温かさが若干残っている気はしますが、違和感とか体調が悪いとかそう言う感じはありません。むしろ、なんか体がスッキリしています。」
「ジュリア、解放を試してみるかの?」
「そうですね。一応、そこまでが開路の儀ですので、ただ注意は必要かと思いますが。」
「そうじゃな。違和感などを感じた場合は即中止。皆も何か感じたらすぐに伝えてくれ。」
「「畏まりました。」」
ジュリアはベッドに腰掛けた状態のエルと目線を合わせるように近くにあった椅子に腰かける。そして、深呼吸を一つして解放の工程に入る。
「エル様。今感じる温かさは恐らくエル様の体の中を巡っている魔力の流れによるものです。これからその魔力を具現化・外へと解放する作業を行います。」
「解放・・・」
「はい。最初はなかなかコントロールが難しいかも知れませんが、やってみましょう。こちらの椅子に座れますか?」
そう言うとジュリアの隣にダンが椅子を持ってくる。その椅子は部屋の窓の方向を向いており、その窓はレオによって開け放たれていた。エルがベッドから下り、椅子に座るとジュリアの説明が続く。
「先ほどの水滴と波紋の感じと同じです。今度はエル様の体の中を魔力と言う水が流れていると思ってください。その流れは体全体をグルグルと巡り続けているような感覚です。今全体が温かくなっているその温度を全身に流していく意識を持ってください。」
「はい・・・」
エルは目を閉じて集中する。自分の体の中のこの温かさが自分の求めていた魔力。これによって自分は魔法を得る事が出来るのか。不安に思いながらも温かさが全身を巡る感覚を求めていく。
「そのぬくもりを両手に集めるようにそして手が温かくなったと思ったら教えてください。」
「はい・・・」
エルの中でまだ温もりが全身を巡る感覚が上手く捉えられていなかった。しかし、体の中に感じているこの熱を手に集める感覚は何となく分かる気がした。体全体の熱を手に移るように集中していると実際に手が温かく、いや熱くなっていく感じがした。
その時、創竜の翼のメンバーはエルの変化に気付く。それは急激な魔力の高まりだった。魔導師が魔法を発動させる際に体の中の魔力を練り上げる時に起こる現象だった。まさか開路を行ったばかりの子供が、まだ魔力を解放してる段階でこの現象が起こるとは思いもしなかった。その者が練り上げる魔力を他人が感じると言う事はそれほど高い魔力が必要なのだ。
ジュリアも当然エルの魔力を一番近くで感じていた。しかし、ここでジュリアが慌ててしまえばエルの魔力が暴走する恐れもある。エルの様子を見ると魔力を留めきれずにエルから魔力が溢れているようには見えなかった。だとすれば、エルの体の中を流れる魔力が多い為に上手く流し切れていないだけか。
「エル様。とても上手く流せていますからね。その流れをもう少し大きな川の流れでイメージしてみてください。もし今、魔力を手に集める意識を持っているならその魔力を今度は足に流していく。そして胸から頭へ。そしてまた両手へ。そういう風に体全体をいくつかに区切って流れを意識するとより上手く流れを作れます。」
「はい。」
ジュリアたちがエルから感じていた魔力が少し小さくなる。エルはなかなか筋が良いようだ。しかし、それでもまだコントロールしきれていないようだ。まぁ、あれだけの魔力をコントロールするのは初めてならばなかなか苦労するはずだ。しかし、今の状態ならば次の段階へ進んでも良いのかも知れない。
「エル様。その意識のままでもう一度手に温かさを集めるようにしてみてください。手が温かくなったら教えてくださいね。」
「はい。」
ここでする事は生活魔法である『ライト』を覚える事。ライトは魔力を使う量が一番少なく、その効果をイメージするのも最も容易だ。なので開路の儀で魔力を集める事が出来たら、ライトの魔法を使って魔力を具現化する練習だ。
魔法とはイメージ。長い呪文を唱えて魔法の杖で、なんてのは大昔の方法で効率が悪い。いかにその魔法の効果を頭の中でイメージし、それに必要な魔力を練り上げてコントロールするか。これが魔法の具現化に一番の最適方法だとジュリアは信じている。
「だんだん手が温かくなってきました。」
「はい。では、その意識を大事にして目を開けましょう。両手を前に出して、その集めた魔力でランタンの光を作ると思ってください。両手で魔力を集める意識を持ってランタンの光の玉を思い浮かべましょう。」
「ランタン・・・ランタンの光・・・」
エルはあのサームの家で初めて見た魔石ランタンの温かな光を思い浮かべる。自分の怯えた心を癒してくれた明るい光。あの光を頭の中に思い出す。
