二人の急接近
授業の終わりを知らせる鐘が鳴り響く。
校内からは生徒がぞろぞろと出てきて、寮に戻ったり、図書館に向かったりとそれぞれ思い思いの場所へ向かう。
ここは国立ヴェルニカ学園。
りさは学園の歴史学教師、アランに手紙を届けるため学園内を歩いていた。
というのも、アランとりさは、文通をする仲になったのだった。
ある日、アランが日本の歴史に興味を持ち、りさと文通したいと言い出したので、りさは必死に授業出習った日本史を思い出しながら、手紙のやり取りをしているのだ。
アラン宛への手紙を書いたりさは、ヴェルニカ学園敷地内のはずれにある、草がぼうぼうと生えた庭の中に建つ小さな煉瓦造りの家を訪ねた。
煙突からは白い煙がもくもくと流れている。火でも使っているのだろうか。
りさが扉をノックをすると、のんびりした明るい声が中から聞こえ、古めかしい木製のドアがキィキィ音を立てゆっくりと開いた。
「いらっしゃい、リサさん。待ってましたよ」
「あはは、ありがとうございます」
「折角来てくれたんですから、お茶でも飲んでいってください」
「いえそんな、悪いですよ」
「いいんです、それくらいさせて下さい」
りさはお言葉に甘えることにした。
本に囲まれた少し乾燥した部屋をぐるっと見渡すと、天井まである本棚で壁一面覆われている。
本棚の中は厚さや色や高さがバラバラな様々な本で埋め尽くされている。
(これ全部読んだのかな)
りさが感心していると、水色で描かれた、草花の模様が美しい白地の華奢なティーカップに、温かい紅茶を入れて渡しにきたアランにりさは尋ねる。
「色んな本がありますね、ちょっと読んでみてもいいですか?」
「どうぞどうぞ、好きなのを読んでください」
そう言われ、りさは自分の身長よりも少し高い位置にある一冊の分厚い本を手に取った。
その本の表紙には「ヴェルニカ童話物語」と書いてあり、王様の絵が描かれている。
本の中身は挿絵付きで、お姫様が王子様と恋に落ちる話や、愚かなワイバーンがドラゴンに諭される話、ゴブリンが金塊を掘り当てて大富豪になる話など、興味深い話が沢山載っていて、りさは夢中になって本を読んだ。
そんなりさを見つめるアラン。
彼もまた本を手に取り読書に励んでいた。
***
りさは本をじっくり読んでいたが、はたと部屋が薄暗くなっていることに気づいた。
パッと窓を見ると外は茜がさしていた。
慌ててパタンと本を閉じる。
「すみません、長居してしまいました」
「いえ、リサさんの真剣な表情、素敵でしたよ」
どうやらりさが本を読んでいる間、横顔を盗み見していたらしい。
りさは、照れ隠しで慌てて本を棚に戻そうとする。
すると、何冊もの本が上から音を立てて落ちてきた。
「危ない!」
いつもの緩慢な声でなく、鋭い声で叫ぶアラン。
咄嗟にりさを床に押し倒し、覆いかぶるようにして彼女を本から守る。
2人の呼吸が近く感じる。
(わ、アラン先生の瞳の色ってほんとに綺麗…)
はちみつ色の瞳を眺め、りさはぼんやりそんなことを考えていた。
しばし見つめ合う2人。
どれくらいの時が経っただろうか、我に返りアランがパッと離れる。
「すみません、近かったですね」
「いえ、庇ってくれてありがとうございました」
2人の顔が赤いのは、窓からさす夕陽のせいか、それとも───?
***
「では、お邪魔しました」
「今度は僕がお手紙を渡しにそちらに向かいますね」
そう言って手を振って別れた。
パタンとドアが閉まる。アランはまだ胸が高鳴っていた。
(リサさんの顔、近かったな……僕、今日のこと思い出して、夜眠れないかもしれない───)
ドキドキいう胸を服の上からぎゅっと抑え、顔を真っ赤にするアランであった。
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