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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第一章 森の迷い子
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29/97

29.薬師ギルド

いつもお読みいただきありがとうございます。

 翌朝、宿のホールで全員で朝食を取る。今日の朝は大きな棒状のパンの間に切れ目を入れ、その切れ目に野菜やら鳥の焼いた肉やらがぎっちりと詰まったサンドだった。エルの前には食べやすく小さいパンで似たように作ってくれていた。


 朝食が終わるとそのまま全員で話し合いとなった。なんでも予定変更となり、本日中に街を出る事になったとの事だった。


 「この後はそのまま薬師ギルドに向かいます。そこでギルド登録が出来るのならば良し、出来なければ見習いとなれるよう修行期間に入ったことをギルドに確認してもらう手続きを取ります。エルくん、ここまでは良いかい?」

 「はい。大丈夫です。」

 「うん。それが終われば街を出て北西にあるレミト村へ向かいます。その村の孤児院にいるシスターにスキル恩恵の儀式を執り行ってもらうつもりです。当初はワックルトで恩恵の儀をと思っていましたが、得られた情報ではレミト村のシスターは非常に腕が良いようなので、どうせならそちらにお願いしようと言う話になりました。錬金術ギルドに関してはサーム様と話して、まだ登録を急ぐ必要は無いと言う判断になり今回は見送る形になりました。」


 レミト村へ向かう理由は実際とは違うがエルも不思議に思ったりはしないであろうとの事で、無理やりにならないような理由を作った。ダンは言葉を続ける。


 「その後は宿を取ってジュリアにエルくんの開路の儀を行ってもらう。魔力の有無や強弱によっては少し動けなくなったりする可能性もあるから、大事を取ってこの日はレミト村に一泊します。次の日には森へ帰る予定です。僕らの予定としてはサーム様の家の傍に僕らの住居を建てさせてもらって、その後はしばらくの間共に生活させてもらう予定です。」

 「えっ!?皆一緒に!?」


 あまりのとんでもない予定にエルは大声で叫んでしまった。今回の旅が終われば当然創竜の翼のメンバーとはしばらく会えなくなると思っていたからだ。驚きのあまりメンバーの顔を代わる代わる見る。


 「エルくん、驚かせてごめんね。サーム様と話し合って帝国の奴隷商からの追手が完全にないと判断し、エルくんの安全が確保されるまでサーム様の所で生活を共にして護衛させてほしいとサーム様にお願いしていたんだ。」

 「でもっ!それだと護衛のお金が凄い事に・・・」

 「いやいや!ギルドを介してではなく、ギルドの許可も貰ってその生活の間は他の緊急を要する依頼以外は受けない形にして、まぁ言えばお休みと取らせてもらったんだよ。」

 「大丈夫なんですか?白金冒険者がそんな・・・」

 「ははは!!もしかして俺らの稼ぎを心配してくれてんのか?曲がりなりにも白金ランクだぜ?1年やそこら仕事しなくても生活出来るくらいの蓄えは皆にあるし、緊急を要する依頼はすぐにギルドから流れてくる手筈になってる。心配すんな。俺たち、一緒に暮らして良いだろ?」

 「も・・・もちろんだよ!嬉しい!嬉しいよ!」


 エルの満面の笑みに一行の心は和む。自分たちとの共同生活も受け入れて貰えそうでメンバーは安心した。しかし、依然としてエルの出生やここまでの謎が明らかになった訳ではない。そこにどのような危険が潜んでいるかは未知数だ。


 「さて、では薬師ギルドに向かう事になるが・・・恐らく一筋縄ではいくまいのぉ。」

 「え?」

 「まぁ、エルにとっても経験と言う物か。エル、良いか。心が耐えられなくなったら構わぬからジュリアと共にギルドの外で待っている事だ。サーム殿とワシたちで話は付けるからの。」

 「えっと・・・はい。」


 何ともはっきりとしない話のまま、一行は荷物をダンのポーチに預けて宿を後にした。薬師ギルドに向かう道すがら、エルはジュリアに先ほどの話の事を聞いてみた。すると、


 「恐らくギルドに着けば事の真相はすぐに分かっていただけると思います。なぜサーム様ほどの高名な錬金術師であり薬師の作り出す品が薬師ギルドを通す事無く、商業ギルドで鑑定しエルボアさんのお店で売られているのかが。」


 そうだ。確かに言われてみればそうなのだ。ポーションや薬の類の管轄は薬師ギルドであり、相場の管理も薬師ギルドによって行われていると商業ギルドのトワムに教えられた。で、あるならば、なぜサームは自身の制作した薬類を『薬師ギルドを通す事無く薬屋で販売』しているのか。

 それはある意味、薬師ギルドに対する裏切りにも取れるのではないか。薬師ギルドが得るべき利益を商業ギルドや自身に納めていると捉えられかねないのでは。


 「お師匠様は薬師ギルドに恨まれているのでしょうか?」

 「いえ、サーム様は誓ってそのような行為をなさられるお方ではありません。それは私の口からは申し上げられませんから、いつかサーム様よりお聞きになる方が良いかと思います。」

