一章 再起8
巨狼との激闘から3時間ほど後、山岳地帯で私は瞠目し天を仰いだ。
「……なんで二体同時にいるんだよ。」
目の前にやや肥満気味ながらも筋肉質な猪頭の巨体の人型、その背後の空を翼を持った十歳ぐらいの少女が飛んでいる。
「ブルル……」
「イレギュラーが居ないだけまだマシだが、王種2匹は重いっつーの……猪野郎、お前は後だ。流転神の具足、起動。」
地面を蹴り、猪頭を無視して空中に飛び立つ。
空気を踏みつけ、文字通り空中に立って、鳥少女を睨む。
「さあ、てめーから潰してやるよ。鳥女。」
「キヒヒ、面白いな、ニンゲン。我らの縄張りを、土足で荒らすか。」
「えー、喋れるのかよ。やりにくい……なんて言うと思ったか?その羽、残らず毟ってやるよ。」
「キヒ、ユカイユカイ。我はケラエノ、女王鳥魔人なり。ニンゲン、貴様の名はなんだ?」
「アレン。アレン・オルガノン。呪具創師オルガノンの末裔。数世代に一度産まれる、万創の手の持ち主だ。」
「作り手が、我を殺すとほざくか!キヒ、キヒヒ!笑わせるぞ、アレンとやら!」
「言ってろ。王種相手だ、出し惜しみはしない……熾天使の翼、起動。全知の目、起動。巨人の双腕、起動。賢者の六芒星、起動。」
ゴーグルを目元に下ろし、腕輪が赤い燐光を放つ。六芒星の首飾りが蒼白く光り、背中から白い翼が三対生える。
「なりが変わった程度で、このケラエノを殺せるか!」
「見かけ倒しと思うか?なら、その油断がお前の敗因だ。」
二刀を手に持ち脱力する。その状態で重心を前に倒した、次の瞬間。一瞬でケラエノと名乗った鳥少女の前に移動して、腕を鞭のようにしならせ斬りかかっていた。
鳥少女が身体を反らしながら羽ばたくことで、その一閃は空を切った。
「キヒ、面白い。面白いぞ。」
「手早く沈めるつもりだったんだが。……仕方ない。こいつは出来れば使いたくなかったが……不滅の炉心、出力上昇。龍化の宝珠、起動。……先の発言を取り消そう。ここからは、正真正銘出し惜しみ無しだ。」
ゴーグルの奥で、瞳が縦に切り込みを入れたように鋭くなる。目の周りに血管が浮かび、両腕に鱗が生え揃う。
次の瞬間、再び一瞬で姿が消える。固い物がぶつかる鈍い音が響くと、鳥少女は錐揉みしながら山肌に向けて落ちていた。
「……加減が難しいな。出来るだけ原形を留めた状態で仕留めたいが……」
血のついたハルパーの柄頭に視線を落として、渋い顔をする。山肌を転がる鳥少女に目を向けて、追随するように高度を落とした。