25.若気の至り、人としての成長
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メルカが教えてくれる創竜の翼の過去。レオもダンもジュリアも顔を赤くして下を向く。オーレルはガハハと大きな声で笑いながらメルカの話に補足を入れていく。サームはニコニコと楽しそうに二人の話を聞いていた。
「最初はオーレル殿がジュリアと共に冒険者をしていて、ワックルト近郊で依頼を受けるためにギルドへ来たのがきっかけだったのだよ。その時はジュリアはまだ銀ランクでこの近辺で依頼をこなすには少し実力が足りていない印象だったね。それに今と違って非常に勝気な性格だった。」
「勝気・・・」
エルがそう繰り返すとジュリアは顔を真っ赤にしてメルカに言い訳をする。それはまだ冒険者として本当の高みすら見えていない自分の実力を過信していたからだと反省していた。
「メルカ様。ご容赦ください!あの頃は・・・まだ自分の至らなさも分からない半人前でした。わたくしの成長を思ってワックルトに連れて来てくれたオーレルにも失礼な態度を取ったりして。あの頃の自分にもし会えるなら昏々と二晩ほど説教したい気分です・・・」
「ジュリアさん、こんなに優しいのに・・・」
「違うのですよ!エル様!!私もまだ心幼く自分が一人前の冒険者になって私に冒険者など無理だと否定した人たちを見返したい一心だったのです。心が焦っていたのでしょう。本当に恥ずかしいです。」
「まぁ、今は立派に白金冒険者として活躍しておるのだ。ワックルトのギルマスとしても鼻が高いぞ?誰にでも始まりの日はある。その日の自分に申し訳なく思わせてしまうような未来にせぬよう日々修練と継続だな。」
「もちろんです。自身がまだまだだと言う事は昨日思い知らされましたので。これからもより一層に励みます。」
「ははは!あの頃のお嬢からすれば立派に冒険者になれたな。」
ジュリアが決意を新たにしている中で、レオとダンも話に加わる。
「それを言うなら俺たちもだな。俺たちはその頃金ランクに上がったばかりで、ちょっと注目されてたりもして調子に乗ってた。オーレルが戦うのを見た時に自分の生きてた世界がどれだけ狭かったかを思い知らされたよ。」
「え!?レオあんなに強いのに?」
「あの頃の俺と今はそりゃ違う。メルカ様も含め、たくさんの人に教えられた。それはサム爺はもちろんだしオーレルからも教えられた。でも、何より俺を変えてくれたのは街の人々さ。」
「街の人々・・・」
「そうです。エルくん。冒険者は様々な依頼をこなします。魔物討伐や商人のキャラバン護衛もある。薬草を採って来る事だってあるし、荷物を商人の代わりに他の街へ届ける事もある。エルくんは冒険者がこんな様々な依頼を一体何の為にやってると思いますか?」
「え?何のために・・・それは冒険者のランクを上げて稼ぎを増やして家族や仲間と飢えや寒さに怯える事のない生活をする為?」
「もちろんそれもあります。何だったら冒険者として駆け出しの頃はそれが全てだったと言っても良い。しかし、本質は違う。冒険者が依頼を達成する事で街の人々の生活に影響が出るんです。」
「あ・・・」
エルは気付く。それを感じたレオも、ジュリアも、エルを見てそっと頷く。そうなのだ。確かに依頼達成報酬で自分達や仲間の生活は潤う。しかし、冒険者ギルドの本質はその街に暮らす人々の生活の様々な問題を冒険者が代わりに解決しているのだ。隣町や隣の州への街道に魔物が出なくなれば安全に移動が出来るようになる。それは護衛も同じ。危険を冒険者が回避・解決する事で商品が円滑に国内に巡らされ経済は潤う。低ランク時の依頼などはまさにそれだ。薬草と採って来る、街の用水路の掃除、領主や代官のいないような小さな町や村なら夜間の見回りで住民たちの安全を保障する。
「分かるか。冒険者が何よりも大事にしなければいけないのはそこだ。自分の言動も含め全てがその街の住民に見られてる。そして、それがいつか自分たちの評価やその先の人生に大きく関わってくる事だってあるんだ。」
「結局、自分の事しか考えない。依頼達成してランクさえ上がれば周りは認めてくれる。そして自分は強くなっているなんて勘違いをして身勝手な行動をしていると気付いた時には誰も周りにいない、なんて事は冒険者生活ではざらにある事です。」
