王宮からの招待状
ヴェルニカ王国騎士団長、フランツ・ラクールは恋をしていた。
その相手は恋文屋サリューの書き手、リサという女性だ。
リサに出会うまでの世界を思い出せないほど、フランツはリサに夢中になった。
というのも、恋文を受け取ったのだが、そのあまりにも美しい文章に、ストンと恋の矢がフランツのハートを射ってしまったのだった。
まぁ、その恋文というのもリサがただ和歌を書いただけなのだが、それを知る由もないフランツは、リサは自分に夢中なのだと勘違いし、舞い上がってしまっているのである。
堅物で有名だったフランツだが、あからさまに嬉しそうな日があることを騎士団員たちは見抜いていた。
決まって休みの次の日は、とても機嫌がよいのだ。
不審に思ったとある勇気のある団員がフランツに尋ねた。
「団長殿、先日から何か嬉しいことがあったようにお見受けします」
「う、うむ……実はその、美しい文をもらったのだ」
「は、文ですか」
「あぁ、特別に読ませてやる」
そう言って胸元から手紙を取り出したフランツは、宝物を見せるように団員に見せた。
「これは……かなり美しい文字ですね。文章もなんて綺麗なんだ」
「そうだろう、インクの色も愛らしいだろう」
そう自慢げに話すフランツは、いつもの怖い団長ではなく、一人の好青年に見えた。
団員が、仲間たちのその一件を話すと、たちまち話題になり王宮にまでリサの恋文の噂が出回ることになったのだった。
***
「へっくしゅん!」
大きなくしゃみを一つするりさ。紙に飛沫が飛ばなくて安心した。
「こりゃ誰か私の噂してるな」
「くしゃみと噂の何が関係あるんだ?」
「あぁ、私のいた国では噂されるとくしゃみが出る、なんて迷信があるんですよ」
へ~、面白いね。なんて他愛のない会話をしていると、ドアが大きく開かれた。
「恋文屋サリューのリサ殿はおいでか!? 」
大きな声で呼ばれ、思わずびくっとするりさ。
「は、はい…私ですけれど…」
「国王殿の使いで参った。明日、王宮に馳せ参じよ」
「王宮!?明日!?」
「こちらが招待状となる。では失礼」
そう言って使いの者は去っていった。
「なんで!?ケインさん! 私なんか悪いことしちゃいましたか!?」
「なんでだろうねぇ……でも招待状を貰ったってことは、招待されたってことでしょ?悪いようにはされないんじゃない?」
「こわすぎる!行かなかったら……?」
「なんらかの処罰が下されたりして」
「行くしかないのか……」
観念したリサは、王宮にいく覚悟を決めたのであった。
翌朝、新しく下した深緑のワンピースを着る。靴も念入りに磨いた。
「ケインさんは付いてきてくれないんですか?」
「悪いね、仕事がたてこんでて」
「はぁ~……そうですか」
落ち込むりさに、気を付けて行ってくるんだよ、帰りを待ってるからねと優しい言葉をかけるケイン。
店から王宮まで三十分ほどかかる。りさは今まで感じたことのない恐怖を感じていた。
王宮の入り口に立っている近衛兵に声をかける。
「あの~りさと申しますが、招待状をもらいまして……」
近衛兵は顔の表情を変えず、
「この先の階段を上がり、まっすぐ進んでください」
とだけ言った。
あぁ、階段を上るのがこんなにも辛いなんて。王族になんて言われるんだろう。全く心当たりがない。
階段を登り切り、まっすぐ進んだ先にひときわ大きくひときわ豪華な扉があった。
おそらくこの先に王族がいるのだろう。
扉の前に立つ軍服を着た兵士に招待状をみせる。
「リサ様のおつきです!」
兵士は扉を開けた。大きな声が王室に響き渡る。
リサは思わずお辞儀をした。
「面を上げよ。そなたが恋文屋のリサか?」
「はい、お初にお目にかかります」
顔を上げ、周囲をキョロと見渡すとフランツの姿が見えた。
りさに向かって微笑んでいるが、微笑み返す余裕はない。
「お主の恋文がいたく評判でな。王宮中がざわめいておる」
「それは、お騒がせして申し訳ございません」
「いや、謝ることはない。貴族たちがあまりにもお主に手紙を書いてほしいと言っておるのだが、どうだ、リサ。
王宮専属の書き手にならぬか?」
「王宮……専属?」