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幕間 愚か者

「ジークさん。大変申し訳ありませんが、冒険者ギルドの規約に則り、黎明の剣のパーティーランクは引き下げられることが決定いたしました。従って、不落の古塔の攻略許可を出すことは出来ません。」

告げられた言葉が、一瞬俺は理解出来なかった。

「……済まない、耳の調子が悪いようだ。よく聞こえなかった。」

「では、もう一度申し上げます。黎明の剣に属する冒険者だった(・・・)アレンさん、セフィーさんの当該パーティー脱退に伴い、当該パーティーの戦力評価が下方修正されました。それに伴い、当該パーティーのパーティーランクが引き下げられることが正式に決定いたしました。よって、黎明の剣のパーティーランクはBランクになりましたので、不落の古塔には挑戦出来ません。」

「巫山戯んじゃないわよ!セフィーの脱退はともかく、あんな道具頼みの雑魚追放しただけでなんであたし達の評価が下がるのよ!?」

「巫山戯ているのは何方ですか?むしろ、何故AAAランクの冒険者であり、3年前の異界迷宮暴走スタンピードにおいて単身で大物リーダー格の魔物の八割を撃破した英雄を追い出しておいて、ランクが落ちないと思うのです?」

「……はあ?どういうことだよ。あいつが?」

「アレンのやつが、英雄?っ……く、ははははっ!!冗談は止してくれよ!」

「事実ですが。実際彼一人で貴方達3人どころか、このギルドの冒険者の半数を足しても届かない戦果を上げています。」

「あり得ないわ。あたしもその異界迷宮暴走の時に戦線にいたけど、討伐数1位はあいつじゃないわ。」

「ええ、その通りです。数は(・・)、ね。数だけならユキナさんに軍配が上がります。純然たる戦闘職である剣豪のユキナさんと比べるのもおかしいですが……彼の戦果は討伐対象の質です。双頭魔犬、禁断合成獣フォビドンキマイラ双身巨人エティン堕落炎精フォールンサラマンドラ三頭魔犬サーベラス九頭不死毒龍ヒュドラアンデッド偽世界蛇デミヨルムンガンド……他にもありますが、その大部分が危険度評価A以上の凶暴極まる魔物ばかりです。それに、一昨日も大戦果を上げて帰ってこられましたよ?」

「……なんだって?」

「詳細は箝口令が支部長直々に敷かれておりますので、私の口からはとても。」

「……納得いかないな。僕たちの成果が、Aランクに相応しくないと?」

「端的に申し上げるならそうですね。苦情は支部長と支部長補佐、それと戦力評価査定部の方にお願いします。」

「私が、どうかしたかね?セレス君。……おや、黎明の剣の諸君。依頼処理窓口は一つ隣だぞ?」

「……丁度良いところに来てくださいましたね、支部長。僕たちのパーティーランクの評価に関してお話が」

「……ろくな成果も上げない破落戸に構っているほど、私も暇ではないのだが。ジェイナス、私が早急に処理すべき書類は残っているかね?」

「いいえ、ボス。緊急の事案等はありません。また、ボスの決裁が必要な書類で、締切が直近三日以内のものは全て処理完了しております。」

「そうか、ありがとう。……ということだ。丁度運良く時間が余っていることだし、立ち話で良ければ聞こう。」

「セフィーの離脱で影響が出るのはわかりますが、何故あの無能が高く評価されているのですか?」

「っ……くく、ははは、あっははははは!!……いや、失礼。どんな妄言が飛び出すかと思えば、言うに事欠いて彼を無能・・呼ばわりとは。単刀直入に言おう。君たちも含めて、このギルドに属する人間の大半は、彼に頭が上がらないし、彼に足を向けて寝られない。この町の住人達もそうだ。彼が3年前の異界迷宮暴走で大物の大部分を単独で排除し、15名もの負傷した冒険者を救助し、残党の掃討の成果こそ他の冒険者に譲ったもののこの町を救った英雄であることは疑いようはない。言葉は慎重に選び給え、小僧。君の口にする言葉によっては、私だけではない……この町の住人全てを敵に回すと心得給え。……まあ、それだけでは納得するまいな。少し待ってい給え。」

俺とジャックは辛うじて耐えたが、レイナが膝から崩れ落ちる程の威圧を放って告げた支部長が、無言で奥に引っ込んでいく。然程待つこともなく戻ってきた支部長の手には、一束の羊皮紙が握られていた。

「本来軽々に公開して良いものではないが……突き付けられずして納得は出来ないだろう。見給え。」

「これは?」

「彼が二日前に受けた4件の依頼の討伐証明として持ち込み、買い取りを此方が提案したものの目録とその査定結果だ。全てに目を通せば、私が言う意味もわかるだろう。」

「……ジャック、来い。レイナも、立てるならこっちに。」

3人揃ったところで、支部長が持ってきた羊皮紙を覗き込む。

そこに並べられた文字の羅列に、俺は己の耳に続いて目の不調も疑うことになった。

「……支部長、ジョークにしては荒唐無稽過ぎないか?」

「はっはっは、私がそんなジョークを言うように見えるかね?生憎と全て真実だ。彼の冒険者登録票の記録と照合したから、間違いない。君の首から下がっているそれ同様、偽装や欺瞞の類いが効かないことは、君もよーく知っているはずだ。」

「……嘘だろ、こいつ異名個体を単独で!?」

「……王種を、2体も……あり得ない……!」

「……亜竜種の群れを蹴散らす方がまだ現実的だ。」

「彼が討伐した2体の王種は、何れも危険度評価AAA以上。異名個体に至っては、此方の想定ではS以上のパーティー(・・・・・)で対処する()()()()。1時間あまりの交戦の末単独で仕留めてしまったようだが。」

「……あの野郎、隠していたのか。」

「無理もない。彼は私達ギルドの職員にすら、手札を殆ど曝していない。君たちは全く信用されていない、ということなのだろう。……理解したかね?では、腕を磨いて出直し給え。少なくとも現時点での諸君らの戦力評価では、不落の古塔に向かっても何の成果もなく無駄死にするのがオチだ。」

「……わかり、ました。」

「ご理解頂けたようで何よりです。ありがとうございます、支部長。」

「うむ。」

奥に引っ込んでいく支部長を見送り、俺は二人に目をやる。

「……どうするよ、ジーク?」

「ふう……一先ず、計画の練り直しが必要だな。レイナ、ジャック、とりあえずこっちに。」

併設された酒場兼食堂に二人を誘導する。鞘に入れたダガーを所在なげに弄ぶジャックと対照的に、虚ろな目で歯軋りしながら、ヨロヨロと覚束ない足取りのレイナの腕を然り気無く掴んで牽きながら歩く。

幽鬼のような表情のレイナを座らせて、それに倣うようにジャックが腰を下ろしたのを見て、俺自身も腰掛ける。

「ご注文は」

「コーヒー3つ。砂糖壺も一つつけてくれ。」

「……パンケーキ。クリームたっぷりの。」

「か、畏まりました。」

注文を聞きに来た給仕の言葉を遮るように、淡々と告げる。俺の言葉に続いて口を開いたレイナの声にたじろぎながらも、注文を書き取った給仕が奥に引っ込んでいく。

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