二章 創造3
「……そう言えば、あいつらは安全マージンというものをご存知ないタイプのアホだったな。」
「ええ、アレン、の言うとおりです。」
「……前と呼び方変わってない?ぎこちないけど。」
「意識してはいるんですけど、染みついた癖が…っ。」
「私がそうするよう頼んだんだ。悪い癖でな、人付き合いは好きではないが、身内と思うとどうにも甘やかしてしまう。聞いた話で私は信じていないが、セフィー。一つ覚えておいてくれ。私が呼び捨てないし渾名で呼ぶことを許すのは、親しい相手か尊敬する相手だけだ。」
「へぇー……だそうよ、セフィー?一応脈ありなんじゃない?」
「よ、っ……余計なお世話よ、キャロル!!」
受付の指摘を聞いて、私が溢した言葉と受付の発言に、セフィーが顔を赤らめて、彼女にしては珍しい強い口調で吼える。
「っと、ごめんなさい。可愛かったからつい…ね?この後何か依頼受けていく?丁度今、あいつら出ていったけど。」
「……幻影燈籠使っておいて正解だった。奴ら絶対絡みに来てたぞ、私達に気付いてたら。」
「どうしますか、アレン?」
「いや、今日は止めておこう。私個人に関しては他のやつの仕事がなくなるから1週間くらい依頼受けるなって暗に言われてるし、セフィーも疲れてるだろう。私の頼みに付き合ってもらうことになるが、その後はたっぷり休んで貰うことにする。それに、得物の受領があるから、五日後ガンドラ爺さんのところに行くまで依頼は受けない。」
「え?アレン、の武器って、あの変わった形の双剣じゃないんですか?」
「ハルパーか?間違いじゃないが、私本来の得物じゃない。奴らと連携を取る都合上、得手は邪魔になるだけだったから封印していた。これは頼んだものが出来るまでの繋ぎだが…本来の私の得物は、長物系だ。」
疑問に曖昧に答えながら、袖から双刃剣を抜き放つ。無駄の一切無いその威容に、2人が息を呑む。
「すご……振り回せるんですか、そんな大物?」
「でなければ使わない。重く、取り回しには難儀する得物だが、私は違う。もともと斧槍や三叉槍を使っていたから、むしろこっちの方が使いやすい。」
「へぇ……自分を斬ったりしないの、それ?」
「危うく腕を飛ばしかけたことは一度だけ。回転斬りに巻き込みかけた。」
「……両腕がちゃんと揃ってるってことは、斬らずに済んだのね。」
「やつらを黙らせるのに支部長殿が使ったのだろう目録の、王種含む大物を倒すのにもこれを使った。……やつは、心底から強敵だったと言える。敬意を払い、我が糧にするに相応しい獲物だった。」
「……一体何を狩ったのかしら。」
「私も気になります。」
「ん?キャロルさんはともかく、セフィーは目録見たんじゃないのか?」
「いや、その時にはもう脱退手続きの書類を出した後で……遠巻きに見てただけで、目録の総額らしき数字は読めたんですけど、中身まではちょっと………。」
「……隠し立てすることでもないが、悪目立ちしたいわけでもない。内密に頼むぞ。支部長殿から聞かされてやっと正体を知ったんだが……サーベルウルフの変異種と推定される異名個体、赫き凶刃だ。一軒家ほどの巨体に右目の上に斜めの疵がある、真紅の毛皮の狼だった。」
「……アレン、ネームドってなんですか?」
「そこからか。」
「セフィー、あんた癒術師とはいえ仮にも冒険者でしょう……異名個体と不穏分子、大物くらいは覚えておきなさいよ。」
「すみません、不勉強で……」
「無理もない、そんな何度も出会うものじゃない。余程運が悪いとか……いや、一周回って持ってるというべきだな、でなければ。読んで字のごとくその外見や性質などの特徴から、魔物の種としての名の他に特別な呼称が付いた個体のことだよ。我々冒険者で言うところの『二つ名』のようなものだ。身近なところで言うなら、『砦斬り』ユキナがそうだな。……いや、セフィーは面識が無いのか。」
「謙遜しちゃってぇ。貴方自身もそうでしょう?『無双の英雄』さん?」
「……その二つ名は、あまり好きじゃない。」




