表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第一章 森の迷い子
20/97

20.お金って大切ですね

いつもお読みいただきありがとうございます。何とか20話まで辿り着きました。まだまだ物語は序章すら終わっていませんが、ゆっくりと投稿していきたいと思っております。

 再び目を開けるとさきほどまでいたはずの冒険者ギルドではなかった。ベッドの上に寝かされていて、体にダルさを感じていた。


「エル様っっ!!気付かれましたか!大丈夫ですかっ!?本当に・・・・申し訳ありません」


 ジュリアは目に涙をいっぱいに溜めてエルの顔を覗き込む。そしてエルにかけられたシーツの上でポムが心配そうにクルクルと動き回っていた。エルはなぜジュリアに謝られているのかも分からなかった。見知らぬ冒険者に因縁を付けられ、それをジュリアが助けようとしてくれた。しかし、その様子を見ていたらなぜか立っていられないほど気持ちが悪くなってしまった。


「あの・・・ここは・・・僕はどうしてここに?」

「エル様。申し訳ありません。ギルドであの冒険者の不届き者と相対した時に、私の威圧がエル様にまで影響してしまったようで・・・本当に申し訳ありません。」

「威圧・・・って何ですか?」

「はい・・・冒険者や騎士・兵士の強者の中には己の体から発する怒りや相手を制圧しようとする感情が実際に相手に影響を与える覇気のようなものが身についてくるのです。それによって相手との力関係を優位に進められるようになったりもするのですが、私が未熟であったが故にその威圧がエル様にまで影響を与えてしまったようで・・・」


 あの気持ち悪さは威圧によって起こった事だった。上位冒険者の強さの一端を身をもって感じたエルにとっては何ら謝られる事では無いし、それにジュリアは自分を守ろうとしてくれたのだ。


「ジュリアさん。謝らないでください。ジュリアさんが僕を守ろうとしてくれていたのは分かっていますし、ジュリアさんたち白金冒険者さんの強さを少し知れて実は嬉しいんです!」

「そんな!!本当に強い冒険者は護衛対象に対して威圧をかけてしまうような不手際は起こしません。本当に自分の未熟さを思い知らされました。」

「あの状況ならばギルド自体にも迷惑をかける訳にはいきませんし、最小の被害に抑えようと思えばあの冒険者さんが行動を起こす事無く事態を治める事が最優先だったと思います。だから、そんなに謝らないでください。」


 ジュリアのあまりの落ち込み様にエル自身も悪い事をしてしまったと申し訳なくなる。明日の生活と立身に命を懸ける冒険者が集う場所で子供がウロウロしていれば、苛立ちを感じる者が出るのも少しは理解できるし、もしあの冒険者が依頼を達成出来ていなかったりしたら、当然虫の居所は悪かったに違いない。


「ジュリアさん。他の皆さんは?」

「両隣の部屋を抑えそれぞれに分かれていますわ。さきほどダンから報告がありまして、明日の朝にエル様の体調を見て両ギルドへの登録を行おうと。どういった予定になってもレオと私は原則エル様と共に行動しますので、ご心配はいりません。と言いながら、このような事態になってしまいましたが・・・」

「もう!ジュリアさん!止めましょう!申し訳なく思ってくれているのは十分に伝わりましたから。まだ体は少し怠い感じが残っていますが、もし明日の朝に回復しているようであれば予定通りギルドに同行させてください。」

「分かりました。ダンにもそのように伝えます。お体、無理はいけませんよ?」

「もちろんです。頼りにしています。」

「・・・はい。」


 ジュリアは少し困ったようなしかし恥ずかしそうな笑顔を浮かべて返事をした。部屋の中は二つのベッドが用意されていて間にはパーテーションが置かれていた。ジュリアは「何かあればすぐに声をかけてください」と自分のベッドに戻り、何かの本を読み始めた。

 エルは天井をボ~ッと見つめながら、倒れた後のあの不思議な夢のようなものを思い出していた。

 真っ白な空間。優しく包み込むような声。あの時に聞こえた声はなんだったのか。自分を守るべき者が現れると言っていた。それにあの不思議な声の人物?も力を貸すと。夢であったにしてはあまりにもはっきりと頭の中に残っている。まるで起きて体感したかのように。

