序章 追放
「アレン、お前は今日限りでクビだ。」
そう告げる仲間、いや、かつて仲間だった男を、私は胡乱げな目で眺めていた。
「……本気か?」
「ああ、本気だ。言っておくが、俺の独断じゃないぞ?お前以外の面子で多数決を取った結果だ。」
「そーそー、あんた、前から目障りだったのよねー。」
「全くだ。俺様達の邪魔にしかならねぇ。」
「本当に良いんですか?アレンが居たから、今までの成果があるんですよ!?」
目の前で話しているかつての仲間達を見ても、私には特にこれといって響かなかった。
「総意と見なして構わないな?」
「くどいんだよ!さっさと」
「いや、委細承知した。」
「なら、さっさと出ていってよね。」
「良いだろう。ただし、出ていく前に……貸していたものを返して貰う。」
そう告げて、私は指を弾いて鳴らす。瞬間、追放を告げてきた男の右腕の簡素な金属の腕輪が、同調して罵倒してきた女が首から提げていた首飾りが、同じように見下してきた男が額に乗せていたゴーグルが、弾かれたように私の手元に飛んでくる。
「……なんの真似だ、アレン?」
「っ、そうよ!あたしの響魔のアミュレット返しなさいよ!」
「俺様の罠士のゴーグルもだ!」
「なんの真似も何も、これらは全て、私が作ってお前達に貸していたものだ。私が不要になったから追放するのだろう?ならば、私が作って貸していたものに頼るのは筋が違う。」
「……アレン、これも忘れてますよ。」
1人だけ難色を示していた少女が、身につけていたロザリオを差し出す。それを受け取り、私は静かに言葉を続けた。
「そうだな、セフィー。お前の言うとおりだ、忘れるところだった。そもそも、本来これらは私が使う前提で作っていた物だ。お前達に貸すために、お前達でも使えるように機能を調整していたに過ぎない。響魔のアミュレット?違うな、これの真の名は……賢者の六芒星。罠士のゴーグル?阿呆か。真の名は、全知の神眼。後、ジーク。お前に貸していた怪力の腕輪だが、これも真の名は別にある。その名も巨人の双腕。本来二つ一組で使うものだ。」
つらつらと真実を明かしながら、回収した呪具を身に着ける。名を告げながら装着するなり、それらの呪具が形を変える。
「虚仮威しのつもりか?」
「いや、私は事実だけを言っている。……まあ、もうお前達には関係ないことだが。では、ギルドで脱退手続きをしてくるとしよう。世話になったな、もう会うことは恐らくないだろう。では……諸君の未来に、精一杯の幸あれ。」
諸々の道具等を入れた雑囊を背負い、男に向けて一礼する。
姿勢を正すと踵を返して、そのまま元仲間達に目もくれず宿を後にした。