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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第一章 森の迷い子
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02.優しい手

まだまだ書き慣れませんが、優しい目でご覧いただけると幸いです。

 暗い森の中。迫りくる狼。死の恐怖に涙を流し抵抗しようにも、もう動けるだけの体力は残されていない。狼は子に迫り今にも喰らい付かんと涎を垂らす。たった一瞬でも奴隷商から逃げ延び、自由を手にする希望が持てた。しかし、現実は甘くなかった。狼が子に飛び掛かった瞬間、目の前が明るくなる。


 まぶしい日の光の中に見えたのは丸太の天井であった。ぐっしょりとかいた汗に濡れた自分は柔らかなベッドの上に寝かされている。夢だった。さっきまでの夢の光景がまだ記憶に新しく、子は状況を理解出来ないでいた。綺麗なシーツを体にかけられており、部屋を見回すと子以外には誰もいないようだった。手に巻き付いていた鎖はなく、枝や小石で傷付いた足には丁寧に包帯が巻かれていた。しかし、それでも安心は出来ない。ここはどこだ。記憶を必死に呼び覚ますが当然記憶にない。意識を失うまではあれほど暗く恐ろしい森の中にいたはずだ。見たことない部屋。丸太を組みあげて作られた部屋には小さな机と様々な本が綺麗に並べられた棚があった。部屋の中には丸い窓からの優しい光が差し込んでおり、あの走り続けたあの暗い森の中ではないと感じさせた。


 その時、部屋の扉が開く。子は恐れ、自分にかけられたシーツを引き掴み壁際に背を寄せた。入ってきたのは優しい顔の老人。背は高く、白髪で白い髭。しかし綺麗に整えられており、清潔感を感じた。


 「おお。目が覚めたか。体はどうだ。」


 老人が優しく問う。しかし、騙されてはならない。何度、笑顔に騙され痛い鞭を浴びた事か。歯を食いしばり老人を睨む。体中の痛みと倦怠感はあるが、それでも気持ちだけは強く持たなくては。

 すると老人は何が可笑しいのか笑いながら更に声をかける。


 「ははは!それほど怯えんでもよいよい。儂の家の近くで坊主が倒れておったから、そのままにしておいては魔物の餌になってはいかんとここまで運んだのじゃよ。それとも。。。喰われたかったのかのぉ?」


 心を読まれたような老人の言葉に、子の体がビクッと動いた。怖い。


 「まぁ、魔物に喰われるにしてもあまりに体中汚れていたのでな。眠っている間に体を清め拭かせてもらったぞ?それに服がなかなか匂うておったのでな。儂のシャツだが着替えさせてもらった。勝手にすまんの。」


 確かに。自分の体はあの汚い牢の汚れが洗い流され、綺麗な白いシャツを身にまとっていた。また奴隷として売ることを考えれば綺麗な身なりの方が良いに決まっている。あの日々がまた始まるかもと言う怖さに涙が流れる。この優しそうな老人がまた自分を地獄の日々に連れ戻そうとする。しかし、もう逃げられない。絶望の中での唯一の抵抗は必死に老人を睨み続ける事だけだった。


 「今、食べる物を用意しておる。その窓から逃げる事も出来るがどこへ行くにしても腹を満たしてからでも良いのではないか?まぁ、気を落ち着けて待っていなさい。すぐに食事を持ってくるから。」


 そう言って老人は部屋を出て行った。ここに奴隷商はいないのか。逃げても構わない?子の頭の上にある窓は確かに鍵もされておらず、少し開けられ心地良い風を運んでくれていた。逃げようと思えば窓から外へ飛び出す事も出来る。

 逃げるか。しかし、逃げきれるのか。奴隷商は?森の魔物は?頭の中でぐるぐると回る考えの端っこに、なぜかあの老人の微笑みが引っ掛かっていた。また騙されるだけなのに。そう思いながらもなぜか引っ掛かるのだ。

 考えている内に老人が木のトレーを持って部屋に入ってきた。その食器にはあたたかそうなスープが入った椀と鳥を焼き細かく切った物の入れた皿がそれぞれ載せられていた。美味そうだ。子の視線は食器から離れられなくなる。もう何日もまともに食べていない。目の前にあるご馳走に腹の中はきゅぅっと痛むほどに空腹を感じていた。

 老人は微笑みながら子の前にトレーを差し出す。スープはたくさんの野菜が一緒に煮込まれていてこれもまた美味そうだった。


 「さぁ、食べなさい。何も考えず今は腹を満たしなさい。」


 子は躊躇う。食事の中に眠るような薬が入れられていて、眠った後に奴隷商に売り渡すかもしれない。しかし、どうなるにしても子にはもうここから逃げられるだけの体力が残っていないと分かっていた。体は綺麗に洗い清められたとは言え、森を走り続けた痛みから解放されておらず動く事すら辛いほどであった。そんな結末のない悩みを巡らせている時に・・・

         ぐぅぅぅぅぅぅ~~~~・・・・

 見事な腹の虫である。もちろん老人にも聞こえたのであろう。老人は大きく笑う。


 「ほほほほ!どんなに悩んでおっても体は正直じゃのぉ。ほれ、体が坊主に飯を食わせろと催促しておるぞ!」


 子は顔を真っ赤にしてうつむく。腹の虫はこちらの都合は考えてくれないらしい。しかし、どう転がっても自分でこの状況を好転させる術が思いあたらなかった。それならばもう老人に委ねてしまった方が楽なのかもしれない。

 老人のその優しい手から、子はそっと食器を受け取った。

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