一章 再起7
轟々と、大気を唸らせ双刃が踊る。
巨狼が振り下ろす前足が、大地を揺らし凹ませる。1時間ほど前まで平和だった森の一角は、今や見る影もないほどにズタズタに荒れ果てていた。
「なかなかしぶといな、図体がデカいだけはある。」
巨狼も私も息は荒く、動きも精彩を欠いている。それでも互いに殺意は薄れず、虎視眈々と隙を狙う。
睨み合う中、突然巨狼が動き出す。前足一本で身体を支え、その巨躯相応の長さを持つ刃物のような尾を、さながら大剣のように叩きつけてきた。
「捨て身……いや、決めに来た、か。なら、悪いが……私の勝ちだ。」
双刃剣を斜めに構え、強烈な振り下ろしを受け流す。踏み込みながら身を翻し、双刃剣を回して振り抜く。着地の衝撃を吸収するため曲げられた後ろ足を、狙い違わず中程から切り飛ばした。
後ろ足を失った巨狼が、堪らず体勢を崩す。その隙を見逃すことなく、頭部目がけて双刃剣を槍のように投げる。
巨狼の頭に深々と突き刺さり、真紅の巨体が地に崩れ落ちた。
「……ふいー。」
数秒睨みつけて微動だにしないことを確かめ、深く息を吐いて警戒を解く。真紅の骸に歩み寄り、柄の中程まで頭蓋を貫き突き刺さった双刃剣を引き抜く。数回回転させて血を払い飛ばしたそれを、袖に吸い込ませた。
「楽しめたよ、赤犬くん。お前は強かった。」
十字を切るような仕草をして、骸に一礼して、取り出した収容鞄に骸を回収する。他の骸もテキパキと拾い上げ回収して、己が付けた目印を辿って森を後にした。