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一章 再起20

「どうも。オレンジジュースある?」

「おう、あるぞ。未成年でもここを使うやつはいるし、下戸もたまにいるから飲み物は一通り揃えてある。……っと、ジョッキが全部出払ってるな。ほい、オレンジジュース一丁。」

「ありがとう。……そういえば姉さん、刀は?」

「今は呪印に仕舞ってる。ちょっと酷使しすぎたのか、刀身に罅が入っちゃったから明日カグラさんのところに持っていく予定。」

「罅?見せてみろ。鍛冶は生憎専門外だが、直せるかどうかくらいはわかる。」

「……引かない?」

「刀を見るのに何故引く必要がある。」

「……出来れば、あまり抜く(・・)ところを見られたくない。」

「誰だって秘密の100や200はある。そうだな……これでいいか。『陽炎の幻灯機(ミラージュブラインド)』、起動。これは、父の手を借りて作った呪具で半径5メートル以内の人間の存在の解像度を極端に下げる……まあ、平たい言い方をするなら、全く目立たなくなる。」

「だったら、頼もうかな。……かしこみかしこみ申す、彼方より来たりて魔を祓え。」

ユキナが着ていたシャツを捲る。へその少し上に刻まれた、黒い模様が目を引く。その模様から、ゆっくりと黒い柄が覗く。引き抜かれたその刀身に、深く息を吐くレイラと対照的に、私は瞠目した。

「……ユキナ、良い知らせと悪い知らせ、どちらから聞きたい?」

「え、何急に?じゃあ……良い知らせから。」

「お前が懇意にしている鍛冶師の腕前は知らんが、私の見立てでは問題なく修復可能だ。」

「……悪い知らせは?」

「それ、かなり歴史のある刀だろう。多くの念が絡みついて、妖刀になりかけている。というより、ほぼ妖刀に()()()()()。その妖刀の魂が、使い手であるお前を拒絶している。そのままだと、直してもいずれまた罅が入る。」

「……じゃあ、これに使い手として相応しいと認めさせる必要があるってこと?」

「そうなるな。プラーナは使えるか?」

「わたしが身につけている戦闘技術は全て、気の制御を前提としたもの。師匠や父さんにはまだ及ばないけど、使い手としては強い方。」

「気を通して語りかけてみろ。対話出来るはずだ。」

「わかった、カグラさんのところに持っていく前にやってみるよ。」

「言っておくが、茨の道だぞ。魔剣、妖刀の類いを扱うのはお前のそれが2度目だ。今のところ私が知る前例は一つだけ……その前例がどうなったかは、これを見ればわかる。」

そう告げて、私は懐から一振りの剣を取り出す。漆黒の柄と鎖が巻き付いた赤黒い刀身を持ち、複雑な模様が刀身に浮かぶ、鍔に目玉のような意匠に見える緋色の宝玉が填め込まれたそれを見て、一同の表情が引き攣った。

「……アレン、それ……何……?」

「魔剣だよ。銘を餓血剣ブラッドサッカーダインスレイフ。抜いたが最後、獲物を切り裂きその血を啜るまで、決して鞘に戻らない殺戮の魔剣だ。前の所有者は、こいつの力に飲まれて人格を失い、体を乗っ取られて村を一つ亡ぼした。どうにか父に動きを止めて貰って、そいつの首を刎ねてこれを回収したんだ。刀身に魔術で封印を科して、どうにか押さえつけている。間違っても持とうとするなよ、イオリ。未熟な者が持てば、瞬く間にその精神を食い尽くして体を奪う。血に飢えた鏖殺の魔剣だ。今の私でも、正直捩じ伏せられるかわからん。」

「じゃあ、なんであんたは持っていられるんだい?」

「封印をかけるときにちょっと()()して脅しつけてある。ダインスレイフの本体はこの鍔の宝玉だ。本体が壊れる寸前まで、ありったけの魔素をブチ込んでやった。『このペースでブチ込めばお前が私を乗っ取るより先にお前の本体を粉々に出来るぞ、それが嫌なら大人しく封印されろ』って言ったら渋々封印を受け入れたよ。」

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