一章 再起11
「何者だ!」
私に剣を向ける部分鎧をつけた性別不詳の人物に、空の手を見せるようにしながら口を開く。
「冒険者だ。周りに転がっているあれらの討伐を依頼されていた。救援が遅くなって済まない、怪我はないか?」
「冒険者だと?」
「止めなさい、クレア。」
馬が繋がれていない馬車の中から、女の声が響く。動かなくなっていた理由に得心がいったところで、馬車の扉が開いた。
馬車から、明らかに身なりの良い少女が降りてくる。
「お嬢様、なりません。危険です。」
「我々に対して害意がある方なら、とっくにこの馬車ごと消し飛んでいるでしょう。その方の莫大な魔力が感じ取れませんか?……うちの護衛が失礼しました。私は」
「ああ、謝罪も自己紹介も結構です。そちらの護衛が仕事で私を威迫したのと同様、私も仕事でこれらを討伐しただけです。助けたのは成り行きですので礼も不要です。」
少女が名乗ろうとしたのを遮り、先回りして礼を断る。少女は眉をひそめて、再び口を開いた。
「ですが、助けられておいて礼の一つも無しでは父の商会の名折れです。」
「……では、こうしましょう。そちらの護衛に剣を降ろすように命じていただけますか。安否確認の為に一度降りただけなので、早くこれらの死体を回収して依頼を受けたギルドの支部に報告を終わらせたい。」
「……まるごと持ち帰るのですか?」
「ええ。……何か問題でも?」
「いえ……見たところ、かなり軽装でいらっしゃるので。」
「お気遣いなく。収容鞄があるので。」
「背嚢?見た限り、とくに変わったところは無いですし、それ一つに入るのはせいぜい頭一つ」
「ご心配なく、見かけよりずっと沢山入るんです。」
少女の言葉を遮るように、実際に飛竜一頭分の骸を吸い込みながら答える。
「貴様、妙な真似を」
「クレア!剣を下ろしなさい、この上私に恥をかかせる気!?」
「しかし!」
「二度は言わないわ。これは命令よ。」
「……畏まり、ました。」
苦虫をかみつぶしたような顔で、護衛の人物が剣を納める。
それを尻目に、次々と飛竜の死骸を回収する。
少し離れたところに落ちた一頭を収納したときに、見るも無惨に拉げた馬の亡骸を見つけ、私は無言で天を仰いだ。
「……このまま放っておくのもなぁ。」
別の収容鞄を取り出して2頭の亡骸を納め、馬車の方に戻る。剣は抜かないながらも、警戒を示す護衛から数歩離れたところにその収容鞄を置いて、さらに数歩下がる。
「なんの真似だ。」
「クレア!」
「責めないでやってください、それがその方の仕事です。貴女方の馬車を牽いていたと思われる馬の亡骸を回収しました。触れて念じれば中身は確かめられます。」
「クレア、確認してちょうだい。」
「……確かに、当商会の馬のようです。」
「持ち帰り、弔ってやってください。野晒しでは余りに可哀想だ。それと、彼等の代わりに、これを。八脚駿馬、起動。」
合わせて十のパーツを、コートから取り出して並べる。名を告げて、起動と唱えた瞬間、並べたパーツが独りでに動き出す。喧しい音を立てながら組み上がったそれは、八本足のある馬のような姿になった。
「凄い……これは?」
「自作した呪具です。かなり手間の掛かる物なのでさしあげることは出来ませんが、安全な場所までお貸しします。先程お渡しした収容鞄にパーツを入れて、セリアの冒険者ギルドに届けてくだされば此方で回収します。」
「セリア?奇遇ですね、我々の目的地も其処なのです。」