序章 追放4
ギルドを出た私は、ある場所を目指して歩を進める。
路地に入ろうとしたところで、私の耳が覚えのある足音と駆動音を拾った。
「アレン!」
「?イオリ、どうした。拵えてやった義足の不具合って訳ではなさそうだが。」
「いや、義足はなんも問題ないよ。じゃなくて、これ。忘れ物だぞ。」
「……しまった、私としたことが。ありがとう、イオリ。不具合があればいつでも知らせろ、出来るだけ都合を付けて診てやる。」
「あんたから受けた恩に比べたら、この程度なんてことないよ。なんかあったらそん時は頼むな?」
駆け寄ってきた足音の主から、ライセンスタグを受け取る。
タグを首に掛け、足音の主の少年の足に目を向ける。
生身の左足と無機質な鉄色の右足。
「イオリ。」
「ん?」
「足首の関節の駆動音がおかしい、油が切れかけてるかもしれないから注しておいた方が良いぞ。」
「え、マジか。りょーかい、やっとくよ。……なあ、アレン。」
「なんだ。」
「受付の奴らが話してたけど、追放されたのか?」
「ああ、そうなるな。」
「マジかよ。あいつら、馬鹿だなー。」
「九分九厘自業自得の事実だが言ってやるな。」
「だってそうじゃん。セフィーは役割が違うから一括りには出来ないけどさ、アレンとジークとジャックならアレンが一番強いじゃん。」
「全くだ。荷運びに不寝番、倒した魔物の解体に換金と帳簿付け。あいつらが面倒臭がってやらないこと全部、俺が一手に担ってやっていたというのに。……ああ、思い出した。もう私は奴らの仲間じゃないし、持っていてもしょうがないな。イオリ、頼みがある。」
「なんだ?」
「この帳簿と覚書を、セフィーに渡してくれ。」
「良いけど、なんだこれ。」
「黎明の剣の帳簿だ。セフィーは手伝いを申し出てくれていたが、彼女は優しすぎる。性格的にも厳しく言えない奴だから、私が一手に管理していたんだ。他の馬鹿どもは興味すら示さなかったよ。」
「ふーん、わかった。預かっとくよ。」
「手入れは怠るなよ。錆止めはしてあるが、万が一がないとは限らん。」
「おう。アレンも気をつけろよ、冒険者は身体が資本だぞ。」
「言うようになったな、後輩。お前が言うと説得力が違う。」
苦笑いしながら応じると、義足の少年はにやりと笑う。
がしゃがしゃと特有の音を立てながら、少年がギルドに戻っていくのを見送った。
そのまま路地に向き直り、再び歩き出す。