山とエルフと精霊と
ヴェルニカ山の中にある静かな泉で、少年が水浴びをしている。
中性的な見た目の彼だが、胸板はしっかりしており、腕もよく見ると逞しい。
長い銀色の髪を、滝から流れる水で流している。少年はうっとりした表情だ。
(やっぱり水浴びは気持ちいいのー)
彼の名はアーサー。こう見えて600歳のエルフだ。
ゆっくりと水浴びをしていると、茂みからガサガサと音がする。
何事かと少年が見やると、人がいた。肩まである髪の毛先はゆるくウェーブがかっている。髪も瞳も、カラスの濡れた羽のように黒々としていて、どこかリスのような小動物を思わせる表情だ。
どうやら彼女は迷いこんでしまったらしい。
(おや、よく見たら先日世話になった人の子じゃのう。挨拶でもしてやるか)
「おお、人の子よ、この前はどうも」
「前!前隠してください!」
そう言ってすたすたと素っ裸で女の元へ歩くアーサー。
彼女の名はりさ。先日、道に迷ったアーサーを助けたことがある。
「人の子は細かいことを気にするのう、変な種族じゃ」
りさに文句を言われたので、渋々と服を着る。
「して、リサは何しにここに来たんじゃ?」
「今日はキノコを採りに山に来ました」
「そうか……そうじゃ!先日の礼に、キノコのよくとれるポイントを教えてやろう」
「ありがとうございます」
「早速案内してやろう」
そう言って二人は山の深いところへ向かう。一匹の大きな鹿があたりをうろついていた。
***
30分ほど山の中をうろついたであろうか。
「すまん、迷った」
アーサーがすまんすまんと謝る。
あまり悪びれてないように見える。
「えー!?そんなあ!遭難したってことですか!?」
「おかしいのう、確かこの辺じゃったと思うんじゃが」
(そう言えばこの人方向音痴だった……どうしよう、下に向かえば街に着くかな)
がっくりと肩を落として後悔するりさ。
それを見てさすがに悪いと思ったのか、アーサーは観念したように言う。
「しょうがないのう、ちとシャクじゃが精霊に道を尋ねるか。のう、山の麓へはどう行くのじゃ?」
精霊に尋ねるアーサーの姿を見て、りさは驚いた。
(精霊って本当にいるんだ!この人意外とすごいな)
りさの目に見えないが、アーサーの周りを精霊がふわふわと飛んでいる。
彼らは普段、森や山などの人のあまりいないところで暮らしている。
「りさはこの国のものではないだろう?」
「ええ、そうです」
「そうか。どうじゃ、この国は」
「そうですね、とりあえずエルフは私の国にはいないので、驚きました」
「そうかそうか。ワシ珍しいか」
あははと笑いあう二人。遭難中のため下山しているとは思えない明るさだ。
すると、一匹の鹿が飛び出してきた。
「危ない!」
アーサーが叫んでりさを後ろにかばう。
「コリャ!危ないじゃないか!」
アーサーがそう言うと、鹿は驚いて茂みに戻っていった。
「まったく……リサ、大事ないか?」
「は、はい」
見た目よりずっと大きな背中にどぎまぎするりさ。
(少年の見た目してるけど、思ったより男らしいところあるんだな)
りさは心臓がドキドキしているのを感じた。
***
「やったー!着いたー!」
「ははは、ワシも今回ばかりはヒヤヒヤしたわい」
鳥が鳴き、空は夕日に染まっていた。
無事にふもとに戻った二人。りさはほっと胸をなでおろした。
さて、家に帰ろう。
「またのー人の子よー」
そう言って手を振るアーサー。りさはあることにふと気づく。
(あっ肝心のキノコとってないや)
今日一日無駄にしたなと一瞬思ったが、エルフと精霊に会えたし、まあいいかと思うりさであった。
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