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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第一章 森の迷い子
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27/97

27.薬師エルボア

いつもお読みいただきありがとうございます。初めてのいいね!いただきました。本当にありがとうございます。皆さんの一つ一つの反応が本当にやる気に繋がっております。

 一階に降りてきたサームたちと合流し一行は冒険者ギルドを出る。ここでダンはこの先の生活に必要な物を買いに行くとの事で単独行動となった。一行は冒険者ギルドから西の通りに入り、しばらく歩く。食品や道具を売る店舗の多い通りから少し住居が目立つようになってくる。周りを楽しそうに見ていたエルにレオが街を案内してくれる。


 「この辺からは商業区ではなくて居住区に近くなってくるな。まぁ、区って言っても王都なんかほど綺麗に区画分けされてる訳じゃないけどな。」

 「居住区に用があるの?」

 「いやいや、サム爺の薬を売ってくれてるエルボアさんって人の店に行くんだよ。俺らも駆け出しの頃からポーションとか売ってもらったりしてホントに世話になった人なんだ。まぁ、口は悪ぃけど良い人だからあんま怖がんないでやってくれ。」

 「あやつももう少し口の利き方がマシになれば店も流行るんじゃがなぁ。まぁ、あの歳になって言った所で直りゃせんわい。」


 サームも珍しく口悪く言うが顔は楽しそうだった。二階建てや三階建ての建物が少なくなり、通りに子供たちが何となく増えてきたなと思っているとある一軒の店の前で一行は立ち止まる。店の前には大きな窓があり、店の中を覗くことが出来る。エルがそっと見ると店の中には所狭しと瓶や薬の包みなどが整然と並べられていた。商品の数は多そうだが散らかっている感じは全くない。入り口の上には『草原の風』と記されていた。


 サームが店のドアを開け中に入る。一行も続いて入っていく。店の中は薬独特の匂いに包まれており、サームの作業部屋に似た匂いでエルは少し嬉しかった。中を見ると薬は種類や効能ごとに分けて陳列されていて非常に探しやすく、店主の性格を窺い知れた。


 「おぉい。エルボアぁ。薬を持ってきたぞぉ。」


 すると奥から猫人族(ワーキャット)のお婆さんが現れる。背は小さく腰を屈めているのでエルよりも背丈は小さく見える。


 「なんだい。珍しい声がすると思ったら森で死んでなかったかいサム。なんだなんだ。今日はえらく連れが多いじゃないか。小僧たちも一緒かい。あんたら街の人に迷惑かけてないだろうね!?」

 「エルボアさん。もう俺らをいくつだと思ってんだよ。大丈夫だって!それに俺らもう白金ランクなんだぜ?ちょっとは信用してくれても良いだろ。」

 「ふんっ!白金だろうが鉄だろうが街の人間の事を考えずに我が物顔で喚き散らかす馬鹿はいるもんさ。どんな宝石も鉱石も磨かないと何の価値も無い石ころだよ!オーレル!!あんたちゃんと面倒見てるんだろうね?」

 「ボアが元気そうでよかったわぃ。今日は納品もあるんじゃが、ボアに紹介しておきたい子がおってな。」

 「うん?その子かい?まぁ、ちょっと待ってておくれ。先に納品を済ませちまおぅ。その方がゆっくり話せるからね。坊や、待てるかい?」

 「はい!納品見せていただいても良いですか?」

 「もちろんさ。ここに来て座りな。」


 そう言ってエルボアはカウンター横の小さな椅子を勧める。そこにエルはちょこんと座る。サームがマジックポーチから取り出す薬やら素材植物を取り出すと、エルボアはカウンターに置かれていた不思議な形の片眼鏡をかける。不思議そうに見ていたエルにエルボアは先ほどの口調とは違い優しく語り掛ける。


 「これはね、鑑定のスキルを付与してる魔道具だよ。あたしは鑑定のスキルを持ってないからね。これを使って持ち込まれた薬の状態を見極めるんだよ。極々たまに偽物を持ち込む不届き者もいるからね。まぁ、この爺さんの薬に関してはどちらかと言うと状態の良さを見たいだけだね。」

 「お前さんに褒められるとはな。ワシの腕もまだ落ちとらんらしいわい。」

 「やかましいよサム!あたしはこの子と喋ってるんだ。坊や、名前はなんだい?」


 エルボアは薬に目を向けて鑑定作業を続けながらエルに問う。優しい雰囲気や口調とは裏腹に薬を見つめる視線は真剣そのものだった。


 「はい。エルと申します。身寄りの無い僕をサーム様と創竜の翼の皆に助けていただき、これからサーム様の弟子としてご指導いただける事になりました。宜しくお願いします。」


