一章 再起27
翌日。
「アレン、あんたに客だよ。」
宿の食堂で黙々とパンを囓る私に、宿屋の女将が声を掛けてくる。
「客?一体誰が?」
「さあ?名前は知らんよ。15歳くらいの聖職者っぽい格好の女の子だ。あんたが今泊まってる部屋に通して良いかい?」
「……いや、別の部屋を貸して貰えると助かる。」
「あいよ。追加料金、あんた羽振りが良いからね、他の客なら3000のところを、2000にまけといてやるよ。」
「じゃあこうしよう。3000出すから、客の対応が終わったら、私が泊まってる部屋にコーヒーを持ってきてくれ。」
「毎度。談話室を貸し切っとくよ。」
そう告げて去っていく女将を見送り、咀嚼していたパンを飲み込む。
席を立ち、談話室に向かい、扉を開けると、果たしてそこには、憔悴した様子の見知った顔がいた。
「もう会うことはないと思ってたよ。たった3日で何があったんだ……セフィー。」
「お久しぶりです、というには早い再会ですよね……。お願いしたいことがあって、2日間ずっと探してたんです。」
「…………まさかとは思うが、寝ずに探してたんじゃないだろうな。」
「半分正解ですね。」
「……前から思っていたが、セフィー。お前は自分の身を顧みなすぎる。……で、用件は何だ。お前の頼みだとしても、【黎明の剣】のところには戻らんぞ。」
「わかってます。そんな馬鹿なこと頼みませんよ。単刀直入に言いますね、アレンさん。もうあの人達には付き合いきれません。脱退してきたので、雇ってください。」
「……は?セフィー、いきなり何を……」
「金遣い荒いし、態度悪いし、勇気と無謀ははき違えるし、あんな頭のおかしい人達と付き合ってたら、命がいくつあっても足りませんよ!どれだけ言葉を尽くしても、ジークさんは聞かないし、あんな馬鹿な人達に巻き込まれて死ぬなんて、私は嫌です。ねえ、アレンさん。私ね、ずっとアレンさんに憧れてたんですよ?」
「色々言いたいことはあるかもしれないが、一旦落ち着け。なあ、セフィー。確認したいんだが、あいつら本気で『不落の古塔』に挑もうとしてるのか?」
「『挑もうとしていた』が正確ですね。私が脱退したことで、ギルドが正式に黎明の剣のパーティーランクの引き下げを決定したので、挑めなくなりました。」
「……ソロAA以上、パーティーAだったな、たしか。」
「詳しくは教えていただけませんでしたけど、冒険者ギルドの独自の戦力評価が、どうもアレンさんのお陰で引き上げられてたみたいで。あの人達は『そんなはずない!』ってぎゃーぎゃー喚いてましたけど。引き下げの決定打になったのが私の離脱で……癒術師の脱退に伴い継戦能力を喪失したことが止めになったみたいです。それでも納得いかずに騒いでたお猿さん達に、奥から出てきた支部長さんが何かの目録みたいなものを突き付けて、そしたら黙っちゃったんですけど、何見せたんでしょうね?」
「……ギルドの規約かなんかじゃないのか?」
「……うーん、規約の一覧にお金の話なんて出てきます?」
「お金?」
「なんか値札でレルドを示すマークの後に0が7つ並んでましたけど……」
「……多分、それ昨日私がギルドに査定して貰ったものの総額だ。一昨日依頼で狩った魔物の死体を全部持ち込んだら、一体埒外に強いのが紛れてたんだ。」
「何狩ったらそんな法外な値段になるんですか、もう……。ねえ、アレンさん。結局、雇ってもらえるんですか?」
「雇う、という表現はおかしいが……組むのは構わんが、条件がある。」