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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第一章 森の迷い子
23/97

23.商業ギルド

いつもお読みいただきありがとうございます。皆さんからのご評価・ブックマークに日々活力をいただいております。誠にありがとうございます!

 昨日訪れた商業ギルドに到着する。中に入ると昨日よりもたくさんの人で賑わっていて受付カウンターにはいくつもの列が出来ていた。「〇〇商会の荷物、ご準備出来ましたぁ!護衛の方含めて裏口にまわってください!」「本日の△△の取引は以上で終了になります!明日の取引量は・・・」等、カウンターからホール全体へ通知がどんどんと送られている。それに応じて商人らしき人や冒険者の出入りも活発だ。


 全員で中に入り、やはり昨日と同じく一番端の二階に繋がる階段近くにある誰も並んでいないカウンターにダンは並ぶ。すると昨日と同じ赤色の制服の女性が対応する。


 「創竜の翼、ダン様。昨日はマスター不在でご迷惑をおかけしました。面会の準備は整っております。そのままマスタールームへご案内してよろしいでしょうか。」

 「おはよう。ミレイさん。案内をしてもらう前にサーム様の見習い弟子になるエルくんの商業ギルドの身分証を作りたいんだが。」


 そう言ってダンがエルを自分の横へ来るよう促す。カウンターの女性はエルを一瞬驚いた表情で見ると、すぐにまた落ち着いた表情に戻る。


 「それではそちらの手続きもマスタールームでご一緒にお伺いいたします。皆さまご一緒にご案内しますが宜しいですか?」

 「ありがとう。宜しく頼みます。」


 そう言うと受付嬢はカウンターの横からこちら側に移動し、先導しながら二階へと案内する。不思議だったのは二階に上がると一階のあの喧騒が全く聞こえなくなった。不思議に思いキョロキョロしているとレオが楽しそうに教えてくれた。


 「ギルドマスターの部屋や貴族・大手の商会との取引で使われる部屋のある二階は周りの音が聞こえなくなる魔道具が部屋や廊下に置かれてんだよ。取引の内容によっては聞かれては困る話も多いからな。防犯を兼ねてってやつだ。」


 エルは興奮しながらうんうんと頷き、また興味深く周りを見渡す。そしてマスタールームの前に到着すると受付嬢がノックをし、返事の声が聞こえ中へと案内された。

 部屋の中はドアを開けて真正面に大きな窓が構えられており、横の両壁にはこれでもかと様々な本が棚に収まっていた。窓の傍に入り口向きに大きな書斎が構えられていて部屋の中央には十人ほどが座れる応接セットが置かれていた。

 書斎の椅子には眼鏡を掛けた狐人族の男性が座っていた。見た目の印象は若く見えるがマスターと言われているのだから見た目と実年齢は一致しないのかも知れない。それにまず、獣人族も含め人族(ヒューマン)以外の種族はどれも寿命が人族よりも長い。なので、活動しやすい若い期間が非常に長いのが特徴だとお師匠様に教えてもらっていた。恐らくこのマスターも長い間生きているのだろう。


 「おお!サーム様。それに創竜の皆さま、そして可愛らしいお客様。どうぞどうぞこちらに皆さまおかけください。昨日はご面会できず誠に申し訳ございませんでした。」

 「いやいや、こちらも急遽今回の代理納品に付き添う事にしたからのぉ。手間をかけさせて申し訳ない。実はマスターに頼みがあってのぉ。」

 「おやおや。サーム様からのお頼みとあればこのトワム。どのようなご依頼であれお受けしますが、一体どのような?」

 「実は先日より弟子を取る事になってな。その者はまだ幼いので身分証を持っておらん。これから修行を積み、見習い制度で納品が出来るように商業ギルドの身分証発行の許可が欲しいのじゃ。」


 ギルドマスターのトワムは目を見開く。それもそのはず。サームは商業ギルドにとって超の付く程の重要人物。幻霧の森に住んで納品個数は少ないとは言え、超高品質の回復薬や状態異常を治す薬を納品し続けてくれている。今回は昨日言伝があってサーム・創竜メンバー共に身分を隠しての来訪と言う事でその旨頼むとの伝言をギルド職員全員に徹底していた。

 しかし、トワムがギルドマスターに就任して以来30年。サームは一度も弟子を取った記憶がない。それどころか前任のマスターからも弟子がいたとの申し送りはされていない。と、言う事はこの幼い少年が《深緑の賢者》の一番弟子と言う事になる。トワムは冷静を装いエルに声をかける。


 「畏まりました。はじめまして。私は商業ギルドの責任者を務めておりますギルドマスターのトワムと申します。以後、お見知りおきを。」

 「はじめまして!エルと申します。サーム様に師となっていただき末席に加えていただくお許しをいただきました。商業ギルドで身分を保証していただけると嬉しく思います。なにとぞよろしくお願いいたします。」


 トワムは驚く。エルの見事な口上は貴族として生まれて幼い頃より習わなければ身に付かないものだった。この口上をエルは昨夜ジュリアに教えてもらい何度も反芻して記憶した。この少年に身分を隠してまで弟子入りさせたサームの思惑とは。頭の中で様々な憶測を並べるが、考えた所で答えを与えてもらえる訳ではない。エルに応える。


 「エル様ですね。この度は商業ギルドにお越しいただきありがとうございます。身分の精査に関しては少しお時間をいただきます。エル様のご出身の地方はどちらになりますか?」

 

 ダンが口を挟む。

 

