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おかしな依頼

雨が降りそうな空模様のとある日。

りさは慣れたように手紙をしたためる。

インクの色を変えてもいいか、ケインに聞いてみたところ問題ないとのことだったので、カロルに頼んでいろんな種類のインクを作ってもらったのだ。

りさが早速桃色のインクで手紙を書き始めたところ、ベルが鳴った。

お客様のお越しの合図だ。


「いらっしゃいませ~……げっ」


客は以前営業停止を言い渡そうとした王国騎士団のフランツだった。


「そういやそうな顔をするな、リサ」


今日は依頼があってきた、と少し恥ずかしそうに言うフランツ。

こうしてるとちょっと可愛いなと一瞬思ったが、第一印象が嫌な奴だったのでりさは中々好感を抱くことができない。


「で、依頼とはなんでしょう」

「て、手紙を書いてほしい。お前に」

「なんだ、ただの依頼ですか。それではお相手の情報を教えてください」

「いや、そうじゃないんだ。リサが書いた手紙が欲しいのだ」

「はぁ?」


とりあえず、掛けてくださいと椅子に座らせる。


「どういうことですか?」

「うむ……先日リサに書いてもらった文章だが、あまりに美しく……もっと欲しいと思った次第だ」

「気に入ってくれて結構ですけど、ちょっと今までにないケースなのでケインさんに聞いてきますね」


奥の執務室にいるケインに声をかける。断られるかなと思ったが、


「面白そうだし、いいんじゃない?」


と軽いノリで承諾された。


「ケインさんの許可取れたのでいいですよ、お受けします」

「本当か!?」


ガタッと音を立てて椅子から立ち上がるフランツ。

この人よっぽど私の文字が好きなんだな。

元居た世界にも「フォント萌え」の人もいたし、フランツもそうなんだろうと解釈したリサは、期日とインクの色は何色がいいか聞き出した。


「では、七日後にまたくるのでよろしく頼む」

「は~い。ありがとうございました~」


さて、締め切りが七日後ならもうちょっと後回しにしてもいいだろう。

そう思ったりさは締め切りの迫っている恋文を先にしたためた。


何枚か手紙を書いた後、時間にして一時間くらいか。

ケインから


「一緒に休憩しよ~」


と声をかけられたのでお茶の時間にすることにした。

その時、フランツの話題になった。


「リサ、気に入られてよかったね」

「そうですね、文字にファンがついたと思うと嬉しいです」

「う~ん、フランツが気に入ってるのは文字だけじゃないと思うけど……」

「はぁ?どういう意味ですか」

「う~ん……いや、なんでもないよ」


お茶を飲みながら濁されてしまった。

文字が好きという以外なんだというのだ。


***


フランツが来てから3日後。

そろそろフランツ宛の手紙をしたためないといけないと思ったリサは、どんな内容を書こうか悩んだ。

文章を気に入ってくれたといったし、今回も和歌にするか、と有名な一句を選んだ。

上手くかけたので、ケインに感想を求めた。


「ケインさん、どうですか?結構うまく書けたと思うんですけど」

「どれどれ……お、桃色で可愛いね」

「そうでしょうとも」

「内容は……う~ん、これ勘違いされるんじゃない?」

「勘違い?」

「いや、リサがいいならいいけど……面白くなりそうだしいいんじゃない?」


何やら歯にものが挟まったような言い方だが、書き直すのも惜しいほどいい出来だったので、この手紙を渡すことにした。


そして、約束の日。

朝一番にフランツがやってきた。とても嬉しそうで、待ちきれないといった様子だ。

そうしているとまるでクリスマス前夜の子供のようで、可愛いなと思うりさだった。


「リサ!手紙をもらいにきたぞ!」

「はいはい、こちらになります」


そういって手渡すと、目の前で読まれた。


「リサ……!これは……そういうことなんだな!?」

「は?何がでしょう」

「よい、よい、お前の気持ちはよく分かった。俺も返事を書くから楽しみにしていろ!」


そう言って、上機嫌で店から出て行ったフランツの背中を、りさはぼんやり見送った。


【君が行き日長くなりぬ山たづね

迎へか行かむ待ちにか待たむ】


そう書いたが、何か勘違いされたかも……?

もしかして私の気持ちだと思われた……?

一部始終を見ていたケインは大きく笑っていて、気づいていたなら言ってくださいよ!とケインの背中を2、3回ほど叩いたりさだった。


ちなみに、後日手紙の返事とバラの花束が贈られてきたのは、また別のお話。

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