「光を意識出来たら『ライト』と唱えてみてください。」
「・・・・・ライト」
すると前に差し出した手の中で魔力が具現化して片手で包み込めるほどの光の玉が現れる。光の玉は明るい光で夕方の室内を照らしている。エルは驚いた表情で光の玉を見つめている。自分の魔力で初めて魔法を使えた喜びと驚きで興奮していた。その様子を見てジュリアは落ち着いた声でエルに語り掛ける。
「エル様。非常に上手く具現化出来ましたね!でも、少し気持ちを落ち着けましょう。ゆっくり深呼吸してください。感情の激しい起伏は魔法に慣れていないうちは魔力の暴走に繋がります。初めて魔法を使って喜ぶなとは言えませんが、今からそう言ったコントロールも練習していきましょう。」
「はい。・・・・ふぅ・・・ふぅ。」
エルはゆっくりと呼吸を繰り返し、自分の前にある光の玉が消えないように集中が途切れないように気持ちを落ち着けていく。するとさっきまでふわふわと小刻みに揺れていた光の玉が一カ所で留まって動かなくなった。それを見てサームとジュリアは安心した表情になる。
「おお。安定したようじゃの。ジュリア、どうじゃ?エルは魔力を扱えておるじゃろうか。」
「控えめに申し上げても脅威と言わざるを得ません。これだけの膨大な魔力を初めて体に感じながら、ライトの光球をこれだけの明るさで維持して安定させる事は初めての魔力開放で出来る事ではないかと。これは私からの指導は積極的にさせていただきますが、もっと指導経験に長けた方の助言もいただいた方が良いのではと個人的には思っています。」
「ふむ。そうか。それも含めてまた話し合うとしよう。」
「畏まりました。・・・さぁ、エル様。今度はその光をゆっくりと周りに散らす意識で消してみましょう。急に光を失うと暗い場所などでは視界が急に無くなるので、徐々に光の量を少なくする訓練もしていかなくてはいけません。今は出来なくて構いませんから、その意識を持って光の玉を消してみてください。」
「はい。分かりました・・・」
エルが集中していると手にある光の玉がほんの少し光が小さくなる。しかし、次の瞬間、ブルブルと小刻みに玉が震え始めパンっと弾けて光の玉が消えた。エルは少し驚いて周りの皆を見渡すが、皆笑顔でエルを見つめていた。レオがエルの肩を叩いて励ます。
「なんだぁ。良かったぞ。ここで綺麗に魔法を終わらせる事が出来たら、ジュリアもサム爺も何も教える事が無くなっちまうよ。でも、すげぇ上手に出来てたと思うぜ。なぁ?ジュリア。」
「そうですね。少し安心しました。さっきのように魔力の強さを操作する事を魔力操作。そして一番最初にやった温かい温度を体の中で移動させるやり方を魔力循環と言います。これは今後、エル様が魔法を学んでいく中で必須で繰り返し練習していく内容です。また練習方法は森に戻ってからゆっくり覚えましょう。でも、まずは・・・おめでとうございます。」
「そうじゃな。おめでとう。エル。」
「良かったのぉ。エル。おめでとう。」
「これでまたエルくんの可能性が広がったね。おめでとう。」
皆からの祝福の中で、あの大好きな大きな手が頭を優しく撫でてくれる。
「良かったな。ホントに・・・おめでとう。エル。」
「・・・・ありがとう・・・・あり・・がとう・・・」
エルは涙が止まらなかった。皆の優しさが嬉しかった。何者でもない、いや何者なのかすら分からない自分に道を示してくれた。そして我が事のようにこうして喜んでくれる。エルはもったいないくらいの優しさに触れ続け、ゆっくりと心の中の何かが溶けていくような感覚を味わっていた。
ジュリアが優しく抱きしめてくれる。背中をゆっくりゆっくりと撫でながらレオと同じように褒めてくれる。ふいにポムがエルの肩に飛び乗り、エルの頬にしがみ付くようなしぐさをする。それを見たジュリア達が笑い出す。
「ほら、エル様が泣いてるからポムも心配してますよ。ポム、大丈夫よ。エル様は悲しくて泣いているのではないの。」
「えっ!ごめん!ポム!違うよ!嬉しんだよ僕!心配させてごめんね。」
ポムはエルを大丈夫?とでも言いたそうな顔で覗き込んでいたが、エルが心配ないと判断したのかジュリアの方に戻る。部屋には平和な空気が流れていた。
「夕食の準備出来ましたよぉ~~!!」
部屋の外から宿屋の女将の元気な声が響く。皆で顔を見合わせて部屋を出る。とりあえず腹を満たそう。これからの事はまたそれから話せばいい。エルは幸せを噛みしめながら部屋を出た。
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