魔法使いってほんとにいるんだ
営業停止を免れたりさは、仕事を再開しようと思い机に向かったがインクが切れそうなことを思い出した。
「ケインさん、インクの在庫ってまだありましたっけ」
「いや、もう少ないな……リサ、おつかい頼まれてくれるか?急ぎの恋文があって手が離せないんだ」
いいですよ、と答えてケインに手書きの地図を渡される。
店から徒歩3分くらいの位置にありそうだ。これなら迷わず行ける。
リサは金貨を受け取り、店を出て表に出た。
空は晴れ渡っていてとても気持ちいい空気が流れている。
スウと深呼吸をして歩みを進める。
地図には「魔法ドコロ」と書いている。……魔法?
この国って魔法があるんだ。まぁ異世界ならあってもおかしくないか。
そう思っていたらあっという間に魔法ドコロについた。
そういえば、インクを買うだけなのにどうして魔法が必要なんだろう?
疑問を抱きながら、重い扉を開ける。
店内は少し薄暗く、ろうそくがいくつもありそれが店内を照らしていた。
「すみませーん、恋文屋サリューのものですがー」
店員の姿が見えなかったので大きめの声でそういうと、奥から人がやってきた。
「いらっしゃい。いつもの?」
そういう男の顔は眠そうな眼でりさに確認する。
目が隠れそうな前髪、曲線を描いた髪は暗い茶髪のように見える。
暗そうな雰囲気だが、端正な顔をしているなぁとりさは思った。
「あ、はい。いつもの5つお願いします」
りさがそういうと店員はこくんと頷き、
「今魔力込めるからちょっと待ってて」
と言った。
「あの! 私魔法使いって初めて見るんです!近くで見学できませんか?」
「別にいいけど。こっちおいで、魔法陣は奥にあるんだ」
店の奥に案内されるりさは周りをきょろきょろ見渡す。
大鍋、干からびたカエルや鳥の羽などが雑然と置かれている倉庫のような場所を通り抜け、
魔法陣の書かれている部屋に通される。
「じゃ、インク瓶を魔法陣において、あとは呪文を唱えるだけだから。ちょっと離れててね」
そう言うと男は魔法陣に向けて手を掲げ、何やらブツブツと言い出す。これが呪文だろうか。
瞬間、辺りがまばゆい光に包まれた。
「……できたよ」
「すごい!すごい!これなんて魔法ですか!? 」
「 恋のまじないだよ。このインクで手紙を書くと、チャームが発動して、相手のことをより好きになるんだ」
「お兄さんすごい!魔法学校とか卒業されたんですか!?」
「まぁね……あとお兄さんじゃなくて僕はカロル。こんなに魔法を褒められるなんて初めてだ。君、名前は? 」
りさですと答えるとクックと面白そうに笑うカロル。笑うと意外と可愛いことにりさは気づいた。
「そうだ、カロルさん、インクの色を変えることはできますか?」
「色?できるけど……なんでそんなことするの?」
インクの色は黒だが、りさの住んでいた世界では色とりどりのインクが沢山あった。
きっと、色のついた文字で手紙を書いたらさらに評判になるだろう。
「じゃあ、今度またお願いします。店主に相談もしなきゃいけないし」
「あぁ、ケインによろしく。君面白いから、用事なくてもまたおいでね」
「いいんですか!?ありがとうございます!また魔法見せてくださいね」
「いいよ。そうだ、この飴玉あげるよ」
そう言ってカロルは瓶から黒くて丸い飴を取り出し、りさに渡した。
ありがとうございます、と言って受け取り、口に放り込むりさ。
「ちなみにその飴玉も、チャーム効果があるからね」
ガリ、と飴玉を思わず噛んでしまうりさ。
「う、嘘ですよね?」
「うん、嘘。魔法使いからものを貰うときは気を付けたほうがいいよ」
そう忠告するカロルは実に楽しそうだった。
チャーム効果がないと知ったが、なぜだか胸がドキドキする。
店主がイケメンだからだろうか。それとも初めて魔法をみたから?
胸に疑問を抱きながらも、りさは魔法を込めてもらったインクを胸に抱いて帰路についた。
感想などいただけると喜んで小躍りします。