 弟子と言う言葉を聞いた瞬間、エルボアは鑑定の手を止め眼鏡をかけたままジッとエルを見つめる。全てを見透かされそうなその眼にエルは緊張を覚えた。するとエルボアはその表情をクシャっとゆがめ笑顔になった。


 「そうかい。まぁ、サムも誰かに教える事でまた自分の足りなさを実感出来るだろう。この男は薬学はまだまだだが錬金術はそれなりのもんは持ってるからね。一生懸命学びな。薬の事で分からなけりゃ、あたしんトコにくると良い。」

 「はい。宜しくお願いします。」

 「うん。良い眼だ。その眼を忘れずにおやり。」


 エルボアは優しく何度も何度もエルを撫でる。そしてスッとレオ達に向き合う。


 「小僧たちも人助け出来るだけにはなったようじゃないか。まぁ、少しはマシな冒険者になったって事かねぇ。ジュリア、そこにあんたらのいつもの薬は用意してあるから持っておいき。でもまぁ、そろそろあんたらも治癒魔法を使える子を入れたらどうだい?」

 「申し訳ありませんが、エルボアさんとサーム様の薬以上の治癒魔法師を探すとなると王都でも難しいと思います。それに薬は疲れた休みたい等と弱音も吐きませんので。私たちには強力な味方です。」

 「ふん。買う度に小言を言われるのに毎度毎度買いに来るんだから世話ないよ。この子達は!」


 嫌味を言いながらもエルボアは少し嬉しそうな顔だった。レオが真剣な顔で話題を変える。


 「エルボアさん、俺らこれからサム爺の所でしばらく一緒に暮らすことになった。まぁ、全員がって訳じゃないんだけど。だからこれからは少し定期的にサム爺の薬を納品出来るようになると思うんだ。後は将来的にエルの薬も買い取ってもら」

 「それはあんたが頼む事じゃないだろう!?違うかい?」

 「そうだった。ごめん。」


 エルはすぐに雰囲気を察する。椅子から立ち上がりエルボアに向き合う。その真剣な眼差しにエルボアも真剣な表情で返す。


 「ごめんなさい。僕が言わなければいけない事でした。お師匠様の下でこれから錬金術と薬学の勉強をして、いつかレオや皆の役に少しでも立てるような大人になりたいと思っています。お師匠様から見習い制度の許可が下りたら僕の薬をエルボア様の目で見ていただけませんか?」


 その言葉にエルボアは目を見開く。そして優しい表情でまたエルを撫でる。


 「薬を買い取ってくれではなくて、見てほしいか。ちゃんとその考えが出来ているなら少しは見込みがありそうだね。エルや。良いかい?忘れるんじゃないよ。そこの爺にも教わっただろうが、あたし達の作る物はその使い方で簡単に人を活かしも殺しも出来る。剣や魔法なんて必要ない。友人の振りをして茶の中に混ぜ込めば一瞬で命を奪えるような物も作り出せる。その覚悟を持って学びな。その覚悟を持てないうちは決して関わるんじゃないよ。」

 「・・・はい。ありがとうございます。エルボア先生。」

 「ふふふ・・・先生かい。そうだね。サムが錬金術のお師匠様って事だから、あたしはあんたの薬学の先生になってあげるよ。基本的な事はサムに教わると良いさ。その上でこの街に来る時に知りたい事をたくさん書き留めておいで。ここへ来たら一つ一つ説明してあげるから。」

 「すみません。勝手に先生なんて。」

 「ふふふ。エルは賢いね。急にはなにもかもを上手にやろうなんて思うんじゃないよ?そんなのおこがましいだろ?たくさん失敗しな。たくさん考えな。あんたにはまだ時間がある。たくさん見てたくさん感じてたくさん話して、あんたの心を大きくしていきな。」

 「はい。先生。」


 ジロッとサームを睨むエルボア。


 「サム。この子をこの先どう指導しようと構いやしないが、この子が不幸になるような事になった時は覚悟しとくんだね!」

 「言われんでも分かっておるわ。いくつになっても口数の減らん婆じゃ!」

 「オーレル!あんたが付いてるんだからちゃんと頼むよ!」

 「任せておけボア!エルはもうワシにとっても孫のようなもんじゃ!どうして不幸になんかするものか。エルは誰よりも幸せにならにゃいかんのじゃ。」


 その言葉にジュリアもレオも何度も頷く。その皆の気持ちがエルは嬉しかった。エルボアは鑑定作業を続ける。薬が終わり素材にも目を向ける。するとふいにサームに話しかけた。


