空を飛ぼう!
恋文屋が定休日の、とある日の朝。
りさはドラゴン調教師、ルイを訪れていた。
小屋のドアをトントンとノックすると、明るい表情の彼がりさを出迎える。
「いらっしゃい、りさ。ねぇ、今日はワイバーンを見に行かない?」
「ワイバーン?」
りさは聞き慣れない単語に首をかしげる。
「ああ、この先の森を抜けると、ワイバーンの飼育場があるんだ。そこのブリーダーと知り合いでね。どう?行ってみないか?」
「うん、いいよ!面白そう!」
そう言って2人はワイバーンを見に森の中を歩く。
ある程度伐採されているため、太陽の光が木々の間からさす。
さわやかな風が吹き抜け、木漏れ日が気持ち良い。
小鳥たちの歌声が聞こえ、野うさぎが駆けていく姿も見えた。
りさはちょっとしたピクニック気分を楽しみ、森の香りを楽しもうと深く息を吸う。
「ところで、ワイバーンって何?モンスター?」
「え、リサ知らないで着いてきたの?心配になるなぁそういうとこ。ワイバーンってのは簡単に言えば空飛ぶでかいトカゲさ」
「へえ、翼を持ってるの?」
「ああ。各国の色んな観光地で、飛行船代わりとしてワイバーンが使われてるよ」
「それは知らなかったな。ところでドラゴンとワイバーンって何が違うの?」
りさがそう聞くと、ルイは大きく驚いた。
「ドラゴンは知性的だけど、ワイバーンは動物と一緒さ。常識だよ」
「へえ……そんなドラゴンを調教できるなんてルイすごいね」
「まあね」
そんな事を言っていたら、森を抜けた先のワイバーンの飼育場に着いた。
***
広い草原にワイバーンが何頭も放たれていて、翼には紐替わりの縄をつけられている。
勝手に飛んでいかないようにそうしているのだろう。
(痛くないのかな)
りさはワイバーンをみて思った。
「おやっさん、久しぶり。来たよ」
「おお、ルイ!隣の彼女は新しい恋人か?」
ルイと、口髭を生やした恰幅の良い男が挨拶をする。
「ちゃんと恋人に見えてる?嬉しいな」
「ルイとはただの友人です」
「そりゃ悪かったな、お嬢ちゃん。さあ、今日は好きに見学していってくれ」
そう言われ、ワイバーンを眺めるりさ。
腕にあたるところが翼になっていることに気づく。鱗も鈍く光っている。確かにこれはドラゴンとは大違いだ。ドラゴンの鱗はもっと宝石のようにキラキラと輝く。
「どう?リサ、楽しい?」
「うん!私の国にはいなかったから、すごく珍しくて興味深いよ」
「そう、それならよかった」
ニコリと笑うルイ。
そんな二人にブリーダーが声をかける。
「どうだいお二人さん、せっかくだから空でも飛んでいかないか?」
「え!?いいんですか!?」
「ああ。もうすぐ出荷する大人しいやつがいるからそいつに乗せてもらうといい」
ブリーダーは一頭のワイバーンを連れてきた。
大きさは大型バスほどあり、近くで見たりさは少し怯えてしまって、思わずルイの背中に隠れてしまった。
「ハハハ!りさ、怖くないよ」
「ご、ごめん。思わず」
「慣れないものは怖いよね。大丈夫、じきに慣れるよ」
そう言って、りさをふわりと抱いてワイバーンに乗せると、ヒラリと自分もワイバーンに跨り、りさがちゃんと自分の背中にいるか確認する。
「それじゃあ準備はいい?いくよ!」
ルイは足でワイバーンの横腹を軽く蹴った。すると、ワイバーンが翼を数回はためかせ、そしてふわりと離陸した。
ぐんぐん青空を駆け上るワイバーン。風を切って飛ぶワイバーンのスピードはとても早い。
りさは
「すごい!私たち空を飛んでる!」
とはしゃいでいる。
「りさ、落っこちないようにちゃんと俺の腰を掴んでてね」
「うん!ねえ!ルイ!空が近くて綺麗!」
思わず子供のようにはしゃぐりさ。
ワイバーンに乗って空を飛ぶなんて経験、日本ではできないので無理もない。
「リサ、危ないからもっとぎゅって掴んで」
ルイが顔だけりさに向けて言う。
(そう言われるとちょっと恥ずかしいな)
だが、落ちるのは嫌なので大人しく言うことを聞くりさ。
見た目は華奢だが、なかなかどうして触れるとゴツゴツして逞しく、男らしさを感じる。
ルイの身体から熱を感じる。
ルイの持つ熱と自分の持つ熱が溶け合ってしまうようで、りさはドキドキした。
(鼓動が伝わりそうでやだな。
この鼓動は空飛ぶことに興奮してるから?
それとも身体を密着させるのが恥ずかしいから?)
ドキドキしながら、時間にしておよそ10分の飛行体験は終わった。
***
空を飛び終え、地上に降りる2人。
「はぁ、凄かった!まだ胸がドキドキしてる」
「どれどれ?」
そう言って、ルイはりさの胸に耳を当てる。驚いたりさは、思わずルイの頭を叩く。
「ちょっと!何するの!?変態!」
「いてて……うーん、そこまで気を許されたわけではなかったか」
「当たり前でしょ!?」
「ごめんごめん、リサ、許して?」
「許さない!」
そんな二人を見てブリーダーが声をかける。
「お前さんたち仲がいいねぇ。どうだい、本当に付き合っちまえば」
「おやっさん、ナイスアイデア」
「どこがよ!有り得ませんから!」
そう言って三人は笑いあった。
りさはまだ、若干胸がドキドキしていたが、空を飛んだ余韻だろうと思い込むことにした。
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