 うぅ~ん。。。考えがまとまらない。こういう時は他の興味ある事に気を向けるべきだと思考を変える。恐る恐るエルはジュリアに声をかける。


「ジュリアさん。聞きたいことがあるんですが良いでしょうか?」

「もちろんです!なんですか?」


 ジュリアは飛び退くようにベッドからこちらへ移動してくる。その顔は餌を待っている小動物のようで、エルは思わず笑ってしまいそうになった。


「実は僕、お金と言うものを扱った事が無いんです。もちろん見た事はあるんですが、お師匠様に習ったのは帝国と王国では使われているお金が違うと聞いたので。王国のお金ってどういう物が使われているんでしょう?」

「貨幣ですね。確かに帝国と王国では使われている硬貨のデザインと名称は違いますが、貨幣の種類とその金額はほぼ同じです。王国貨幣単価は全てジェムで表されています。言ってみれば硬貨の形が違うだけで中身は同じって感じでしょうか。」

「なるほど。なぜ形を変える必要があったんでしょうか?全ての国が同じお金ならば取引とか買い物も便利だと思うのですが。」

「そうですね。これは私達一般国民からすれば非常に馬鹿馬鹿しい理由ですが、《自国で貨幣を独自に発行している》と言うのが国家にとっては非常に大事な事でそれによって他国に対して「自分の国は貨幣発行の権利を持っていてその通貨がこれだけの領地で使われている」と言う国勢のアピールにもなる訳です。」

「はい。」

「他にも例えば帝国から王国へ移動して物を買おうと思うと持っている帝国硬貨を王国硬貨に変えなければいけませんよね?」

「そうですね。」

「はい。その時に王国や帝国では硬貨を変更する度に金額に応じた手数料を取っているんですの。金額としてはそんなに大きなものではありませんが、商売や生活などでたくさんの人と物の往来があればそれだけ手数料は積み重なり大きな金額となります。それも国にとっては立派な収入になっているんですよ。」


 ジュリアの説明は丁寧で非常に分かりやすく聞いている中で自然と次の疑問が生まれる。だから、また質問する。ジュリアもその質問を待っていたかのように次の答えを用意してくれている。ダラダラと話を聞かせるだけでなく、相手に興味を持たせて新たな関心を生む。


「この王国で言えば、鉄銭・銅貨・銀貨・金貨・白金貨の五種類があり、その硬貨を百枚集めると次の硬貨一枚分と同じ価値になります。ただ鉄銭だけは十枚で銅貨一枚ですね。そして鉄銭一枚が1ジェムと言う事になります。」

「種類が多いんですね。でも、大きな取引になると持ち運ぶ硬貨も多くなって大変ではないですか?」

「やはりエル様は一つを聞いて様々な可能性や問題点を探る能力に長けてらっしゃいますね。おっしゃる通り、取引枚数が多くなればその手間も持ち運びも難しくなります。ですので、銅・銀・金貨に関しては十枚相当の大金貨や大銀貨と言う特別な硬貨も設定されています。」


 確かにそう言う同種の硬貨をまとめて扱える物がないと、個人での使用にはあまり不都合は無いかも知れないが商店や大口の取引などになれば間違いなく不便だろう。


「それに王国には銀行と言うお金の扱いに特化した国の管理機関があり、そこに個人・商会・貴族関係なく自分の財産を預ける事が出来、王国内のどの銀行でも引き出す事が出来ます。また、遠く離れた家族にも王国内であればお金を送ったりする事も出来ますね。」

「すごい!!!それじゃ大きな都市で冒険者として稼げるようになって自分の家族にお金を送るなんて事も出来るんですね?」

「そうですね。冒険者で成功して家族の生活を助ける為に送金するなんて言うのは、ある意味冒険者を目指す者の憧れと言いますか、自分やパーティーメンバーの生活だけでなく家族の生活も充実させられて初めて立派な冒険者と言えます。」

「なるほど。自分の生活だけでなく周りを助ける事が出来るようになって初めて一人前ですか。すごいですね。」

「いえいえ。そうでなくても色々と穿った見方をされる事の多い冒険者ですからね。そうやって離れて暮らす家族が冒険者をしている息子からお金が来たなんて話が地方都市や村に多くなると、少しでも冒険者の印象も良くなりますし。」

「確かに大切な事ですね。皆さんもやっぱりご家族に送金してるんですか?」

「・・・えっ!?えぇ・・・そうですね。していた時もありました。今はしていませんが。」


 何となくジュリアの反応が変だったのでそれ以上その話を続けるのは止めた。そんな雰囲気はお構いなしにポムは椅子に座るジュリアの膝とエルのベッドの上を行ったり来たりピョンピョンと楽しそうだった。

誤字脱字ありましたらご指摘お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