「昨日、冒険者ギルドのホールでジュリアに謝ってた赤い鎧の冒険者がいただろう?」
「うん。確かザックさんって。」
「そうだ。あいつに会う事があれば話してみると良いさ。冒険者が何たるかって事が少しは見えてくるはずだ。エルも冒険者になるんだ。少しは感じておかないとな?」
「うん!ありがとう!」
話は少し脱線したが、メルカは創竜の翼のメンバーやサームが貴族の爵位を持つ事などは上手く伏せて創竜の翼の昔話をエルに聞かせた。レオが単独でワイバーンを討伐した話、ダンが貴族の令嬢が誘拐された事件で単独で救出した話、ある村に凄まじい数のフォレストウルフが押し寄せた時にジュリアがその群れを氷漬けにした話など聞けば聞く程、御伽噺かと思うほどの話だった。
しかし、三人はしきりに恥ずかしそうな反応でエルが「すごいね!すごいね!」と言っても、「いや、皆のおかげだ。」「助けてもらったから今があるんです。」と答えるばかり。少しも偉ぶらない三人をエルはもっと好きになる。やはり創竜の翼はカッコいい!!皆のように誰からも頼られてちゃんと感謝を感じられる大人になりたい!そんな気持ちが芽生えたエルだった。
ドアがノックされエルフ族のギルド職員が入って来る。商業ギルドと同じくトレイに身分証となるタグが置かれており、それに血を一滴垂らす。エルの名が刻まれた鉄製のタグを商業ギルドのタグと一緒にネックレスに通す。嬉しそうにタグを触るエル。そんなエルにサームが声をかける。
「受ける受けないは別として冒険者と言う者がどういう依頼をこなしているか知っておくのも良い事じゃ。エル、下のホールで依頼ボードを見て来てはどうだ?」
「え?見たい!・・・ですけど・・・」
「昨日の事が心配か?心配ない。昨日の今日でまたあんな事をしでかすような馬鹿はおらんし、ギルドの職員も十分に注意をはらってくれておるだろう。レオ、ジュリア、一緒に行ってやってくれんかの?」
「もちろんだ!さぁ、行こうエル!」
「・・・うん!!!」
心配そうにしていたエルだがレオとジュリアが付いてきてくれるなら問題はないだろうと嬉しそうに三人で部屋を出ていった。
「サーム殿。申し訳ないな。気を遣わせてしまった。」
「いえ、今後の事を話し合う事を思えばエルに聞かせるのは今は得策ではありませんのでな。」
「現在の所はドゥンケル達に帝国領ジェリドの調査を依頼してあります。恐らく一か月ほどで多少なりの報告は上がると思います。」
「ふむ。帝国領の奴隷商だったか。あんな子供を長年奴隷扱いしていたとは・・・やはり統一法は守られていないと言う事か。」
統一法。西ドリア大陸が現在の国々で分かれた後にイルメリア教国以外の国で結ばれた不可侵同盟。その同盟締結の際に、加盟国で統一された取り決めを制定し西ドルア大陸安定基準法、通称『統一法』とした。大陸全土に争乱を広げるきっかけとなった人族による他種族への迫害・差別に対する罰則等の取り決めや他種族共栄を目標としていく事が主の目的で作られた法律だったが、その中には奴隷制度に対する取り決めもあった。奴隷に対する扱いは国ごとによって大きく違い、酷い国では奴隷を物同然のように扱っても構わないと取れるようなものもあった。そう言った事が新たな火種を生まぬように、奴隷制度にも最低限度の身分保障の取り決めを盛り込んだ。奴隷紋を刻む際に、管理者が奴隷の命を奪えない等の管理者に対する措置を契約に含み紋を刻む事の徹底などである。
これによって各国の奴隷制度は一定の安定が見込まれていた。しかし、エルの現状からも分かるように守らない奴隷商が現れ始める。統一法で禁止されている愛玩目的での奴隷の売買や未成年の売買などである。未成年奴隷を扱う場合、絶対条件として血縁関係にある親族を共に奴隷として付随させる事が必須であった。知識・経験が乏しい未成年にとって奴隷生活が違法なものであるかの判断が付かない。そこで親族を共にさせる事でそのようなリスクの軽減を図る。奴隷商としても未成年奴隷一人の為に成年奴隷一人を付けるとなると値段もそうだが売れるまでの費用が倍以上にかかる。そういった事で奴隷商が未成年奴隷の取り扱いを回避するよう仕向けたかった。