 「素材の扱いが上手くなったのかい?育て方が分かってきたのかい?切り取り方もそうだがだいぶ状態が良いじゃないか。」

 「それはエルが採ったもんじゃ。ワシがお前に教わったように、この子にも状態の良い物は絵を描かせているし乱獲しないようにも指導しておる。その上でどうやったら状態良く採取出来るかこの子なりに考えておるんじゃろう。」

 「なるほどねぇ・・・サムにはもったいない子だよ。そうだ。ちょっと待っておいで。」


 そう言うと店の奥へ引っ込む。しばらくするとガチャガチャといくつかの荷物を持って現れた。


 「エル。これをこれから薬学を学ぶあんたにやろう。『薬研(やげん)』と『乳鉢(にゅうばち)乳棒(にゅうぼう)』だよ。これから製薬をするようになったら必ず必要になるからね。乳鉢と乳棒は二つづつさ。なぜか分かるかい?」

 「えっと・・・分かりません。」

 「それはね、片方は普通の素材を磨り潰す場合に使う。もう一つは毒や麻痺なんかの効果がある素材を磨り潰す場合に使う。混ぜて使ってると危ないからね。だから、危険な素材を扱う道具は特に入念に洗う事。それと使う時には出来るだけ革製の手袋をして肌に素材が付かないようにするんだよ。皮の手袋はこの商業区にパウラ商会って店があるからそこで買いな。エルボアに紹介されて買いに来たって言えば、薬剤調合に向いてる皮手袋を教えてもらえるからね。」

 「いただいて良いんですか?」

 「良いんだよ。錬金術のお師匠さんが用意してくれた物があるなら、薬学の先生が生徒に道具を用意してあげても良いだろ?」


 エルが戸惑っていると後ろからそっと背に手があたる。振り返ると優しい笑顔のジュリアがいた。


 「エル様。先生のお気持ちをいただいておきましょう。先生のお気持ちにはエル様の頑張りでお応えすれば良いのですよ。」

 「はい。」


 カウンターの上に置かれた乳鉢をそっと手に取るエル。それを宝物のように愛おしく見つめる。エルは今一度エルボアに礼を言う。


 「ありがとうございます。先生。大切に使います。いつになるとは分かりませんが、お師匠様にも先生にも良しと言っていただけるような薬を作れるように精進します。」

 「あまり最初に気合を入れすぎると持たなくなるよ。こう言うもんは一生勉強だ。完成なんてしないのが学問ってもんさ。だから、急ぎすぎず焦りすぎず回り道になっても良いから歩む事・興味を持つ事を止めない事だよ。」

 「はい。」

 「さぁさぁ、用事が済んだら出ておいき。こっちもこれから忙しいんだから。あんたらもまだ用事はあるんだろ?」

 「お気遣いありがとうございます。では、サーム様、参りましょうか。」

 「では、これからは創竜の翼に納品を頼むことになる。エルボア、世話をかける。」

 「何言ってんだ。あんたの薬で救われてる人が何人もいるんだ。まだ隠居するには早いよ。またエルと顔出しにおいで。今回の納品分はギルド経由で振り込んどくよ。」

 「分かった。ではな。」

 「先生。色々ありがとうございました。これからよろしくお願いします。失礼します。」

 「はいよ。またおいで。」


 外に出た一行は勧められたパウラ商会へ向け足を進める。来た道を戻る形だ。エルボアと言う新たな指導者を得てエルは心躍る気持ちだった。そんな気持ちを察しジュリアが話しかけてくる。


 「エル様。良い出会いがありましたね。また一つ励む目標に出会われたのではないですか?」

 「はい。お師匠様はエルボア先生に教わったと仰ってましたが。」

 「その昔に森の魔物たちが非常に活発に行動していた期間があってな。その頃にエルボアと知り合ったのじゃ。薬学の知識はかじる程度だったんじゃが、薬師ギルド所属の薬師たちがポーションを製作するのが追い付かなくなりエルボアに手伝えと言われてその際に教えを乞うたのじゃ。」

 「そうだったんですね。申し訳ありません。お師匠様がいらっしゃるのに。」

 「構わんさ。儂よりもエルボアの方が薬に対する知識も見識も豊富じゃからの。より良い者の下で学ぶ事が大事じゃ。儂はエルボアに習った基本をしっかりとエルに繋げるとするわぃ。」

 「さぁ、そんな事言ってたらパウラ商会に着いたぜ。必要なもんをパパっと買い揃えちまおう。」


 一行は商業区にある四階建ての大きなレンガ造りの建物のドアを開けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] エル君は良い人に出会えて本当によかったです。 このまま多くの人からいろいろ学んで、得意なことやスキルが身についてどうなっていくのか、とても楽しみです。 それと、個人的には強くて賢いご婦人は好…
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