序章 追放2
拠点として使っていた宿を出て、快晴の外をゆっくりと歩く。
「よお、アレン!今朝は随分早いじゃねーか!…って、1人か?」
声の聞こえた方に顔を向ける。たまに食う串焼きの屋台の店主が、仕込みをしながら訝しげな顔で此方を見ていた。
「お早う、ウッズさん。いやなに、奴ら、ついに私を追放することにしたらしいんだ。これからギルドで脱退手続きだよ。」
「はあ?……言っちゃ悪いが、正気かよあいつら。そんで……脱退してからどうするんだ?」
「当分はソロでやるさ。阿呆の面倒は当分見たくないね。」
「なるほどなぁ……でも、お前呪具創師だろう?戦えるのか?」
「師匠から戦い方は一通り叩き込まれてる。奴らと組む前はソロで潜ってたんだ、安全マージンは必要になるがまだやれるさ。」
後ろ腰に吊した二丁の弧を描く刀身の剣をカチャリと揺らして、苦笑いしながら応じる。
「へー……ま、怪我には気をつけろよ。」
「判ってるさ。」
此方を案じるような素振りを見せる店主に、ヒラヒラと手を振って応じてその場を離れる。
緩やかに歩を進めて、ふと目線を上げる。
「さて、理由をどう誤魔化したものか……まあ、なるようになるか。」
そう溢して、見上げた先にある、宝箱の下に二本の剣が交差した絵が描かれた看板が立て掛けられた建物の戸を開け、入口を潜った。
建物の中に入ると、埃一つない板張りの広間の奥にあるカウンターと、左手側の大きな掲示板が目に入る。
朝早くだからか人はまばらで、受付では身なりの整った小柄な女性が退屈そうにペンを回している。虚空を見ながら手遊びをしていた女性が、足音で私の接近に気付いて手を止め姿勢を正す。
「お早うございます、冒険者ギルドセリア支部にようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「お早う、アリアさん。パーティー脱退手続きをしに来たんだ。」
「脱退手続きですね、かしこまりま……脱退!?アレンさん、ついにあいつに見切り付けたんですか!?」
「その表現なら、むしろ私が見切りを付けられた方かな。」
「ええー……頭おかしいでしょう、ジークのやつ……レイナもジャックも本当に……っと、いけない。冒険者登録票の提示をお願いします。」
「はい。」
目の前の女性が気さくに話しかけてくるのを半ば聞き流しながら、首から提げていたタグを取り出してカウンターに置く。
専用の装置の上に差し出したタグを載せながら、女性がカウンターの下から一枚の紙を取り出す。
「此方の書類をよく読んで問題なければサインをお願いします。」
提示された書類を手に取って、上から下までざっと目を通す。
内容に不審な点がないことを確かめると、私はその書類にサインを書いた。