二章 創造23
「爺さん、いるかい?」
「何だ!……ああ、アレンか。金は持ってきたんだろうな?」
「勿論。ほら、これだ。」
疵面の老爺に、金貨を詰めた巾着を渡す。
中を改めた老爺が、怪訝な顔でアレンを見返す。
「多いぞ、アー坊。」
「いや、ぴったりのはずだ。購入予定の武器二つと、先日注文した双刃剣の代金。」
「……気が早えよ、まだ仕上がってねえぞ。」
「先払いだよ。義理堅い爺さんのことだ、まずないとは思うが、せっかく手に入れた上物を鍛えてもらってるんだ……よそに掠め取られちゃ堪らない。」
「かっ……用心深いことだ。おら、連節棍と斧槍だ。持ってけ、アレン。双刃剣はあと一日待て。大剣はあと二日だ。」
要求された武器を、老爺が棚から取り上げアレンに手渡す。
「どうも。軽く馴染ませたいからちょっと裏借りるよ。」
「おう。」
言葉少なに応じ奥へ引っ込む老爺を見送り、店の裏へと歩を進める。
入ってすぐに目についた、半壊したままの鉄鎧を見て苦笑すると、担いでいた斧槍をゆったりと構える。
横薙ぎ、上中下段の突き、袈裟斬り、切り上げを一通り繰り返す。数回振り回して勢いをつけ、鎧の残骸に叩きつける。鎧の胴が、叩きつけられた一撃で大きく凹んだ。
ニヤリと笑い、斧槍を壁に立て掛けると連節棍に持ち変える。大気を唸らせながら振り回し、上段から打ち下ろすように叩きつける。辛うじて人型を保っていた鎧は、最早見る影もなくひしゃげて、鉄屑以外にそれを形容する言葉を見つけられないほどに、完膚なきまでに破砕されていた。
「いい……実にいい……!」
「お前と戦う魔物に同情するよ、アレン。どの一撃も大体食らえば即死だろうよ。」
「見に来たのか、爺さん。悪いな、試し物用の鎧、完全にお釈迦にしちまった。」
「この前も言ったろ、また打ち直しゃあいい。いやぁ、しかし……見事なもんだ。お前くらいだぞ、こんだけ派手に壊せるの。……っ、と、そんなこたぁどうでもいい。アレン、頼まれた双刃剣、明日の昼には完成するから昼以降に取りに来い。」
「わかった。」
壁に立て掛けていた斧槍を掴み、コートの裾を翻してそれを覆う。ズブズブと、布の中に斧槍が吸い込まれるように消える。連節棍の柄を袖口に差し込むと、袖の中に飲み込まれるように連節棍が消える。
「……アー坊、お前よぉ……わざわざ冒険者なんぞやらんでも、呪具創師の道で食っていけるだろ?ぶっちゃけ、なんで命を懸けてやがる?」
「作り上げた作品の出来を試したくなるのは、作り手の性というものだろう?巻藁や鎧相手じゃ、作った呪具を十全に試すには足りないんだ。それに、依頼を出して素材の買い取りをしたり市場で目ぼしい素材を探すより、自力で集めた方が安上がりだし吟味もしやすい。」
「お前はお前で凝り性だな……ま、儂が口出しするこっちゃねえわな。すまん、忘れろ。」
「凝り性はお互い様だろう、爺さん。私は根本的に、どうしようもなく自己中心主義者だよ。私の中にほんの少しだけ残っている僅かばかりの良心が、結果として私を善の側にとどめているに過ぎない。……些末なことだ。
また来るよ、爺さん。あんたに出来る最大限を、楽しみにしてる。」
「おうさ。たまげるなよ、アー坊。」
不敵な笑みを浮かべた老爺が、建物に引っ込んでいく。肩を竦め、指を弾いて魔法を使い、鎧だった鉄屑を1ヵ所に纏めて、私はその場を立ち去った。