 「トワム殿。エルくんに関してはサーム様と我々創竜の翼が身元後見人として連名登録させていただく。なので身分の精査は不要とさせてほしい。」

 「なんと!・・・そうですか。畏まりました。ではそのように。サーム様のお弟子になられると言う事はこの後に錬金術と薬師ギルドにもご登録なされると言う事でしょうか。」

 「今のところは見習い制度での登録じゃから、ギルド員としての身分証は発行してもらえんはずじゃ。しかし、両ギルドにも弟子を取った事は伝えておこうと思っての。修行の後に納品や依頼もこなさせるようにしようと思っておる。」

 「そうでございますか。では、商業ギルドでは御両人様の後見を持って身分証を発行させていただきます。では、こちらに後見人のサインをお願いいたします。」


 机の引き出しから出した羊皮紙をサームに差し出し、サームとレオがサインをする。トワムがそれを確認し、エルの前にその羊皮紙を置く。


 「エル様、お名前は書けますか?それは結構。では、こちらにお名前を頂戴して宜しいですか。はい。ありがとうございます。これで申請書は出来ましたので、これから身分証の発行に移ります。少しお待ちください。」


 トワムが入り口付近に控えていた受付嬢のミレイに合図を送る。ミレイは深く礼をすると部屋を後にする。


 「さて、準備は整うまで少しお時間を頂戴します。サーム様、今回も素晴らしい納品をありがとうございます。錬金術・薬師ギルドと共にお礼申し上げます。」

 「まぁ、キュアポーションなどはまだまだ数が足らんだろうが、ポーションはもう少し等級を落とした方が取引先は多いのではないか?」

 「いえいえ。高い等級のポーションはこういった落ち着いている時にストックしておいて損はありません。非常時になって搔き集めようにもサーム様やエルボア様にお願いしているような高い等級のポーションはそうそう集まる物ではありませんので。」

 「そうか。ギルドの方でそういった判断なのであれば儂は問題ないがの。これからは低い等級のポーションも少しは入れれるようになるかも知れんの?」


 と言って笑顔でエルを見る。それに釣られてトワムをエルを見ると、エルは緊張した面持ちで深く礼をする。


 「商業ギルドと致しましては取引が増える事は非常に結構でございますし、それがサーム様のお弟子さんとなれば期待しかございません。エル様、納品出来るようになった時はいつでもご相談くださいませ。また、商業ギルドでお困りの事が在れば何なりと私かミレイにお声がけください。」

 「エル様?商業ギルドで聞いてみたい事があれば、せっかくの機会ですからトワム様にお聞きしてみては?この先も長いお付き合いになるのですから少しでも不安は払しょくしておいて損はないですよ。」

 「おやおや。何かご不安がおありですか?それはいけません。何なりと。」

 「あっ・・いえ。不安と言いますか。実はギルドを利用させていただくのはこれが初めてなので、商業ギルドと言う物がどういった物かと言うのも分かっていないくらいでして・・・」

 「なるほど。エル様はギルドがどのような運営をしているかご存じですか?」

 「いえ。ギルドは国が運営しているものではないのですか?」

 「ギルドとは職業別に設けられた組合とでもお考え下さい。それは国政や他国との状況に応じて職人や領民・冒険者たちが生活や物品取引で影響される事が無いように国とは離して各職業ギルドが独立運営されています。各ギルドは総本部を頂点として各州に州本部ギルド・州支部ギルドを構えて運営をしています。このミラ州の本部ギルドは州都である城塞都市ミラにございます。なので、ここは支部と言う事になりますね。」


 商業ギルドとしては広大なロンダリオン王国領全体での州ごとの様々な特産品などの相場管理は相当に難しい。なので州の中で本部・支部間で情報共有をして相場を管理する。それを総本部でまとめて管理する事で相場の暴落や高騰などを極力小さくする努力をしている。それは冒険者ギルドの魔物の討伐部位相場や魔石の取引相場も同じである。製薬ギルドで言えばポーションや薬の相場と言うわけだ。当然、魔物によって討伐依頼が溢れているような都市のポーションは高騰してしまうし冒険者ギルドの特定の討伐部位の納品報酬が暴落したりすると、その都市のギルドが他の支部と情報共有を行い、他の支部は薬の制作依頼や護衛依頼として張り出すしたり討伐部位を他の州へ売りに出したりする。こうして相場が乱高下する期間を少しでも短くする。ポーションが早く届けられる事で助かる命もある。


 「国が変われば若干の決まりの違いはありますが、ほぼ同じと思っていただいて結構です。・・・まぁ、教国のようにギルドすらも国で管理してしまうような国もありますが。」


 トワムは吐き捨てるように語る。あまり教国のやり方を良くは思っていないようだ。そうしているとドアがノックされる。


 「おまたせいたしました。ただいまからギルド証の登録をさせていただきます。」


 ミレイが机の上にトレイを置いた。トレイの上には銀製のタグと小さな針が置かれていた。


 「では、エル様。こちらの針で人差し指から血を一滴採らせていただいて宜しいですか。それをタグに落とす事により、このタグがエル様専用のギルド証として登録されます。」

 「はい!分かりました。お願いします。」


 ミレイはそっとエルの手を取り、針を刺す。チクッとした感覚の後、血をタグの上に落とす。タグに注視していると指の先がほんのり温かい。指を見ると刺したはずの傷が消えていた。タグは少し光を放つと王国語で『エル』と表示してすぐに消えた。


 「これで登録完了でございます。このタグは首からさげるか、手首に巻くなどして無くさないようにしてください。」

 「ありがとうございます・・・」


 指でなぞりながらタグを見つめる。エルはやっと手に入れた。

 自分を自分だと示す物。

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