一章 再起17
話を続けようとしたレイラに、闇を押し固めたような瞳を向け、低く抑揚のない声で脅し黙らせる。
威圧に怯み、口を閉じたレイラを余所に、再びステーキを口に放り込んだ。
「……一瞬、死んだかと思ったよ。」
「まだ俺が冷静を保てるうちに、その口を閉じろ。」
「悪かった、もう言わない。」
両手をあげ、降参を示すように謝罪を口にするレイラ。
「不愉快極まる……ランドさん、追加注文良いかな。」
「おう、何だ。」
「蒸留酒、瓶で。出来るだけ強いやつ。」
「アレン、あんた酔えないんじゃ」
「……料理用のやつで良ければある。」
「それで良い。」
「わかった、待ってろ。」
「大将!?」
カウンター奥で大将が屈み、何かを探る素振りを見せる。再び姿を見せたとき、その手には酒瓶が握られていた。
「ほれ、火酒だ。」
「……アレン?本気か?それ、ほぼ純度100%だぞ?」
「ありがとう、ランドさん。」
「一応は客だからな。頼まれたもんで出せるもんは出すことにしている。栓抜きは」
「要らない。」
瓶の首を鷲掴みにして、コルクを逆の手の親指と人差し指で挟み、力任せに引き抜く。ポンと景気の良い音を立てて栓が抜け、アルコール特有の匂いが立ち込める。
空にしたジョッキに並々と注ぎ、最後の一切れと一緒に流し込む。
「そう言えば、かなり良い肉使ってるみたいだけど、こいつ誰が仕留めたやつ?」
「ユキナだ。」
「ユキナ?……ああ、あの髪の長い刀使いの。」
「わたしが何か?」
「噂をすればなんとやら、だ。」
「初めまして、だよね。ユキナ、ソロランクAA。よろしく。」
「面と向かって話すのは初だな。互いに噂はよく聞くだろう。アレンだ。AAA。」
「知ってる。ものすごく強いって聞いた。隣、良い?」
「……何故私の隣に座る。」
「一度、直に会って話してみたかった。此処に来たのは偶然だけど、僥倖。」
「いいじゃないか、アレン。両手に花だ。って、言っても、あたいは花って言うにはちょっとあれだけどさ。」
「大丈夫。レイラは気遣いが凄く出来る人。わたしみたいなお気楽女とは違う。ところで、いつもいた取り巻きの人達は?見当たらないけど。」
「追い出されたんだとさ。」
「……理解不能。何故アレンが追い出される?アレンが見限って解雇するならわかる。」
「一つ訂正しておくと、あのパーティ……『黎明の剣』のリーダーは私じゃない。」
「どうして?冒険者なら序列は経験と腕前、それら全てをひっくるめた強さで決めるべき。癒術師の子を勘定から除けて、3人足してもアレンの足下にも及ばない雑魚共が、アレンより上?馬鹿げてる。」
「ジークのやつが余りにしつこく頼み込んできたから、折れて入ってやったんだ。奴ら曰く『邪魔で目障り』なんだそうだ。ジークのやつからすれば、私は所謂目の上のたんこぶなんだろう。」
「思い上がった小物、呆れ果てる。」
「四人のうち3人が私を不要だと思ったらしいから、最後の餞別と手切れ金代わりに、貸してた呪具全部取り上げてきた。」
「そういえば呪具創師だっけ。」