だが、今回エルは奴隷紋を刻む事無く物心ついた頃から奴隷商の下で生活していた。それも使用人として教育されていた、と言う事ではなく牢屋で他の奴隷と同じように生活をしていたのだ。これは完全に統一法違反であり、王国内法に照らし合わせた場合なら該当する奴隷商は取扱許可証剥奪と国外追放である。
魔力・スキルを持たない者であれば奴隷紋を刻まなければ、元々の武力(剣技など)が無いならば管理者としては反抗される危険は少ない。それでも獣人族はもともとの身体能力が高いので、魔力やスキルを持たずとも奴隷紋を刻む事になる。今回はエルが人族でしかも赤子に近い年齢であった事が最大の不幸であった。
「とりあえず帝国側の状況はドゥンケル達に任せるしかないな。すまないな。冒険者に依頼を出して情報を渡す側であるはずのギルドが冒険者に情報を依頼する形になってしまって。」
「何を仰られます。これはギルドの要請無くとも我々は動くつもりでいました。エル殿の状況が帝国側の違反行為の確保に繋がるのであれば動かないと言う選択肢はありません。」
「ギルドの諜報部よりもそなたらのドゥンケル率いるクランメンバーの方が他国での活動は一日以上の長がある。さて、今後のエルと創竜の翼の関係と動きを共有しておこうか。」
エルを取り囲む状況は決して明るいとは言えない。しかし、エルの歩むであろう未来を少しでも明るくする為にこれだけのメンバーが頭を悩ませる。それは政治的優越を得ると言う目的も無い訳ではないが、大前提としてエルを無事に王国民として帝国の脅威から離して生活出来る環境を整えてやりたい。
「創竜の翼は今後、以前のように活動班と情報班の二班に分かれて完全にエル殿のサポートに内密で入るようになります。基本は幻霧の森内にあるサーム卿の別邸横に我々も共に生活できるスペースを設け、基本はジュリアが専属で滞在します。」
「ふむ。普通に考えればジュリアだけで大丈夫なのかと言えるが、場所が幻霧の森の中間部であるならば余程の手練れでない限りは近づく事も出来ぬしな。レオとダン、そしてオーレル卿ははどうなされる?」
「はい。基本は同じく幻霧の森での生活となりますが、ワックルトとサーム卿別邸を往復し、情報の共有や今後はサーム卿の納品頻度を上げられるように協力してまいります。」
「ワシはワックルトでメル殿と帝国側の状況を見つつ兄とのパイプ係と言った所かの。まぁ、暇になればエルに皮のなめし方や彫金・鍛冶を教えてやるのも楽しそうじゃ。」
「エルにとっては最高の先生が集まるのぉ。儂も調薬を続けながらエルの心のケアと薬学・錬金術の指導を続けていきたいと思うております。しかし、あまりに森に籠り続けるのも宜しくないと思いますので時々はエルをワックルトに連れていく事も考えております。」
様々な方法で各自がエルのサポートを買って出る。ある意味『過保護』とも言える環境だが、今まさに太陽を浴びその根を張り枝を伸ばそうとする若い芽に優しく水を与えてやりたい親心のような物だ。
ダンがサームの言葉を引き継ぐ。
「ワックルトでの滞在場所は森狸の寝床を基本とし、状況によってはオーレル卿の旧別邸のクランハウスも考えていますがクランハウスを使うとなった場合は我々の事をエル殿にお話しする事が必要となると思っています。」
「白金冒険者であるから豪邸に住んでいても不思議には思われんであろうが、恐らくエルに違和感は抱かせてしまうであろうな。分かった。ギルドとしては創竜の翼への指名依頼はスタンピートを含む一級相当の緊急依頼以外は停止とする。」
「これだけの体制を作ったのはエルが可愛い事ももちろんじゃが、サーム殿とワシとしてはエルが『魔物に襲われる事が極端に少なすぎる』と言うのが非常に気になっておる。一体どのような要因でその様な事になっておるのか。それを見つけたいと言うのもある。」
「偶然見つけた未成年の奴隷であったはず。しかし、魔物を寄り付かせない事もそうだがあの一を聞いて十を知る、いやそれと共に新たな可能性を生み出すあの発想力。エルとは一体何者なのだ・・・」
俄かに少年の環境が動き始める。
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