一章 再起12
そう言った女に、答えることなく私は踵を返す。
「あ、ちょっと!」
「貴様、お嬢様を無視するとはどういう了見だ!」
「それに行き先を告げれば、其処までは連れて行ってくれますよ。あと……同行する気はありません、悪しからず。」
地を蹴り、宙に体を躍らせる。体を捻って姿勢を変え、空を蹴って弾丸のように空を跳ぶ。馬車を振り返ることなく、街に向かって駆けだした。
「行ってしまわれました……ですが、お生憎様。容姿は覚えました。冒険者ギルドに問い合わせればわかるでしょう。クレア、行きましょう。」
「はい、お嬢様。」
護衛が御者台に戻り、女性が馬車の中に戻る。
「セリアまで頼む。」
護衛が八本足の馬型呪具に行き先を告げる。呪具の足が滑らかに動き出して、馬車を牽いて進み出した。
空気を蹴りつけ、空を駆け抜ける。遠目に街を囲う城壁を視界に捉えると、速度を落としながら緩やかに地上に降り立つ。
傾く日を眺めながら、門の前に辿り着いて声を上げる。
「おおーい!」
「何だ……おう、アレンじゃないか。朝方出てったのに、随分早い戻りだな?ちらと見えた依頼書の中身的に、泊まりがけかと思ってたぞ。」
「王種が思ったより早く片付いたんだ。ほら、タグ。通って良いか?」
「おう、勿論良いぞ。お疲れさん。」
門の横にある詰め所に控えていた門番の男と軽く言葉を交わし、タグを見せてから門を潜り抜ける。
「しかし、アレンよ。血の臭いはするが汚れ一つないな?」
「コートとズボンとブーツに汚れを弾く魔法を付与してある。臭いの方はそうも行かなかった。どうしても陣同士が干渉して作用が狂うんだ。一応、軽く『清浄化』は掛けたんだが、まだ匂うかい?」
「ちょっとはな。……いや待て、さっきさらっと流したけどお前、王種っつったか?」
「言ったな、それが?」
「なんで単独で王種相手にして半日で戻ってこられるんだ……。」
「たまたま依頼自体が近場で纏まってた。それと、想定外のハプニングとして女王鳥魔人と巨猪魔人王がたまたま1箇所に纏まってた。」
「そうか……そういや、朝聞きそびれたが、今日はソロか?」
「はじゃなくてからだな。限界を感じるまでは当分気楽なお一人様だ。」
「なるほどなぁ……全く、あの阿呆ガキどもは。間もなくパーティランクSにも届くとかほざいてたが、その実殆どお前におんぶに抱っこだったろうによ。」
「良いことも一つあるぞ。当分ストレスから来る胃痛に悩まずに済む。もう良いか?完全に日が落ちる前に報告したい。」
「あ、お、おう。悪い、引き留めて。」
門を抜け、勢い良く走り出す。