一章 再起28
「条件?」
「なに、そんな難しいことを頼むつもりはないが、断ってくれても構わん。その場合は別の条件を考える。」
「うーん……とりあえず聞くだけ聞かせてください。無理を言っているのは承知の上です。あのバ……あの人達を止められなかったのに、虫の良いことを言ってるのもわかってます。」
「作りたいものがあるので、その参考にするために体の寸法を録らせて欲しい。私自身の創造意欲に関わるが、誰彼構わず軽々に頼めるものでもない……具体的には、胸囲、腹囲、腰回り、座高、身長、手足の長さから指の長さに至るまで、余すところなく全て。」
「っ……すー、はぁぁ……わかりました。私の体が、アレンさんの役に立つなら。」
「済まない、助かる。」
「そこは謝罪じゃなくて感謝でしょう?むしろ、私の方こそお礼を言わせてください。」
「その礼は手続きが終わるまで取っておけ。それと……慣れないかもしれないが、さん付けは止めろ。」
「わかりました、アレンさん……ううん、アレン。」
「さあ、そうと決まれば話は早い。女将に話は通しておくから、黎明の剣の定宿から荷物を取ってくると良い。」
「そうですね。また後程。」
窶れているのは変わらないが、幾分か肩の荷が降りたような和らいだ表情のセフィーが席を立つ。一礼してから部屋を出て行く彼女を見送ってから、私も部屋を出た。
「お客さん、帰ったみたいだねぇ。んじゃ、頼まれたとおりコーヒー持っていくから部屋で待ってな。」
「ああ、女将さん。さっきの客、別の宿からこっちに移ることになるんだけど、部屋開いてるかい?」
「運が良いね、開いてるよ。一応、人をやって掃除させておくよ。」
「ありがとう、女将さん。」
「なぁに、金さえちゃんと払ってくれるなら、それが浮浪者だろうと奴隷だろうとお客様さ。あたしも商売でやってるからね……慈善事業じゃあないんだ、どうあってもそこは譲れない。金で秘密は守るし、休める場所も用意するし、味の好みはどうあれ、最低限食える飯は出す―――申し訳ないが、一人一人の好みに合わせてられるほど、暇じゃあないからね。」
「貴女のそういうところ、嫌いじゃない。」
「よしとくれ、矜持と呼ぶにも薄っぺらい信条でしかない。感謝は言葉より金で示してくんな。」
「ああ、勿論これからも贔屓にさせて貰うよ。」
ニヤリと笑う女将に、軽く手を振って応じて部屋に戻る。
コートを脱いで、ハンガーに掛け壁に吊した直後、ドアをノックする音が部屋に響く。
「入るよ、アレン。そら、コーヒーだ。」
「どうも、女将さん。」
「ベロニカ。あんた、あたしのことを女将さんとしか呼ばないけど。あたしの名前、『女将さん』じゃないのよ。これからは『ベロニカさん』と呼びな。」
「……ごめん。気をつけるよ、ベロニカさん。」
「よろしい。そんじゃ、なんかあったらまた呼びな。」
部屋を出て行く女将を見送り、コーヒーに口をつける。




