二章 創造5
宿の借りている部屋に戻り、懐から箱状の物を取り出す私の背後で、セフィーが椅子に腰掛ける。
「あの……アレン……。」
「……セフィー、無理してないか?嫌なら、断ってくれて良かったんだぞ。此方から頼んでおいてなんだが、男にあんなこと頼まれても気持ち悪いだけだろう?」
「や、その、嫌なわけじゃなくて……ただ、ちょっと恥ずかしくて……」
「……なぁ、セフィー。一つ、私の秘密を打ち明けさせてもらうと、私は人の感情の機微というものに極めて疎い。特に、恋やら愛やらは私にはわからん。だから、ある筋から聞いた話も特に気にしていない。……秘密の箱庭工房、開門。」
取り出して手中で玩んでいた小さな匣に、魔力を流してから放り投げる。私の手を離れたその匣が、空中で四つに分割される。
分割された匣が空中に留まり、その内側の空間を黒く塗り潰す。
「アレン、これは……」
「私の工房……厳密にはその入り口だ。セフィー自身が誰彼構わず見せびらかしたいわけでは無いだろうし……何より、私自身が、セフィーを辱めることを許容できない。どうぞ、入って。こことは位相の違う亜空間だ、覗く手段は、入り口であるこの境界を閉じてしまえば存在しない。」
「っ……。」
深呼吸を繰り返し、胸元で拳を握るセフィー。
やがて、覚悟を決めたような顔つきで黒い空間を通り抜ける。
「……別にとって食うわけじゃないんだがな。」
後を追うように空間を通り抜けると、黒い空間が収縮する。匣が元の形に戻り、部屋には誰もいなくなった。
「あの小さな匣の中に、こんな広い部屋が……」
「ようこそ、私の工房に。早速で申し訳ないが、脱いでくれ。出来るだけ見ないようにするが、正確なサイズが取りたい。妥協は私の主義に反する……パンツはそのままでいいが、ブラは外してくれるとありがたい。」
「……見ても構いませんから、その代わり、責任取ってください。……今までずっと言えずにいましたけど、私はアレンが好き。友達としてじゃない、一人の異性として好き。歳の差なんて知らない、周りの目なんて関係ない。」
「……セフィー、いきなりなんだ?言ったはずだぞ、恋だの愛だのは私にはわからんと。お前の向けるその感情が、私は理解出来ない。」
「わからないならこれから知っていけば良いんです。私は、アレンと一緒にいられるなら、他になにも要らない。だから……」
「……相手が、老いることのない化け物でもか。」
「……え?」
「仮に私が、お前の言う『好き』の意味合いを理解出来たとして。私がセフィーと同じに老いることのない怪物でも、お前は私を『好き』でいられるのか、と聞いている。……『龍化の宝珠』、起動。」
めきめきと、腕や首元に鱗が生える。爪が、平爪から鉤爪に変わる。
縦に切れ込みが入ったような真紅の瞳で、セフィーを見据えた。
しかし、告げられた言葉に、私は絶句することになる。
「それが何か、問題でも?」
「……は?」
「だから、それが私がアレンを好きでいる上で何か問題でもあるんですかって。」
「……老いることがない理由はそれだけじゃない。」
「関係ない。」
「…………くは、はははは!セフィー、セフィー、セフィー!それだけ言い切れる芯の強さがあって、なぜ奴らにもっと自己主張しなかった!未知の分野の情報だ、全く未知だ!……セフィー、一先ず私の負けだ。お前の言う『好き』は全くわからんが、追々知っていくことにしよう。」
「っ!じゃあ」
「一先ず友人から、とさせてくれ。と、言っても、友人もほとんどいたことがないが。……人と関わる時間より、呪具の材料を弄くっている時間の方が長かったものでな。毎日のように父の工房に入り浸っていた……過去は追々教えてやる、そろそろ測らせてくれ。『龍化の宝珠』、停止。」
龍化した体を元に戻しながら話を打ち切り、壁に吊ってあった巻き尺を取り上げる。
「そ、それもそうですね。」
「相手に対して敬意を払うのはとても良いことだが、友人なら対等なものだと私は認識している。つまり……敬語はやめよう。あと、最初に身長を測らせて欲しいからまだ脱がなくて良い。」
「へぁ、う、うん、わかった。」
当惑しながらも私の要求に応じる彼女を、黙々と測っていく。その華奢でか細い体躯からは想像も付かない数字を意外に思いながらも、用意した紙に整然と記録していく。