 「そう・・・ですね。分かりました。」


 薬師ギルドに到着する。商業や冒険者ギルドに比べれば小さいが2階建てのレンガ造りの建物だ。中に入る前にサームが恐ろしい事をエルに伝える。


 「エルよ。用心のためにもここの中で出される物には一切触れるでない。口に入れる事も許さん。」

 「え・・・分かりました!」


 そこまでの危険があるのか・・・エルの緊張感は一気に増した。横を見ると普段と変わらないジュリアとレオの笑顔があった。


 「心配すんな。俺らが真横にいてエルに触れるような奴がいたら、そんな奴は触れる前に真っ二つだ。」

 「何を更に怖がらせているんですか!大丈夫ですよ。喉が乾いたらおっしゃってください。コップと水は持っておりますから。」

 「はい・・・大丈夫です。」


 ふぅっと息を吐き緊張を逃がす。それを見た一行は建物の中へ入っていく。ホールの中にはカウンターが数席設けられており、客と見られる者と職員が話し合っている様子がいくつか見受けられた。カウンターの向こうでは相当な人数の職員が忙しそうにファイルを抱えながら走り回っていた。

 すると一つのカウンターの中にいた男性がこちらに気付き、急いで近付いてきた。恰幅の良い人狼族(ワーウルフ)でメガネをかけていた。驚いた表情で近づくと周りをきょろきょろと気にしながらサームに話しかける。


 「サーム様!ここではちょっと、一度外へ。」


 一行はそう促されせっかく入った建物を出て、外の人気のない道へと連れ出される。すると人狼族の男性は周りを見渡し誰もいない事を確認すると腰を深く折り一行に謝罪した。


 「大変申し訳ありません。サーム様がせっかく当ギルドにお越しいただけたのにこのような対応を・・・」

 「構わぬ。久しいなレント。何があった。」

 「はい。明日より総本部ギルドの調査が入るとの事でうちは上へ下へのてんてこ舞いでして、どうやらサーム様がワックルトに来られたと言う情報が、誰からかミラの州本部に水晶便を使って流れたようで。そしたら急遽、昨日の夜になって総本部ギルドと称して州本部役員たちがワックルト支部の調査に入ると。」

 「なんとまぁ・・・」

 「お鼻が宜しい事で。」


 レントと名乗る職員の言葉にレオとジュリアが呆れ顔で呟く。その言葉にビクッと反応し申し訳なさそうにしながらもレントは言葉を続ける。


 「恐らくサーム様が直にワックルトに来られると言う事はエルボア様の所だけでなく、当ギルドにも顔を出すはずだと。何かしらの申請や許可をギルドに求めてきた時には、恐らく無理やりな理由をでっちあげて無効にしようとしているのだと思います。」

 「ホントに悪知恵が働く者は予知能力すらあるのかと思うほどの行動を取る事があるが、まさか今回発揮されるとはのぉ。どうするサーム殿。」

 「では、やはり当ギルドになにか依頼が?」

 「このエルの薬師ギルドへの身分登録を頼みたかったのだ。見習い登録をも含めて薬師ギルドにお願い出来ぬかとな。身分登録は難しいにしても、子供の見習い登録ならば日常茶飯事であろうから何とか潜り込ませられぬかとな。やはり無理だったか。」


 その言葉にレントはこれまで訪れた他の職業ギルド職員同様非常に驚いた。


 「と言う事は、サーム様・・・弟子をお取りになられると言う事ですか。」

 「そのように考えている。薬師となるか錬金術師となるか、その他の職業の道を選ぶかはエルに選ぶ権利はあるがな。道をたくさん作ってやりたくての。」


 するとレントはサームの手を両手で包み、涙を流しながらサームとエルに頭を下げる。周りの人に会話を聞かれぬように出来るだけ小さい声でレントは感情を押し殺すように話し続ける。


 「なんと・・・なんと・・・素晴らしい・・・あぁ・・・サーム様の英知を継承なされるお方が現れてくれたとは!このレント、これだけ嬉しい事はありません・・・サーム様、良くご決断くださりました。そしてエル様、初めてお目にかかります。わたくしは薬師ギルドのレントと申します。」

 「レント様、エルと申します。この度、サーム様の弟子として末席に加えていただける運びとなりました。今後お師匠様の下で研鑽に励み、いつかは薬師として身を立てたいと考えております。宜しくお願いします。」


 その言葉を聞き、レントは申し訳なさそうにサームの手を握っていた両手でエルの手を握る。


 「エル様、見習い制度申請・薬師ギルドへの登録。誠に申し訳ございませんが、すぐにお受けできる状況ではございません。これは(ひとえ)に我ら職員一同の至らなさでございます。」


