二章 創造9
「はいはい、あたしらにゃよくわからん講釈はそこらで結構。さっさと食っとくれ、冷めちまうだろ。」
「っと、失礼。自分の畑の話となると、つい熱が入ってしまう。……少し冷めてしまっているが、このくらいなら……『熱よ』。……うん、旨い。」
「……なんだい、自前で温められるのかい。」
「ちょっと、お母さん。お客様でしょ?」
「言われなくてもわかってんのよんなこたぁ。ユリーカ、あんたも賄い食っちまいな。今日は珍しく、客がほぼ全員出払ってる。」
「わかった。お母さんは?」
「あたしのことは良いから。」
「はーい。」
「ったく……食べ終わったら、皿はそのままでいいからね。んじゃ、ごゆっくり。」
女将と少女が奥に引っ込むのを見送り、目の前の器に視線を戻す。食事を再開しようとしたところで、対面にいたセフィーが口を開いた。
「ひょっとして……」
「どうした、セフィー。」
「アレン、実は治癒術も使えるんじゃ」
「無理だ。というより、呪具を用いた肉体改造の影響で、そもそも殆どの魔術を無効化出来てしまうせいで、治癒術も効かない。というか、それ以前に……」
「ちょっ!?『癒えよ』……え?」
「多少の傷なら、10秒もあれば治ってしまう。毒物、劇薬の類いも、殆ど1分以内に分解できる。どれだけ飲んでも酔えないのが唯一のデメリットだな。この体質があるから、治癒術は知っているだけで修得はしてないんだ。」
袖から取り出したナイフで、躊躇無く己の掌を裂く。慌てて立ち上がり、裂いた掌に手を伸ばすセフィーの目の前で、巻き戻すように傷が塞がる。
「……おかしいな、幻惑剤とか使った覚えないんだけど?」
「本物だぞ。触ってみるか?」
「……っ。『癒えよ』。……本物だ。」
「私は平気だが、念のため……『浄めよ』。」
「……え?」
「泊まりがけで依頼を熟すときに食糧調達のために使っている解体用のナイフだからな。煮沸消毒した上で浄化も掛けているが、変な雑菌が残ってないとも限らん。」
「……『生体走査』。……今のところは大丈夫そう。」
「なら良いが。何かあったら言え、治癒術は使えないが、一応薬の調合もひととおり心得ている。」
「……そう、だね。」
「私は部屋に戻って設計図を仕上げることにする。」
「……今日は、もう休むことにするね。」
「それが良い。今日は色々と濃い1日だった。」
「アレンは?」
「疲れていないと言うと嘘になる。が、中途半端で終わらせるわけにはいかん。作り手として、妥協は出来ん。」
「……そっか。お休みなさい、アレン。また明日。」
「ああ、お休み。」
器をある程度纏めてから席を立ったセフィーを見送り、同じように器を纏める。
ナイフを袖に戻して、私もゆっくりと食堂を後にした。