 そう言ってまたレントは深く頭を下げる。どうして受けてもらえないかの理由が分からないエルにとっては謝られた所で困るだけなのだが、一行の反応はもちろんだがレントの反応を見る限り相当に問題の根は深そうだった。


 「しかし!!必ず!必ず登録を行ってエル様の元へ登録証をお送りいたします。このレント、命に代えてお約束させていただきます。」

 「レント様、初めて会った子供に命をかけられては私は困ってしまいます。お師匠様から教えていただいた事には薬師が一人前と認められるにはそれはそれは長い年月が必要だと教わりました。」

 「それは・・・確かに。そうでございますが。」

 「で、あるならば私は私の信じる道をお師匠様の教えと共に進むだけです。その中で薬師ギルドの皆さんにはその今は登録出来ない問題点を『命をかける事無く』ゆっくりと解消していただければ私は結構です。急がなくても薬師への道は逃げませんので。」


 その言葉にポカンとした顔をしていたのはレントだけではなく、エルの隣に立つレオとジュリアもだった。このような子供がギルド職員に向けて己の未来を閉ざすかも知れない状況を焦るなと諭したのだ。


 「なんと・・・なんと有難いお言葉。エル様。このレント、お言葉通りしっかりと心に刻み、焦らず登録を通せるように職員一丸となって問題解決に努めてまいります。サーム様、オーレル様、その際にはお力添えもいただく事があろうかと思います。ぜひとも、ご記憶いただければ・・・」

 「エルの為ならこの爺の力なんぞなんぼでも使え。ワシはワックルトで普段より生活しておるでの。後にこちらの者から連絡方法を届けさせる。レント、頼むぞ。」

 「ありがとうございます。しかと、承りました。」

 「では、仕方ないの。今日の所は引くとしよう。レント、世話をかけた。最初に気付いた職員がお前で良かったぞ。」

 「もったいないお言葉でございます。エル様、どうかお励みくださいませ。」

 「ありがとうございます。レント様、また。」

 「はい。それでは。」


 薬師ギルドから離れていく一行を姿が見えなくなるまでレントは見送る。その小さな後ろ姿にレントは大きな希望と期待を抱いていた。深緑の賢者の英知を受け継ぐ者が、待ちに待ち続けた朗報が薬師ギルドに努めて20年。やっと訪れた千載一遇の好機。逃してなるものか。レントは覚悟を決める。この腐敗しきった薬師ギルドを根底から変えるのだ。一州支部如きに何が出来ると一笑に付される可能性は多々ある。しかし、動かずして事は成せぬ。事は確実に運ばねばならない。足元がふらつけば事態は悪化しか生まない。


 エル様から言われた『命を懸ける事無く焦らず事を成す』為にはたくさんの協力者が必要だ。まずは同じ反体制派の同僚を今晩酒場に誘おうと決めたレントだった。

   ・・・・・・・・・・・


 一行は走竜と荷馬車を預けている預り所まで歩いて移動する。その道中でエルは思い切ってサームに薬師ギルドの件を聞いてみた。


 「お師匠様。薬師ギルドではなぜあのような事になってしまったのでしょう?」

 「すまぬな。エル。実は儂はあぁなるような気はしておったのだが、もしかしたらと少ない可能性に賭けてみたんじゃがやはり無理だった。」

 「僕が身分登録する事が薬師ギルドにとっては不都合なのでしょうか?」

 「いやいや、そうではない。エルが不都合なのではなく、儂が薬師ギルドに関わる事が不都合だと考える者が薬師ギルドを束ねておると言う事だ。」

 「なぜです?お師匠様の薬でこれほどまで皆さんに感謝されているのに。」

 「エル。世の中には他人の成功を喜べない者が一定数おるのじゃよ。自分が苦労して上り詰めた高みから自分より才能ある者が下でもがく姿を見下ろしたいと望む者がおるのだ。浅ましい事よ。」

 「それにな。エル。厄介なのはそのギルドを束ねている者が貴族階級にあると言う事よ。ただの一庶民ならば皆で結束すれば何とかなるかも知れぬ。しかし、貴族となればほんの些細な事で不敬罪や言いがかりとも取れるような内容で相手を罰する事が出来てしまう。皆、それを恐れて行動出来んのじゃろう。」

 「納得・・・・出来ません。」

 「それで良い。そんな理不尽を飲み込む必要は無い。お主の言うた通り、今は己の事を励み続ける事が己の未来を拓くと信じて行動しなさい。」

 「・・・はい。」


 こんな理不尽が自分に降りかかるとは思ってもいなかった。昨日まで、いや今日の朝まであれほど楽しかったこの街がなぜか今は淀んで見える。図らずも見えてしまった権力の歪み。

 一行は言葉少なに歩みを進めた。

誤字脱字ありましたらご指摘お願いします。年末年始の間に書き溜めたはずのストックが早くも・・・そろそろ毎日投稿も厳しいのか。まぁ、自分が勝手に投稿してるだけなのですが。(苦笑)

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